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2013年12月21日 (土)

知られざる忠臣蔵3作①

1217日 (国立劇場)
「主税と右衛門七」
幕が開く前、緞帳の向こうで何か言ってるらしいのに、周囲のお喋りで聞こえなかった。
米吉クン(お美津)が花のように愛らしかったが、風邪でもひいていたのだろうか喋ると声ががらがらで、やがて低めのトーンに落ち着いてきたものの恋する乙女にしては低いままで通していた。それだけに発声に無理がない感じでその低さが逆に女らしさにも通じるような気がした。ただ、全体に恋に夢中な少女の気持ちが薄いように思えた。とくに、琴の音に引かれてやってきた右衛門七を見つけた時はもっと弾むような喜びがほしかった。
歌昇クン(右衛門七)も恋と忠義に悩む様が少し薄いように私には思えた。右衛門七の心は立場上からも忠義のほうに傾いているようで、お美津の好意に応えられない苦しさはわかるのだが、では彼自身がお美津をどう思っているのか、お美津との暮らしを望む心が一片でもあるのかというと、そうではないように見えてしまった。
意外といいなと思ったのは隼人クン(主税)。右衛門七より位が上の「らしさ」があり、首領の息子としての討ち入りへの不安もよく伝わってきた。母親への気持ちがもう少しうまく表現されているともっとよかったと思う。
歌六さん(大石内蔵助)は若者の命を散らすことを哀れむ父親としての愛情、それを封じ込めて武士としての心得を説く姿に大きなものがあった。
京蔵さん(お美津の乳母お粂)がお嬢様の幸せを心から願う世話焼きのおばさんを好演。ユーモラスな味わいがあって、ほのぼのした。
忠臣蔵の陰に隠された若者たちの心。主税と右衛門七という立場のまったく違う2人の心情を追及した作品で、私も実は彼らはどういう心境でその日を迎えたのだろうということに関心があったから、大変興味深く見た。ストーリーとしてはわかったが、もう少し深いものを感じたかった。
追記:あとで考えたら、2人の若者は大事を翌日に控え、気持ちが高ぶっていたのかもしれない。そういう高ぶりはよく表現されていたなあ、と思い出した。
「弥作の鎌腹」
千崎弥五郎の兄・弥作の悲劇の物語である。
弥作の家は百姓与市兵衛の家と同じだし、五段目・六段目のパロディのようなところがあって面白かった。
吉右衛門さん(弥作)の演技に突き抜けたものがあって面白かった。また、吉右衛門さんと芝雀さん(弥作女房おかよ:おかやのパロディ?)に百姓家のつつましい暖かい生活感があってよかった。
最初に百姓仲間(由次郎、桂三)がおかよをからかっているのも、のどかで仲間内の親しみが感じられた。
代官・柴田七太夫(橘三郎)から持ちかけられた弟・弥五郎(又五郎)の縁談を勝手に承知してしまった弥作は、討ち入りという思いがけない秘密を知って縁談を断りに行く。しかし不器用な弥作がうまく言い抜けられるわけがない。弥作は討ち入りのことを七太夫に漏らしてしまう。
それを知った弥五郎が七太夫を斬りに飛び出そうと立ち上がると、その刀にしがみついてやるまいとする弥作。訪ねてきた不破と千崎を迎えようとする勘平にしがみつくおかやのパロディか。
「放して」「待って」の末、弥作は七太夫に漏らしてはいないと前言を翻し、安心して出立しようとする弥五郎に切腹の作法を教わる。なぜそんなことを?と不審に思う弥五郎だが、侍の兄が切腹の作法を知らないではまずい、人に聞かれたら教えるのだとの弥作の言葉に、丁寧に教えてやる。不器用な弥作のウソを見抜けぬ弥五郎もまた不器用なんだなあと思った。切腹の作法を、吉右衛門さんは本当に紙に書いていた。
いよいよ討ち入りに出かける弥五郎。「やりとうない」と泣く兄。「ご未練でござりましょう」と外へ出る弟。「弟、待て。しっかりとやってくれ」と泣き崩れる兄。勘平・おかるの別れを思い出す(ちょっとちがうか)。同じ家族でありながら武士と百姓という立場の違い、覚悟の違いが胸を打つ。おかよの先導で立ち去った弟に門口で話しかける弥作に泣けた。
そこへやってきた七太夫は弥五郎が既にいないと知ると討ち入りのことを吉良に注進すると走り出す。やむにやまれず、弥作は鉄砲を向ける。花道付け際で引き金をひく弥作。「パン」という音。そして揚幕のむこうで「わ~」という七太夫の声が(ここは撃つ者撃たれる者の位置を五段目の逆にしている)。(ここで客は笑っちゃいけないでしょう。)この時の弥作の表情には追い込まれた者の一種狂気のようなものが感じられた。

