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2013年10月12日 (土)

「一谷嫩軍記」「春興鏡獅子」@国立劇場

1011日 「一谷嫩軍記」「春興鏡獅子」(国立劇場大劇場)
昨日は頭痛デーで、目は眠いのに頭が眠くなくて、1日ただだらだらと無為に過ごした。今朝も頭痛が残っていて、国立やめようか(今週「ブンとフン」だと思ってたら国立だった)、見るのは鏡獅子だけにしようか、さんざん迷って、結局痛みどめを飲んで全部見ることにした。
お芝居の感想の前にまずは、国立劇場2階で開催されている、小平氏平櫛田中美術館展から。
国立劇場ロビーの鏡獅子像が田中の作品であることは周知だが、その制作過程がわかる展示が今2階で見られる。
まずは、ポーズを取る六代目菊五郎の写真。昭和12年頃のものらしい、貴重な写真である。これをもとに、田中は裸形の試作を作った。これが素晴らしい。日本人の地に根差した力強さというか、筋肉のしっかりした太い足は逞しく、おなかは少し出ているものの、メタボではなく、中肉の力士を思わせる。実に美しい裸像である。あの重く豪華な衣装の下にはこのように美しい肉体があったのか(裸像といっても、西洋彫刻みたいじゃなくて、ちゃんと褌はしめている)。この力強い像はぜひご覧いただきたい。
写真で見る制作過程の2番目の写真は「内グリ作業」。木の内部を刳りぬく作業。そしてその様子を点検している田中。4番目は胎内銘を墨書する田中。5番目が彩色担当平野敬吉の墨書。6番目は剥ぎ合わせ。7番目がホゾのつくりだし。そして漆箔、彩色、隈取と進んで完成となる。
確か頭部の像もあったように思うが、実は裸形の彫刻に魅せられて他はあんまり覚えていないから、これで終わり。
「一谷嫩軍記 陣門・組討」
一度見たことがあること、遠見の場面があったことは思い出したが、ほぼ忘れていた。だから、新鮮な気持ちで見ることができた。
初陣のはやる気持ちで陣門にやってきた小次郎直家(「陣屋」では小次郎としか出てこないから「直家」っていう名前だったんだと初めて知ったような気がする)。中から聞こえる雅な管絃に感動する。風流を解するその心が敦盛を助けることにつながったのかもしれない。
小次郎を追ってやってきた熊谷は鎧兜をつけている。幸四郎さんの顔がとても大きくて立派。歌舞伎は顔が大きくなくっちゃ。平山役の錦吾さんは味方ながら小悪役という感じで、最近悪役も身についてきたなと思った(以前は真面目さが悪役の邪魔をしていた)。
さて、陣門に入った熊谷は小次郎を抱えるようにして出てくると、倅小次郎が手負いとなったため陣屋へ連れ帰ると平山に告げ、急いで花道を去る。小次郎は兜で顔を隠しており、ああ、これが小次郎ではなく敦盛なのだとわかった。しかし、次の組討で辻褄が合わなくなり混乱した。平家の御座船に戻ろうとする敦盛を呼び戻す熊谷。組討となり、敦盛を組み伏せた熊谷は相手が敦盛と知り、殺すのをためらう。という一連の流れは、既に敦盛を救い出した後のことであり、相手は小次郎ということになる。平山がいつから見ていたかわからないが(最後列なので花道は半分まで。でも半分も見えるのは国立の優れたところだ)、平山のところまで声が聞こえないとしたら、小次郎は少なくとも父親との会話では敦盛を装うことはないと思ったりもした。
でも、よくよく考えたら、ここで親子の別れを観客に見せては、陣屋という物語が続く意味がなくなる。この後に陣屋があるために、ここは敢えて辻褄を無視して観客に敦盛の最期として見せたのであろう。
染五郎さんの貴公子ぶりが際立っており、熊谷に討たれるために刀をはずし、鎧兜を脱ぎ手を合わせた姿は清々しい薄幸さを感じさせる。頭の混乱の中でこの場面に感動したのは染五郎さんがよかったからだと思う。また、1年と1カ月ちょっと前のあの事故が思い出されたのは、「一時は覚悟した」という幸四郎さんの気持ちが熊谷に重なったからかもしれない
遠見の子役に客席ざわめき、敦盛の「いでや組まん」、熊谷の「げにもっとも」には拍手が起こった(ここは、子役の声で言うのだ)。遠見が終わると、敦盛の馬が出てきて、花道で本舞台の浜をちょいっと振り返る。脚を軽く曲げて斜めに振り返る様には愛嬌があって、客席がウケた。
平山は臆病者のくせして敦盛の妻玉織姫に横恋慕し断られると簡単に手にかける武士の風上にも置けぬヤツだ。ほんと、こいつ、いつも余計な時に姿を現す(陣門前でも、こいつ、いなくてよかったのに。玉織姫が敦盛を探しているところにも出てこなければよかったのに)。玉織姫(笑也)は長刀をもって浜をさまよっていたのに、平山に斬りかかる時には長刀を置き、短刀か何かで向かっていっていた。どうして長刀を使わないのよ。
笑也さんの透明感が玉織姫の哀れさを強調するようだった。

