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2013年10月18日 (金)

ドラマチックで面白い「渡海屋・大物浦」:歌舞伎座昼の部

1018日 十月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)
「それからのブンとフン」の感想がまだなんだけど、仕事やら何やらでなかなか手が着けられなくて…。ぐずぐずしてるとこっちもいつになるかわからないので、先に歌舞伎をざくっと。
今月の歌舞伎鑑賞は今日で最後、まだ無理だろうなあと試にきいてみたら、なんと、今日から筋書きに舞台写真が入ったとのこと。嬉しかったぁ。
夜の部を見た時も「義経千本桜」って面白い、と改めて認識したのだが、昼の部もドラマチックでとても面白かった。ただ、今日は観劇中のお喋りが多くて閉口した。ご本人たちは小声で喋っているつもりだろうが、あっちでもわ~ん、こっちでもわ~んと響いて、すっごく気になった。通常、演奏の場面でお喋りが多く、セリフが始まると静まる傾向にあるのだけれど、今日はそんなのお構いなし、いつでも、でちょっと目に余るじゃない耳に余った。
「鳥居前」
若手による鳥居前。前半はかなり感情移入した。主君のためによかれと思ってしたことが義経に叱られた弁慶(亀三郎)の悔しさ悲しさ。弁慶と一緒にちょっと泣きそうになった。
そしてどこまでも義経についていきたい一途な静。梅枝クンの「よよ」とした感じが切々としてとてもよかった。夜の部の小金吾もいいと思ったが、こうして女形を見るとこっちのほうが断然いいと思うのは、夜の部の時さまの維盛→静と同じ。そういえば、親子で静を競演(?)しているんだ。
菊之助さんの義経はきれいで大将としての大きさがある。
四天王が巡業仲良し組の播磨屋坊ちゃんズと隼人クンなのが嬉しかった。中ではさすがに歌昇クンが優れているように見えた。そんなに差がないようにも思える四天王だが、面白いものでどこかに光るものが見えるのである。
笹目忠太(亀寿)はセリフがあまり義太夫に乗っていないようだったのが気になった。それとちょっと硬いかな。
松緑さんは荒事に合っていてかっこいいのに、意外にも華奢に見えた。あの鬘は普通、役者の顔をとても大きく見せるのに、松緑さんの場合は身長とのバランスがちょうどよかったことから、やっぱり顔がかなり小さいんだなと思った。私はこの忠信は好きだ。セリフのあの変なクセがなくなればもっともっといいのに、それが残念。

「渡海屋・大物浦」
幕が開いたら、渡海屋の店先に梅之さんじゃなかった、改め梅乃さんがいて、すっごく嬉しかった。京紫さんとおっとりいそいそと働いていた。
芝雀さんがきれいで、お柳から典侍の局にさっと変わったところの見事さに惚れ惚れした。そして、これだけ感情豊かで細やかな典侍の局は初めて見たような気がする。劣勢を知り、官女たち(やはり名題披露の千壽さんが出演)と嘆きながら覚悟を決めるくだりには涙が出た。いくら頑張っても女に戦はできぬ、不安の中で安徳帝を守りつつ成り行きを嘆くばかり。それでも平家の誇りを胸に次々と海に飛び込む女たち。ここがこんなに悲しかったのは芝雀さんの溢れる思いが伝わってきたからだろう。
吉右衛門さん、うまい!! おこがましいが、どうしてもそう言いたくなる。銀平は大きくてかっこいい。出からして圧倒的だ。相模五郎と入江丹蔵をあしらう心憎いほどの余裕と大きさ。知盛になってからのスケールの大きさ。とにかく大きい。満身創痍の気魄がすごい。大きな役者の大きな人物造型を堪能した。安徳帝の諌め(子役ちゃんのしっかりしたセリフには拍手が起きていた)で恨みを捨てる覚悟をした知盛の心情、壮絶な最期にはかなり泣けた。私はこれまで知盛は絶対仁左様と思っていたが、今回見て吉右衛門さんの知盛も大好きだと思った。
ここでは義経が菊之助さんから梅玉さんにかわったが、四天王はそのまま若手が残った。4人は吉右衛門さんの演技をしっかり見つめていた。
梅玉さんの義経はやっぱりベスト義経である。知盛に対する哀悼の念と尊敬の念がその表情から窺えたのが印象的だった。
ドラマチックな面白さで、あとで2時間もあったんだと驚いたほど、その長さを感じなかった。
「道行初音旅」
花道の道行はなくて、浅葱幕が振り落されると藤十郎さんが板付きでいる。若い。美しい。そして鼓の音に反応してスッポンから狐の菊五郎さんが登場する。この登場が見事だった。一瞬にして狐であることがわかる。ラストの笠投げはバッチリ。
逸見藤太の團蔵さんを含め、この3人を見ていると、大らかと言おうか、大きいと言おうか、まろやかな味わいで「鳥居前」の義経・静・笹目とつい比べてしまうと彼らの芸がやはり若いと思わざるをえない(若いから悪いと言っているのではない)。知盛で泣いて、道行でほんわかした気分になって、楽しく今月の歌舞伎は終わった(本当は、この後幕見で「木の実」と「小金吾」を見たかったのだが、仕事があって断念)。
<上演時間>「鳥居前」41分(11001141)、幕間30分、「渡海屋・大物浦」120分(12111411)、幕間20分、「道行」42分(14311513