切羽詰った弥作は紙を見ながら教わった通りに自害しようとする。武士でさえ覚悟のいる切腹を百姓がするのだ、その恐怖は如何ばかりか。白布のかわりに風呂敷、樒のかわりに大根、九寸五分のかわりに包丁と切腹の場を整える吉右衛門さんの演技はコミカルだが、そのコミカルさがあざとくないので、ある種の笑いを呼び起こしそうになっても、私には笑えなかった。悲しいのに可笑しい、可笑しいのに悲しいことって、確かにある。弥作の腹に鎌が突き刺さった瞬間、私は「人間の条件」だったか「戦争と人間」だったか、田中邦衛が演じた二等兵が便所で自殺した瞬間を思い出した。
胸騒ぎがして駆けつけた弥五郎とおかよ。自分も自害しようとするおかよに、お前が死んだら弔ってくれる人がいなくなると止め、弥五郎には苦痛を早くやわらげてほしいと介錯を促す弥作。髪をざんばらとさせ、胸の前で手を合わせる弥作に勘平が重なった。
又五郎さんの弥五郎は武士の精神をしっかりもった実直な感じがぴったりだった。
橘三郎さんは先月の斧九太夫はあまり感心しなかったが、柴田七太夫はとてもよかった。強欲さも歌舞伎としての品位を落としておらず、適度な軽さが逆に弥作の悲劇を強調するようであった。
そもそも本人の承諾を得ずに勝手に縁談を進めたところに弥作の非はあるが、それもこれも
弟を思う心からであり、武士と百姓の立場の違いが悲劇を生んだのだろう。で、泣けて泣けてバッグの中を手探りしたのにハンカチがない!! またやっちゃった。ティッシュで洟と涙を拭き、次の幕間でハンカチを買ったのだけど(あ~、ムダな買い物、うちに帰れば売るほどハンカチあるのに)、もうこの後は使う必要がなかったのよ~coldsweats02


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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
米吉くん、私の時も声がちょっと変(ていうか安定はしてるけどいつものきれいな声じゃなかった)でした。
鎌腹、ああ、そういえばそこもそこも…私も勘平さんの裏をなぞってるような、と思いつつ、具体的にわかったのは鉄砲ぐらいでした。 おかしいんだけどその分悲しくなりました。
おしゃべりなお客さんは残念でしたね。私が見たとき、「忠臣蔵形容画合」のどこだったかで手拍子がおきかかってるような…というところがあったような気がしました。
でもいい企画でしたね!

投稿: urasimaru | 2013年12月22日 (日) 19時16分

こんばんは。暫くぶりです。
今日、国立見てきました。「弥作の鎌腹」確かに、六段目のパロディですね。吉右衛門一流の愛嬌が結構でした。今回の国立、播磨屋一門の若手にいい役を付けているのは、実力をつけるためにもいいことですね。
ところで、歌舞伎座の夜の感想まだでしたっけ。(見落としていたら、ごめんなさい)。七段目の玉三郎、これまで、見たことのないようなお軽でした。徹底して、海老蔵をリードするお軽ですね。先年、松嶋屋とやった時とは、ずいぶん違うように感じました。せりふも身体の動かし方、古典の枠組みを大きく踏み出していますが、ああ、これもありかなあと私は思いました。
歌舞伎座の立女形と君臨してほしいと思うのは私だけだとは思わないのですが・・。

投稿: レオン・パパ | 2013年12月22日 (日) 21時26分

urasimaru様
ほんと、いい企画でしたね!!