「熊谷陣屋」
序幕で頑張ったので、陣屋のほうはところどころ、全体として6割くらいは寝てしまった。だからまともな感想は書けないのだけど、「陣門・組討」があったからこそ、陣屋での熊谷の悲しみ・無常観が際立つのだと思った。我と我が手で息子の首を斬らなければならなかった苦しみ悲しみはいかばかりかとこちらの胸もふさがる思いだが、それだけでなくやはり戦そのものに対する悲しみが大きいであろう。幸四郎さんの熊谷には泣かされるのではなく、そういうことを考えさせられた。
栄津三郎さんの送り三重はいいなあ。
魁春さんの相模、高麗蔵さんの藤の方、よかった。
「春興鏡獅子」
染五郎さんの弥生、きれいでかわいい(歌舞伎は顔が大きくなくっちゃ、って言ったけど、女形は顔が小さいほうがきれいかも)。そして元気がよいような気がした。飛鳥井と吉野の手を振り払う時も、元気がよかったし、踊りも女形の柔らかさというよりは元気がよく見えた(きびきびした感じかな)。でも、それは全然イヤじゃなくてむしろ、若い息吹を感じて好もしかった。二枚扇の扱いはイマイチだったが、私には獅子になってからよりも弥生のほうがいいかも、と思われた。ジャンプは高く、きっぱりと動き毛の振りはきれいだと思ったのに、獅子よりも胡蝶のほうに目がいって、獅子は視野の隅で眺めていたからかも。
今回の私の眼目は胡蝶の2人。團子クンと金太郎クンでは体の大きさが一回りは違うけれど、バランスが悪いとは思わなかった。2人とも可愛らしくて、金太郎クンは美形がますます美形、團子クンはワカタケルの時よりずっと可愛かった。踊りは2人とも習ったことを一生懸命やっている感じだが、金太郎クンに一日の長があるのは当然かもしれない(体の柔らかさとか、ね)。金太郎クンがリードして團子クンがついていっているという印象を受けた。でも團子クンは物怖じしない堂々とした踊りで、不思議な色気があったし、芝居気もあるんじゃないかな。「團子という名前にもだんだん慣れてきました。歌舞伎の役者として呼ばれているんだと思うとうれしいです」と筋書きに團子談が出ているが、この言葉を見てうるうるしてしまった。また金太郎クンは「大きくなってから、『あの時、一緒に胡蝶を踊ったね』と二人で言えるように頑張りたい」と言っていて、こちらにも熱いものを感じた。團子クンは可愛では済まなくなったときが勝負である。その時のためにも團子クンにとっては初めての大きな役と言っていいであろうこの胡蝶でぐんと成長して、これからどんどん舞台に出てほしい。やっぱり役者は舞台に出てこそ、である。金太郎クンも、舞台に出ていない時は幼いおっとりとした普通の男の子なのに、ひとたび舞台に上がると立派な役者であることに感銘を受ける。金太郎クンにも色気と芝居気がある。
澤瀉屋から渋井家老に欣弥さんが出ていたのが嬉しかったし、團子クンの後見に猿四郎さんがしっかりついていたのが頼もしかった(プログラムに後見の名前が出てなかったけど、国立っていつもそうなんだったっけ)。
2人のかわいい胡蝶を見られて、いい気分で帰ってきた。
<上演時間>「一谷嫩軍記」序幕75分(12001315)、幕間35分、二幕目85分(13501515)、幕間15分、「春興鏡獅子」55分(15301625

