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2014年2月 8日 (土)

南北らしい複雑な絡みの面白さ:「心謎解色糸」

23日 二月花形歌舞伎昼の部「心謎解色糸」(歌舞伎座)
昼の部は花道鳥屋のすぐそばの席。前は通路だし、花道の出入りは間近に見えるし、大変いい席ではあるのだが、セリフが意外と聞こえづらかった。自分の耳が相当悪くなったのだと思って、かなりがっかりしたら、夜の部で取った3階の西側席はまあよく聞こえるのだ。舞台上手のほうを向いて喋られたりするとやや聞こえが悪くなるものの、全体にはよく響いてセリフが聞き取りやすかった。
感想の前にもう一つ。実はちょっと面白いことに気がついた。役者さんが花道に出ると、鳥屋の脇で一段高いところに腰かけている係の人が、右斜めに腕を出すのだ。花道に人を入れないための動作なのだろうか。幕ごとに係は交代するので、腕を挙げる角度は人によって違うものの、花道使いの際は出でも入りでも確実に行う。同じ列の席で見たことはあるが、こういう動作には今までまったく気づかなかった。

そうそう、序幕後の幕間にふと気がつくと葛西アナが目の前の通路に立っていてびっくりした。

さて、お芝居は何の予備知識もなく見たから、松也クンがいきなり悪人面で出てきた時にはびっくりした。先月は正義の二枚目忠臣、今月は赤城家の悪臣。いやいや、松也クンの悪役もなかなかいいものだった。女形をやるには少し身体を絞らなくてはならないだろうが、背も高いし、二枚目も悪役もできる立役としてどんどん芸の幅を広げていってほしい。
この悪党、山住五平太に惚れられて借金の肩代わりをするから自分に身請けされろと迫られる芸者小糸は菊之助さん。きれいで、イヤなことはイヤという強さをもちながら、往来で借金のカタに身ぐるみはがれてしまって、襦袢姿で肩を抱く姿が頼りなげなのがいい。そんな小糸に自分の着ていたものをかけてやる鳶のお祭り左七。気風よくカッコいい左七が染五郎さんにピッタリ。小糸でなくても惚れ惚れするねえという感じ。料亭松本の女将お蔦(高麗蔵)の肩入れもあって、2人は1枚の夜着にくるまり五平太は歯ぎしりする。高麗蔵さんの役はお得な役であるかもしれないが、それを高麗蔵さんらしく好演。
染五郎さんは二役で楽しませてくれた。松本での早替りは、左七が相撲取りに衣類を与えて上手の部屋に入ったと思ったら一瞬で悪役(半時九郎兵衛)になって出てきた。早いっ!! 傘の中での早替りはまだ3日目だからちょっともたついたけれど、それでもやっぱりわからなかった。もしかしたら3階西側だったらわかったかも。
南北らしく複雑に人間模様が絡み、ストーリーも複雑ではあったが、見ていてわからなくなるということはなく、全体にとっても面白かった。南北のドロドロには時に辟易することもあるのだが、このストーリーがそうでもないのか、花形だからややこってり感が薄いのか、イヤな感じはほとんどなく、楽しめた。
半時九郎兵衛の実子殺しは南北らしい。かわいそうなおきみちゃん。まさか実の父親に殺されるとは。この子役ちゃんがいじらしいだけによけい哀れである。九郎兵衛は鳥追姿の少女が1両を持っていることを知って奪うために殺してしまうのだが、この場面、斧定九郎が50両の入った財布を取り上げるのにちょっと似ていた。でも、こっちはたったの1両。いや、たったの1両とは言えないほど1両は九郎兵衛にとって重かったのかもしれない。おきみの遺体を始末しようとするところへ九郎兵衛の女房お時(七之助)がやってきて2人で始末するのだが、お時は我が子と気が付かなかったのだろうか。この場面の前に、お時とおきみが互いをいたわり合うような感じで雪の中を歩いていたのが袖萩・お君(こちらも<おきみ>だ)を思わせたのに、お時もワルだったとは。
七之助さんは糸屋という店の娘お房との二役。こちらは恋に一途な娘。お房自身は八卦見の綱五郎に惚れているのだが、縁談が持ち上がる。縁談を望まぬお房だが、無理やり祝言の席につかされる。糸屋の番頭の佐五兵衛が三々九度の酒に毒を入れてお房に飲ませる。実はこの番頭、お房に横恋慕しており、馴染の医師と示し合わせて、飲むと仮死状態になるという毒薬でお房を死んだことにし、後で蘇生させて我がものにしようという魂胆なのであった。事情は違えど、「ロミオとジュリエット」みたい。

