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2013年10月10日 (木)

十月歌舞伎「義経千本桜」夜の部

105日 十月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)
ちょっと気の重かった「義経千本桜」、すっごぉ~くよかった。ほんと、よかった。「義経千本桜」ってこんなに面白かったっけ、と思ったのは権太とか久しぶりに見たからかも。四の切は澤瀉屋でしょっちゅう見ているけれど、菊五郎さんは久しぶりだし。
「義経千本桜 木の実・小金吾討死・すし屋」
仁左様の権太が絶品だった。
泣いて泣いて泣いた。隣は外国人の男性
2人で、イヤホンガイドを聞いて、しょっちゅう声を上げて笑っていたが(とっても楽しそうで、私としては嬉しかったです)、さすがに悲しい場面では笑わなかったものの、泣いている私を見て、なんでこの人泣いてるんだろうとちょっととまどっているような空気が感じられた(自意識過剰?)。英語のイヤホンは借りたことがないので、日本人の心の機微をどう解説しているのか、一度試してみたい(もっとも、こっちが英語の細かい表現とかわからないだろうけど)。

「木の実」の図太さ、狡猾さ、ドスのきかせ方、小金吾の悔しさが私にもきりきりと伝わるような小憎らしさである(仁左様は時々小悪党には立派過ぎると思うことがあるが、今回の権太は、小悪党であることがすんなり受け入れられた)。それが一変、倅に丁半を教えている姿は、子供に甘い嬉しいオヤジである。そして女房にけしかけられた倅に「一緒に家に帰ろうよ~」とせがまれると、でれでれ顔。このギャップがたまらんのである。女房にも惚れていて、からかいながら楽しそうに一家そろって帰路に着く姿は、権太自身のいがみのために世間さまからは嫌われていても女房・倅だけは自分を愛していてくれる、そんな家族の濃密な空気が伝わってくる。その先の悲劇を知っている身には、夫婦喧嘩でさえ「今が一番幸せな時なんだ」と思えて、もううるうるしそうになるんである。
権太のすべての行動に意味がある。というか、一つ一つがあとに繋がる。権太の一つ一つの言動に仁左様の心が丁寧に込められていて、今回は格別にそんな感じがした。そしてそのせいか、今回は維盛側と権太側2組、いや権太側を権太自身の一家と両親一家に分ければ3組の家族の悲劇が一つの運命の中で浮き彫りになった気がした。これまでは、権太一家の悲劇のほうに心を奪われていた。それが今回は権太の死に涙を流しながら、維盛一家もまた別れの悲劇に襲われているのだ、ということが妙に心に残った。
母親をだますために、葉蘭の水で涙を装う愛敬が、後に本物の涙を隠して装う悪ぶりとの対比として効いてきた。連行した若葉の内侍と六代君実は小せんと善太郎を蹴立てるようにして手拭で汗を拭くふりをして涙をぬぐう、松明の煙(本物の松明を使っていた)が目に染みるふりをして涙を流す、鎌倉へ引き立てられる2人と目と目で別れを告げる。父親に喜んでもらおうと、息せき切って報告しようとした瞬間、父親の刀が刺さる。思わず「はっ」と息を呑む場面であった。倅・善太郎の竹笛(「木の実」でさりげなく倅から取り上げた場面もこうして、後に効いてくるのだ。よくできている)を吹いて維盛一家を呼ぶ場面では、すでに呼吸は苦しく、笛の音が細い。これでは聞こえまいと、最後に渾身の力を込めてぴ~っと鋭い音をさせる。それは、犠牲にした倅への詫びのようでもあり感謝のようにも聞こえた。

