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2013年12月 4日 (水)

やっと③:「伊賀越道中双六」

1118日 「伊賀越道中双六」(国立劇場大劇場)
文楽のほうは見ていないので、通しは初めてになる。
藤十郎さんの父親役が長男翫雀さん、藤十郎さんの妹・すなわち翫雀さんの娘役が扇雀さん、扇雀さんの夫役が扇雀さんの長男の虎之介クンと歌舞伎ならではの配役である。
「沼津」の大もとになる序幕では、沢井股五郎がどうして和田志津馬(お米の夫)の敵となるかが描かれる。和田家のちょっと複雑な事情はよくわかったが、股五郎が志津馬の父・行家を殺す理由がやや弱いような気がした。もっとも悪人ってそんなものかと思ったが、この殺しの一因となった別の場面が今回カットされているそうだ。あとの筋立てとは無縁な話だから混乱を招かぬようにとの配慮かららしいが、その辺の判断って難しいんだろうなあ。
萬次郎さん(行家の後妻・柴垣)の声にはいつも聞き惚れる。声と温かい柴垣の人となりがマッチしていると思った。行家(家橘)の娘・お谷は剣の達人・唐木政右衛門と夫婦になっているが、それは親の許さぬ仲。後妻の柴垣がとりなそうとしても行家は許さない。不義密通を働いた唐木政右衛門を「犬に劣りし不届き者めが」と言い捨てるが、口に出すこの言葉とは裏腹に本当は2人を許してやりたい心情がにじみ出て、気持ちの板挟みに苦悩する父親の愛情が感じられた。また、股五郎との遣り取りでは緊迫した場面となり、少ない出番ながら家橘さんの存在感が光った。股五郎の市蔵さんもいかにも奸計を巡らせそうな悪役ぶりだった。
志津馬は虎之助クンだが、これがお米のダンナかと言うには若すぎるを通り越して子供すぎる。お米と一緒に登場する場面がないのがせめてもだが、それにしても頭の中で2人が夫婦だというイメージが湧かない。
池添孫八、「沼津」では終わりの方にちょこっと出てくるだけだが、こういう関係だったのかと納得。こういう関係というのは、池添孫八は和田家の奴で、行家殺害に駆けつけた志津馬の脚を股五郎が斬りつけたときに駆けつけ、以後仇討の旅を共にするというわけだ。孫八は立ち去る敵をもっと追えばいいのにとちょっとじりじりしたが、やはり手負いの主人の介抱が先なのかもしれない。亀鶴さんがステキ。
二幕目は唐木政右衛門が行家の死を知ってから仇討に出るまでがドラマチックに描かれる。お谷を離縁する政右衛門には何か思うところがありそうではあるが、相当ひどい言いようだ。それを障子の陰で聞いているお谷の気持ちは如何ばかりか。お谷の孝太郎さんは武士の夫人らしい落ち着いた声で、好感がもてた。政右衛門の橋之助さんはまっすぐ正統派の武士として立派だしカッコいいし、この役にぴったりでとてもいいのだけれど、時々声が耳に障るのが非常に残念。高く甲走った声を張り上げる、セリフの妙味が感じられない、私が歌舞伎の橋之助さんをもうひと押し好きになれないのはこの点があるからだ(テレビの時代劇の橋之助さんにはそういうところがないので、出てくると安心するし好きなのに。歌舞伎でも「天保遊侠録」の勝小吉なんてとってもよかったのに)。私としては本当に残念である。
政右衛門がお谷を離縁して迎えた新しい嫁はお谷の妹・おのち。なんとまだいたいけな子供である。おのちにせがまれた饅頭を半分に割って夫婦の固めにした橋之助さん、床の畳に落ちた餡や皮を丁寧に拾っていて、橋之助さんって几帳面なきれい好きなんだなあと思った。
政右衛門を郡山藩へ推挙した宇佐美五右衛門は彦三郎さん。まっすぐ元気印のジイサマで、これも彦三郎さんにぴったり、好もしい。政右衛門が仇討のために考え出した策は明日の御前試合にわざと負けること(勝てば殿様の指南役にならなくてはならず仇討はかなわない)。その時には推挙した五右衛門に政右衛門のウデを見損なった責任で腹を切ってほしいと頼む。快諾する五右衛門。すごい話だと感銘を受けた。
事情を知らずお谷にひどく同情する政右衛門の家来・石留武助は橘太郎さん、こういう細かい気のまわる人をやらせると実にうまい。気持ちのやさしさもよく出ていた。
ところで、政右衛門ってすごくいい暮らしをしているように見えたけれど、この時点では浪人でしょう(行家のセリフに「浪人させておくには惜しい」とある)。屋敷も広いし、下女もたくさんいそう。なんでこんないい暮らしができているのか不思議だった。
第二幕唐木政右衛門屋敷の場が終わると、御前試合の場になるが、一段落感あるし、いったん定式幕が引かれるためか、休憩と間違って席を立つ人がけっこういて、「まだ休憩でない」と場内係が留めていた。