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コメント

こんばんは。
今月、ちょっと国立には行けないかなーと思っているんですが、平櫛田中美術館展があるとは! これだけ見せてくれないかな(コラッcoldsweats02
私は小平のじゃなくて、彼の出身地である岡山県井原市の田中美術館には行きました。そこで裸形の試作像の絵はがきを買ったんですが、これ、誰かに送るのもはばかられ、ずっと持ってますbleah

投稿: きびだんご | 2013年10月12日 (土) 21時29分

きびだんご様
こんばんは。
2階の小さなスペースなんですが(いつも、ちょこっと展示をするところ)、そこに何点か鏡獅子関連の作品と、制作過程の写真が展示してありました。2階に行かないと見逃してしまいそうな小さな展覧会です。
プログラムにもポーズををとる六代目と裸形の試作等の写真が、平櫛弘子さんのお爺様への敬愛に満ちた文とともに出ています。この記事だけでも今回のプログラムは価値があると思いました。裸形の絵ハガキ、確かに誰かに送るのはちょっと…かもですねsmile
今回、この展示を見たことで岡山の田中美術館にも行きたくなりましたわぁ。でも私はなかなか岡山には行かれないので、まずは小平から、かな。
国立、いらっしゃれるといいなと思っています。團子×金太郎だけでも。

投稿: SwingingFujisan | 2013年10月12日 (土) 23時40分

SwingingFujisanさま
亀コメ失礼いたします。
「陣門・組討」で、染五郎さんがあの姿を消した奈落から1年2ヵ月ぶりにせり上がって来たのを観て涙があふれたという声をたくさん聞きました。
私は「春興鏡獅子」だけでしたが、本当にこれを観られてよかったと思います。

團子くん、金太郎くんの胡蝶、可愛いかったですね。
SwingingFujisanさまがお書きになっていらっしゃる通り、習ったことを一生懸命、目を見合わせ息を合わせて踊っている姿が微笑ましく、目を細めて見入ってしまいました。
「あの時、一緒に胡蝶を踊ったね」と二人が言い合えるくらい大人になってまた別の演目で共演するようになるまで、私もがんばって長生きしなくては(笑)。

投稿: スキップ | 2013年10月20日 (日) 10時53分

スキップ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
「春興鏡獅子」をご覧になれたこと、私もとっても嬉しく存じます。團子・金太郎クンの胡蝶を見られたことは、お互いいい記憶として残りますねhappy01 とくに突然歌舞伎の世界に飛び込んだ團子クンの頑張りに胸が熱くなりました。また金太郎クンも先輩として立派に踊っているのが可愛くて、一生懸命応援しました。2人で切磋琢磨してまた共演してほしいですね。私は2人が大人になった頃にはどうなっているかわかりませんが、元気でまだ歌舞伎を見ていられればなあと思っています。

染五郎さんが国立に帰っていらしたのは本当に嬉しいことですね。歌舞伎への復帰も含めて、よくぞ戻ってきてくださった、とあらためて染五郎さんの努力に頭が下がりました。でも私はむしろ幸四郎さんの気持ちになってしまいましたcoldsweats01

投稿: SwingingFujisan | 2013年10月20日 (日) 22時27分

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