糸屋の場面ではお房の母親が東蔵さん、お房の婿が松江さん、丁稚が玉太郎クンと加賀屋一家が揃った。松江さんの扱いはちょっと気の毒な気がしないでもない。玉太郎クンは見るたび身長が伸びている。ヤンチャで小さかった玉ちゃん、どうなることかと思ったが、立派に初舞台を勤め上げ、体も芸もどんどん成長していくのを見るのは実に嬉しい。ほんと、玉ちゃんは大した子だ。
さて、その晩、佐五兵衛がお房の棺桶をあけると、そこに入っていたのはお房じゃなくて本当の死体。違う棺桶をあけてしまったのだね。しかし佐五兵衛は最初全然気づかず、鼻の下を伸ばして口移しで水を飲ませようとしたり、自分の身体に死体の手を当てて温めようとしたり。佐五兵衛役の松之助さんがややセリフに怪しい部分はあったものの、そのコミカルな味を十二分に発揮して笑わせてくれる。お房でないとわかると、そこへやって来た九郎兵衛と死体を預け合う可笑しさ。「らくだ」みたいで笑った笑った。
お房が持参金の100両とともに葬られることを知った綱五郎が墓をあばくと、お房は蘇生して綱五郎を口説く。その関心はお房ではなくて100両だったのに、綱五郎は満更でもなさそうに夫婦になることを約束する。っていうのが可笑しかった。綱五郎は元は赤城家の侍で、五平太(久しぶりに名前が出てきた)が盗み出したお家の重宝・小倉の色紙を管理する石塚彌三兵衛の罪をかぶってお家を追放され、八卦見姿で色紙の行方を追っていたのであった。誠実な松緑さんが魅力的だ。一方、小糸は石塚彌三兵衛と親しい安野屋十兵衛(歌六)と妻おらい(秀太郎)から、色紙の行方を確かめるために五平太になびくように勧められる。十兵衛は色紙を盗んだのが五平太ではないかと疑っていたのだ。そこで小糸は心ならずも左七に愛想尽かしをする。左七と一緒では貧乏暮らし、私は玉の輿に乗りたい、と苦しい胸のうちを隠して愛想尽かししているのに、ここで少し笑いが起きたのはどういうことか。
かっとなった左七は待ち伏せして小糸を殺してしまう。しかし、殺した後に様々な真実が明らかになる。小糸が殺される場面はきれいで、左七を思う気持ち、寂しい気持が哀れで、うるうるした。
歌六さんと秀太郎さんはさすがにどっしりして舞台がぐっとしまるが、十兵衛夫婦の登場が唐突だったし、そんな愛想尽かしなんかしなくても本当のことを言えばいいのにとか、十兵衛がはっと左七の小糸殺しの意図に気づくのが遅すぎるとか、色々不満はあるが、そこを突っ込むのはナンセンスというものだろう。それにしても、菊之助さんがここで姿を消すのは意外だった。
この後の大詰はお時と九郎兵衛、お房と綱五郎の物語となる。綱五郎はお房を連れて家に戻ってくる。すると隣から「鷺娘」の演奏が聞こえてきた。「なに、鷺娘? ほんにそなたは白、わしは黒の着物で烏と鷺」と言うからにやっとした(綱五郎は黒紋付き、お房は白無垢姿なのだ)。綱五郎はお房のためにまま炊きを始める。そうか、お房はお嬢様なのだった。おっとりした七之助さんにはちょっとコミカルな味があって面白い。しかも、こちらはまっさらなお嬢様なのに、悪婆のお時とどことなく通じるものが感じられたのは、2人が姉妹だからということ以上に女の本質みたいなものが似ていたのだろうか(ちょっと怖いものがある)。
お房が佐五兵衛にさらわれるところは「しめこのう~さうさ」を、五平太を捕える場面では左七率いるめ組が駆け付けたことで「め組の喧嘩」を思い出した。綱五郎の長屋がセリ下がり、赤城家の門外が奥から押し出されて場面が変わり、思わず「おお」と心の中で叫んだ。
廻し男儀助の萬太郎クンは何と言っても声がいい。こういうコミカルな役だとテレなのかあるいは自然なのか、何とも言えない味を出すのが面白い(廻し男ってなに?)。
<上演時間>序幕64分(11001204)、幕間35分、二幕目・三幕目54分(12391333)、幕間20分、四幕目33分(13531426)、幕間15分、大詰26分(14411507

 

 

 

 

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コメント

私は17列17番でした
15・16番の方が女性でしたのでもしかしたらなんて思ってましたが、鳥屋寄りでしたか
葛西さん居ましたね!!
幕間(それとも昼夜の入れ替えだったかな)に木挽堂書店さんをお邪魔していましたら葛西さんがあとから入って来られて「国立の時の上演資料集あるかしら」とお尋ねになっていましたよ
昭和48年に上演された「心謎解色糸」の際に発行された資料を探されて居るているようでした
(ついでに言うと松本錦一さんが本をお売りにこられました 関係者を間近で拝見できるのも専門古書店の愉しみの一つかもしれません)

「心謎解色糸」は前進座ではこれまで時々かかっていましたが、松竹系の上演では国立劇場の時のものをご存知の方も少なくなってきたでしょうし、公演後日も浅く、観客も役者もまだまだ手探りの状況でしたが、是非レパートリーになるように再演・再々演を期待したいですね

(PS)豆まきは鬼の役が出る時もありますが、今回はなかったですね

投稿: うかれ坊主 | 2014年2月 8日 (土) 11時20分

うかれ坊主様
2等席をお取りになったということでしたのでお近くかなと思っておりましたが、ゾロ目のお席でしたか。あのあたりはいい席ですよね。演舞場並の料金にしてくれるともう少し取りやすいのですが…。
葛西さん、歌舞伎座の方にも何か聞いていらっしゃるようだったので、もしかしたら同じことを尋ねていらっしゃったのかもしれません。木挽堂書店でお会いになったとは!! しかも錦一さんもいらっしゃったとは!! 驚かれるかもしれませんが、実は木挽堂書店にはお邪魔したことがないのです。色々歌舞伎関係の本を見てみたいと思いつつ、何となく…。先日も昼夜入替の間は築地方面を散歩してしまって…。

おっしゃるように、まだ3日目でしたので改善点は多々あったと思いますが、それでも退屈することなく楽しめました。次の上演はまた何十年後などということなく、数年に1度くらいは上演してほしいですね。

鬼の出る豆まき、見たいです!!

投稿: SwingingFujisan | 2014年2月 8日 (土) 14時15分

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