翫雀さんは「沼津」で雲助平作になる前に、ここでは郡山藩主・誉田大内記である。これが実にいい殿さまで、器量が大きいから政右衛門がわざと負けたこともその真意もわかっていて、五右衛門切腹をまず押しとどめる。そして政右衛門を成敗しようと挑みかかるを政右衛門は軽くあしらいながら、剣の技を伝授する。2人の心の通い合いが気持ち良い。
「沼津」では、藤十郎さんの歩みの若々しさにまず目が寄せられた。独特の、のどの奥のほうで喋るセリフの味、巧みさはさすがだった。上方の役者さんだから、セリフもそういう味わいが自然に感じられる。本当にこの人はどこまで老練で若いんだろう!!
翫雀さんの平作が見事だった。せっかちな言動は翫雀さんはうまいし、娘と2人で肩を寄せ合って貧しく正しく生きてきたという生活感、情愛に溢れていた。ただ、千本松原で意外に泣けなかったのは、翫雀さんのセリフから時々ふっと余韻というか味わいが消えてしまっていたこと(なんか、そんな風に感じた)、それからもう一つ、平作と十兵衛の親子の名乗り合いでぎょっとしてしまったことがあったからだと思う。まあぎょっとするっていうのは大げさだけど、これまで見た記憶では暗闇の中で双方から手を差し伸べてさぐっていたのに、今回手を差し伸べていたのは十兵衛だけだったんだもの。「えっ?」と驚いてしまって、そっちに心がいってしまったから。やっぱりここは両方が求め合わないと…じゃないのかなぁ。ここへ至るまでの場面での翫雀さんがとってもよかっただけに、残念。
千本松原で今までの記憶と違っていたのがもう1点。股五郎の落ち着き先を教える十兵衛のセリフ、吉右衛門さんは陰に隠れている妹にも聞こえるように言うが、藤十郎さんは父親のみに聞かせる感じのように私には見えたけれど…。
棒鼻で2人が客席を回っている間に(残念ながら3階後方ではセリフはほとんど聞こえない)背景の絵が変わるのに客席が感嘆の声を上げていた。
扇雀さんは印籠を盗む気持ちがよく伝わる演じ方で、私はここがよければすべてよしみたいな感じで見ていた。
仇討まで見られたのでスッキリ。
亀鶴さんがいいよね~。少ない出番ながらしっかり孫八になっていた(衣裳、あれだったっけなあ。記憶よりやや粗末な気がした)。
<上演時間>序幕・二幕目90分(12001330)、幕間35分、三幕目105分(14051550)、幕間10分、大詰15分(16001615

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コメント

こんにちは。福助さんのニュースはショックです。襲名しなくてもいいから長生きしてほしいです。><

二幕目では唐木政右衛門はもう士官していて、浪人しないと敵討ちができない、ということでした。
正月芝居、どこかでおあいできるといいな^^

投稿: urasimaru | 2013年12月 7日 (土) 13時23分

urasimaru様
こんにちは。
私も同感です。襲名より長生きが大事。もう歌舞伎界から大事な役者さんを奪わないでください、と歌舞伎稲荷にもお祈りしてきたのに…。

唐木政右衛門のこと、ありがとうございます!! 仕官の推挙がどうこう言っていたようだったので、浪人であの生活かとびっくりしていました。それにしてもいい生活ですよね。

お正月はたくさん公演がありますものね、ご一緒になれるかもしれませんね(私は歌舞伎座の昼の部を入れるところがなくて、今日の発売日には予約を控えました。夜の部は取りましたが^-^)

投稿: SwingingFujisan | 2013年12月 7日 (土) 16時31分

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