秀太郎さんの小せんがよかった。夫の悪行を嘆きながらも「今日は一緒に家に帰ってほしい」という願いを倅に言わせて成り行きを窺っている姿に、小せんの生活感、権太を大きく包む愛情がひしひしと感じられた。2人の間に通う情は濃密というよりは、細やかに育まれたものだという気がした。
孝太郎さんのお里は恋に浮き立つ少女の色気と可愛らしさがよく出ていた。お里をすっかりその気にさせておいて、二世の固めは拒む維盛はちょっとひどい(現代の感覚で見てはいけない?)。本当のことを知ったお里がとても哀れだった。
時さまは、弥助から維盛にすっと変わる瞬間が面白かった(ちょっと語弊があるかな。興味深いという意味の面白さ)。上品でいかにもおっとりとした公家でありながら武将としての矜持のようなものも感じられたが、私は維盛という役がそんなに好きではないこともあってか、この後の静御前のほうが断然好き。
東蔵さんの若葉の内侍は寡黙ながらここに至るまでの苦労が感じられ、それもあって、こちらの一家の別れの悲しみがに気づいたのかもしれない。
歌六さんはすっかり老け役役者になっちゃって、確かに老け役はとても味があり上手なのだが、二枚目もたまには見たいな~なんて。
竹三郎さんは、息子を溺愛するあま~い母親ぶりが安心して見ていられた。
我當さんの梶原はあたりを払うような大きさである。
小金吾の梅枝クン、「木の実」ではだまされているとわかっていながら、もめごとを避けるようにとの若葉の内侍の意を汲んで金を差し出す悔しさ、「討死」ではやさしい外見ながらきりっとした立ち回り、多勢に無勢で無惨な最期を遂げる悔しさ、そういうものが体から発せられていたように思う。でも、結局その死が役立ってよかったね。
市蔵さんの猪熊大之進は、わずかな出番ながら存在感が大きい。
適材適所の芝居は、本当に面白い。
「義経千本桜 川連法眼館」
佐藤忠信の出は重々しくカッコよくて好きである。ふと、あの裃姿は、これから大事な場に赴く男性がきちっとスーツで決めている感じと重なって好きなのかもしれないと思った。
菊五郎さんの狐はケレンの動きはたしかに苦しいが、71歳の身でできることをきちんとやっている姿に感動した。そして狐の哀れさ、親を思う切々たる情が胸を打つ。澤瀉屋型を初めて見てからは、確かに音羽屋型は地味で少し退屈かもと思うこともあった。ところが、今回は全然退屈せずにとてもとても面白かった。最後、桜の木をつ~とリフトアップされていく姿には、宙乗り並の興奮を覚えたくらい。
狐が操る荒法師は今回は3人だけ。これまで見た中で一番少ないのではないだろうか。ちょっと寂しいが、ユーモラスな動き、立ち回りは見応えがあった。
義経の梅玉さんはこれぞ義経。時さまの静は、久しぶりの赤姫を見たようで(赤姫、似合う)、すっごくよかった。
<上演時間>「木の実・小金吾討死」55分(16151710)、幕間20分、「すし屋」90分(17301900)、幕間30分、「川連法眼館」70分(19302040

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コメント

ひょっとして1Fの16列の13・14あたりにいた2人ではないですか??
私は17列の18付近でしたのでオーバーアクションが目に入っていました
楽しんでいる感じで悪い印象はなかったですけど・・・特に舞台に向かって左側の方は右側の方に時々説明をしていたようです
秀太郎さんの出で思いっきり大きな拍手をしたら隣の女性も気合いの入った拍手でしたので、ちょっと嬉しいような恥ずかしいような感じでした
私も「すし屋」には胸が熱くなりました
仁左衛門さんは右手を庇う演技でしたが、それがまた胸を打つ感じでしたし
松嶋屋さんの権太には維盛の絵像が出てこないのですよね
そうそう「たちまち変わるおんよそおい」は維盛の見せどころですよね
四の切もまったく同意見です
ケレン味は体力的には厳しい分、それをカバーして余りある「芝居心」で魅せる忠信でした


投稿: うかれ坊主 | 2013年10月11日 (金) 00時43分

うかれ坊主様
ピンポ~ン、正解です。
うかれ坊主様と本当にニアミスだったんですね。
ええ、外国の方はお2人ともとても楽しんでいる様子で全然イヤな感じはないどころか、嬉しく思ったほどでした。私の書き方が悪かったようでごめんなさい(誤解のないように、ちょっと追記しました)。笑う場面では的確に笑っていたので、セリフが全部英訳されてるのかしらと思ったくらいです。おっしゃるように、私の隣の方のほうが少し歌舞伎をご存知のようで、説明している様子でした。
リピートしたいのですが、1回に気持ちを集約させたほうがいいのかなあ…と未だに迷っています。
そういえば、権太が維盛の絵像を見る場面なんてありましたっけね。忘れていました。

投稿: SwingingFujisan | 2013年10月11日 (金) 18時34分

SwingingFujisan様とどこかで、すれ違っていたかもしれませんね

「すし屋」で権太が門口で、弥助を呼び出し、懐から出した維盛の絵像を取り出して、「あっち向けそっち向け」とか言って、弥助が維盛本人かどうか確認する場面が東京式のすし屋にはあります(河内屋さんもあったかもしれません 市川右近の時もあったような、日本にいないので詳細は確認できませんが・・・)
「木の実」で荷を間違えた時に絵像が入っていた解釈ですが、松嶋屋さんの演じ方はそんなことはあり得ないとしているはずです

投稿: うかれ坊主 | 2013年10月11日 (金) 19時34分

うかれ坊主様
本当ですね、どこかですれ違っていたでしょうね、きっと。
絵像ははっきりとは覚えていませんが、そういう場面を見たことがあるような気もします。松嶋屋さんは、できるだけわかりやすく演じているようですね。たしかに、絵像が入るとわかりにくいかも。

投稿: SwingingFujisan | 2013年10月11日 (金) 21時38分

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