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

「鳥居前」は、能の「船弁慶」前シテ、「渡海屋」は、後シテを当て込んでいてパロディになっているのですよね
そうして観ると、つながり合い、影響しあって成立してきた歌舞伎の歴史を実感できます

今はだれもそうなので仕方ないですが、(少なくとも)弁慶は「ナンバ歩き」をして欲しいと思います

松緑はせっかく 柄としてはぴったりなのに、ご指摘のように台詞まわしがまどろっこしくて「力感」をそいでしまうのがもったいないですね

亀寿の笹目忠太は行儀が良いといいと言えばその通りですが、もう少し突っ込んでも良かったと思いますが、それが菊五郎劇団のらしいところかもしれませんね
これも良く言われますが、ここで笹目忠太が出て、「道行」でまた藤太が出るのは良くないと思います
本来は同一人物であるわけで・・・
役者さんの配役の関係もあるでしょうし、気分が変わる効果はありますが・・・
「鳥居前」がある場合には「道行」は忠信と静の2人だけとしたいです

「おしゃべり」は劇場の方も相当気を付けているようですが、連れがいるとどうしてもしゃべっちゃう方がいますね
床の語りや演奏の内はまだ良いと思っている方結構いますよ
こうしたことも劇場側で事前に注意するようでは情けないですが・・・

投稿: うかれ坊主 | 2013年10月19日 (土) 14時08分

うかれ坊主様
渡海屋と船弁慶の後シテのことは気づいていましたが、そういえば、鳥居前は前シテに相当するんですね。これまでその点についてはぼやっとしていました。面白いものですね、歌舞伎って。
なんば歩きは六方だけに残っているのでしょうか。他では見たことあるかな…?
忠太と藤太はたしかに変ですよね。知らないと混乱してしまいそう。両方出すのには色々な事情があるのでしょうね。

お連れの方とちょこっと何か喋りたいという気持ちはわからないではないので、多少はがまんできるのです。でも昨日はちょっとひどかった。
それと、開幕直後のお喋りは何とかならないかなあ。幕が開いたら役者が舞台にいようがいまいが、セリフがあろうがなかろうが、もうお芝居は始まっているのに、演奏だって語りだってお芝居のうちなのに、というか大切な導入部分であったりするわけなのに、とちょっと苛立ってしまいますが、それも含めて歌舞伎なのかな(他の演劇ではそういうことはありませんものね)。鑑賞教室の高校生のほうがよっぽど静かに観劇している…なんてね。

投稿: SwingingFujisan | 2013年10月19日 (土) 19時47分

直ぐに返信を送ったつもりが送られていなかったようです

日本舞踊の所作・振りはそもそも「なんば」になっていると思います
「なんば」は田植えの時に、右足と右手が一緒に出るのでそういう歩き方が日本人に定着したと聞いた覚えがあります(自信ないですけど)
昔、私らが小さい時には運動会などで行進する時、緊張して足と手が一緒に出る子がいましたが、あれは「なんば」だったのでしょう
明治になって特に軍隊が西洋式の歩き方になって以降、「なんば」で歩くことが日常生活から少しづつ減っていったのかと思います
江戸時代の歌舞伎は恐らくすべて「なんば」歩きだったはずですよね
弁慶に限りませんが特に走るときに、西洋式に足と手が互い違いにでますと何となく違和感を覚えてしまうのです・・・

おしゃべりもそうですが、頭(顔)を寄せ合ってひそひそ話されるのも、前が観にくくなって困ります!カップルに多いんですねこれ

そう言えば、「前傾姿勢」は、劇中でも劇場の係の方がその場に行って注意するところを何回か見ました
あれは2階席だったかなぁ
最近、歌舞伎座には御無沙汰なので最新のことはわかりませんが、8月公演の時だったかと思います 
「おやっ」と思ったことがありましたね

投稿: うかれ坊主 | 2013年10月21日 (月) 19時45分

うかれ坊主様
せっかく送ってくださったはずのコメント、いただいていませんでした。再度お送りくださってありがとうございます。

「なんば」は陸上の末續選手が取り入れたことで一気に有名になりましたっけね。そういえば、子供の頃、足と手が一緒に出る子って、必ずいましたね。当時は「なんば」なんて知らなかったし、ごく少数派だったので奇妙に見えましたが、あれが元々の日本人の歩き方だったんですね。
今度歌舞伎や日本舞踊を見るときは歩き方にも注意して見てみようと思います。

前の人の頭は、ある程度仕方のないことと覚悟はしていますが、みんながマナーには気をつけたいものですね。前の人が頭を寄せ合っている時は、こちらが頭を傾けて隙間から見るようにしますが、離れたりくっついたりされるとこちらの頭の動きも激しくなって困ります(^_^;)
前傾姿勢については、どこの劇場だったか、3階最前列でしっかりその姿勢になっている人たちを見たことがあります。手すりが目に入るからなんでしょうが、この時は注意は入りませんでした。そもそも手すりが邪魔な劇場が多い。新しい劇場はそういうところにも配慮して設計してほしいと思います(歌舞伎座もちょっと手すりが目に入りますよね。だから私は最前列ではなくて、もっと上のほうを取ります)。

投稿: SwingingFujisan | 2013年10月21日 (月) 21時37分

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