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2013年11月12日 (火)

映画の空気をつくる人:「種田陽平による三谷幸喜映画の世界観展」

1112日 種田陽平による三谷幸喜映画の世界観展(上野の森美術館)
131112taneda01 以前からずっと見たいと思っていたこの展覧会、いよいよ17日までなので焦っていたが(本当は2日のトークショーを娘と聞きに行く予定だった。でも娘が風邪ひいて寝込んじゃったから…。菊ちゃんの青年館パスしたのもそのため)、やっと仕事も一山越えたので昨夜、出かける決心をした。ところがいざとなったら寒いしなんか億劫になって…。でも行かれる時に行っておかねばと気持ちを奮い立て、朝一番で出た。
これまでにまだ2件、感想を書いてないのがあるんだけど、とってもよかったから、先にこちらから。

種田さんが三谷さんと仕事をしたのは「有頂天ホテル」(写真2枚目)が最初で、その後「ザ・マジックアワー」(写真3枚目)、「ステキな金縛り」(写真4枚目)、「ベッジ・パードン」(舞台)、そして今度の「清須会議」(写真5枚目)だが、私は「有頂天ホテル」以外は全部見ている。で、展示は見ているもののほうが断然面白いのは当然だろう。映画の思い出が甦ってきて、あの時はこんな細部にまで目がいかなかなったのに、セットから小道具までこんなにこだわって作られていたんだと実に興味深く、感銘を受けた。
種田さんは映画の空気まで作っていたのだ。種田さんの作る世界は、私たちが見逃131112taneda02 してしまうような小さな物にまでこだわることによってできているのだ。というのは、それによって、役者がその物語の世界に入り込むことになるから。実際に映画には写り込まないかもしれないどんなに小さな物でもどこかにいい加減なものが置かれていたら、それだけで物語の世界が変わってしまうから。しかも種田さんの作るセットは、役者が動きやすいようにできている。
面白いのは、虚構と現実の境界についてだ。たとえば「ステキな金縛り」、あの法廷は現実のものとは異なる。映画でリアリティは大変重要な要素ではあるが、実際の裁判所で撮影すると、幽霊が証人となるという虚構が逆にウソっぽくなる、131112taneda03 そこで、リアルではなるが本物とは少し違う法廷を作ったのだという。言われるとたしかにすり鉢状といい、形といい本物とは違う。それなのに(それだからこそ)、裁判がリアルに見えたのである。
そして裁判所の床の大理石は、スタッフが11枚、板に大理石模様を描いたものだそうだが、これまた本物の大理石に見えて素晴らしい。そして裁判所の椅子(写真)は、ローマ法王の椅子を作った職人さんが作ったものだそう。ちょっと座ってみたが、クッション部分が気持ちよかった。
そういうこだわりはどの映画にもいっぱいあって、ここで全部は紹介しきれないか131112taneda04 ら、興味ある方はぜひ展覧会に行って、ご自分の目で確かめてきてください。私自身は、すばらしい美術の数々を見たら、もう一度それぞれの映画を見たくなってきた。

海外の監督と組んだ仕事も紹介されていたが、私は「キルビル」にしろ何にしろ全然見ていないので、悪いけれどそこはちょっと流した。でも、すっごいと思ったのは、台湾の「セデック・バレ」という映画のセット。最初監督に、酸素マスクが必要な3000m級の山に連れて行かれ、ここに村を作りたいと言われた。しかしそんなところにセットを作るとなるとインフラを整えるだけで何カ月もかかるし、霧が出たら撮影できない。そこで種田さんは「こういう風景がを作り出すのが映画美術だ」と監督を説得して、台北近郊の更地に、3000m級の山の村・町を作り上げたのだ。映画のオープンセットとはよく聞くけれど、こんなにスケールの大きなセットまで作るんだと本当に感心した。
舞台「ベッジ・パードン」では、あの印象的な1900年頃のロンドンの地図が描かれた緞帳も、アパートの3階と屋根裏部屋を2階建てにして外壁を上にあげるとセットが見える作りにしたのも種田さんのアイディアだそうである(うんうん、ちゃんと覚えているよ、あの作り)。
また、映画の美術って、こんなところまでやるんだ、知らなかったわと認識を新たにしたのは、タイトルロールの作成まで種田さんがやっていたこと。三谷映画のあの独特なタイトルロールは三谷さんと種田さんのアイディアがまさにタッグを組んでできたんだなあ。

途中、三谷さんのセット紹介の映像が流れていた。「有頂天ホテル」「ステキな金縛り」「ザ・マジックアワー」の紹介映像で、実に楽しい。「ザ・マジックアワー」のセットがあまりに素晴らしかったので保存しておきたいと言った三谷さんに対し、種田さんは「映画美術というのは撮影が終わり、跡形もなく壊すことによって、はじめてフィルムの中にしか存在しない空間としてできあがる。ここにセットがある限り、映画の美術は完結しないので、一刻も早く抹消したい」と答えたそうだから、それぞれのセットはもうないはずである。それを紹介してるっていうことは、その都度、撮影していたのかな。
ところで、この種田さんの考え方というのはなかなか素晴らしいと思う。人間、やっぱりこんな見事なものを拵えたら残しておきたくなるもの。でも、映画美術の本質というのは種田さんの言うとおりなのかもしれない。そしてもう一つ種田さんの考え方に共感できたのは、セットを作る時、ディテールからはいる人もいるが、種田さんはイメージの全体をつかまえて発想を広げていく、たとえば1人の女の子がいたら、その子の住んでいる街、マンションの外観、彼女を取り巻く世界から考えて、それを彼女の小さな部屋に落し込んでいくという手法だそうだ。そういう発想は、種田さんが美大の油絵科出身だというのも一つの要素らしい(映画や舞台美術はデザイン科出身が圧倒的に多いそうで、細部をきっちり詰めていくことから始める人が多いのだとか)。


13111205taneda 「清須会議」では「本能寺の変」や「山崎の合戦」の絵巻物がオープニングアニメで使われるそうだ(種田さんのアイディア)。もちろん、絵コンテから始まってこの映画のために実際に作られたものである。また登場人物それぞれの居室の襖絵が面白い。どんな襖絵かは映画を見てのお楽しみ。
とにかくCGでない、本物の魅力たっぷりなのが種田さんの世界であり、三谷さんの世界である。

つまらぬ追記:朝イチで行ったせいか、すいていた。スタッフの人数がすごく多いように見えたのは、許可されている場所以外での写真撮影に睨みをきかせているせいかしら、なんて。
もう一つ、三谷さんは種田さんの声が日本人男性にしては高いと言っていて、けっこうそれをからかっているらしいけど、そうかなあ…。

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