米吉クン、研修発表会ではきれいに声が出ていたのですが…。

「鎌腹」はよくできた作品だなあと思いました。五・六段目に出てくる千崎弥五郎の結婚話をモチーフにして、その兄には勘平に重なるものがある。さらには可笑し味のおかげで六段目のような重い気持では見ていなかったのに、最後は悲しく重い気持になる。それでいて後味は悪くない。秀山十種の一つというから、秀山祭でもいつかかけてほしいものです。

手拍子が起きたのは二段目「桃井若狭之助館の場」ではないでしょうか。私が見た時は、鷺坂伴内の吉之助さんが花道を引っこむ時に手拍子が起きましたが(起きかかったのかな)、同じ日でした?

歌舞伎を見るときは、幕開き後しばらくのざわざわ感、お喋り等、すべて含めて歌舞伎だと思うようにしているのですが、やっぱり気になります。それにしても、歌舞伎鑑賞教室の高校生は幕が開けばぴたっとお喋りをやめるのに、大人はなあ…coldsweats02

投稿: SwingingFujisan | 2013年12月23日 (月) 14時45分

レオン・パパ様
こんにちは。
お元気でいらっしゃいましたか。
「鎌腹」は秀山十種でありながら、吉右衛門さん今回初挑戦だったんですね。私は吉右衛門さんのこういう役はあまり好きではないのですが(つい、立派な武士の役を望んでしまいます)、今回はとってもよくて、本当に感動しました。秀山祭でぜひ見たい演目です。
播磨屋のもとで勉強している若手はぐんぐん伸びていますね。

歌舞伎座夜の部はまだ見ておりません(大丈夫、お見逃しではありませんよ^ ^)。若い海老蔵さんを相手に玉三郎さんがどんなおかるを見せるのか、楽しみにしています(リードするおかる、ですか)。
私も、玉三郎さんにはもっともっと歌舞伎座に出てほしいと思います。地方で舞踊というのが多いですものね。

投稿: SwingingFujisan | 2013年12月23日 (月) 15時18分

こんばんは!

私は昨日見に行ってきました。
舞踊はいつも眠くなってしまうので心配していましたが、
「形容画合」は本当に楽しくてあっという間に終わってしまった感じです。

「弥作~」では私はもちろん、近くに座っていたおじさまたちも全員号泣。
ご出演のみなさんがそれぞれ役にはまっていた気がするし、
話自体も本家(?)の六段目の感じをふまえながらも
侍ではない素朴な一般の人の話をうまくからめてきていて
なんか「すし屋」みたいな感じですごく好きでした。
あの座組でやったからこその魅力も満載でしたし、いやいや、堪能しました!
最近、遅ればせながら播磨屋さん大好きなので、本当に楽しかったです。

クリスマスなのでひとりで泡ワインを飲みつつご機嫌な者より。
失礼いたしました。。。

投稿: | 2013年12月24日 (火) 22時38分

すみません…先ほどのほろ酔いの者はわたくしです。
名前、入力した気になってました。
たいへん失礼いたしました。。。

投稿: あねご | 2013年12月24日 (火) 23時54分

ほろ酔いのご機嫌な方はあねご様だったんですねhappy01 コメントありがとうございます。
舞踊、楽しかったですね!! 私も舞踊ではいつも眠くなってしまいますが、これは本当に楽しくて引き込まれました。

鎌腹は、おっしゃるようにあの座組の魅力でお芝居も魅力が増したように思いました。そういえば、私の隣の男性も泣いていましたっけ。

播磨屋さんのこと、あねご様と同じように私も「遅ればせながら大好き」です。

たまには、クリスマスだからって特に何もせず普通に過ごそうと思いましたが、やっぱりちょっとウキウキ気分になって、ささやかながら少し贅沢な食事と、いただいたお酒(ワインじゃなくて日本酒)で過ごしました。で、私もほろ酔い加減でしたわ、さっきまでcoldsweats01 ほろ酔い仲間ですね。

投稿: SwingingFujisan | 2013年12月25日 (水) 00時34分

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