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2014年5月13日 (火)

團菊祭五月大歌舞伎昼の部

512日 團菊祭五月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)
お江戸に戻ってきた團菊祭に團十郎さんはいない。寂しい限りであるけれど、海老蔵さんがしっかり成田屋を引き継いでいることが感じられて嬉しかった。この日は高校生の団体が入っていたけれど、演目としてはわかりやすいものばかりで面白かったのではないだろうか。
「毛抜」
左團次さんの弾正は初めて見る(と思う)。どんな感じかしらと思ったら、破天荒な左團次さんに男女構わずちょっかいを出すキャラは嫌味なくしっくりきた。大らかで笑えた。磁石のからくりを発見するところも、「おや? はは~ん」という過程がわかりやすく、面白かった。ご本人も楽しそうに演じているので、こちらも楽しくなる。
巳之助クン(秦秀太郎)は柔らかくかつ武士らしさもあり、菊市郎さん(八剣数馬)は骨太な悪役で好対照であった。真面目で穏やかな秦民部の秀調さんといかにも憎々しい八剣玄蕃の團蔵さん、この2人のバランスがとてもいいと思った。
廣松クン(腰元若菜)は喧嘩の仲裁や甲斐甲斐しさなど、頑張っていた。男寅クン(錦の前)はやっと声が少し落ち着いてきたかなという感じ。でも、まだまだ頑張れ。
梅枝クン(巻絹)にはどことなく冷たい美しさが漂っていて(それもステキ)、もう少し色っぽくてもよかったかなと思った。
「勧進帳」
菊之助さんの富樫、化粧で顔のふっくら感が抑えられており、非常に厳しく見えた(かっこいい)。強力を判官と見とがめた時の勢いが強烈で、一気に緊迫感が漲った。それに対して判官を守りここを切り抜けようとする弁慶の必死さに思わず涙がぶわっと湧き出てきた。打ち殺し見せ申さんと高ぶりを見せる弁慶に対し今度はそれを止める富樫の必死さにまた涙が湧いた。海老蔵と菊之助、若い2人の真正面からのぶつかり合いは手に汗握る激しさで、菊・吉とはまた違った魅力に舞台から目が離せなかった。ただ、「判官どのにもなき人を」のところは、菊五郎さんのほうが感動的だったかな。
判官御手は芝雀さんの手が舞台につきそうなところまで下がったのでちょっとびっくりした。あんなに下に下げた手は見たことがないような気がする(記憶が失われているだけかも、だけそ)。女形でない芝雀さんの声は友右衛門さんに似ていた。芝雀さんの笠の中の演技、海老・菊に見とれていて、見逃した。
海老蔵弁慶は大らかな團十郎さんとは違い、少し昏さをもち、鋭い。私は明るく包容力たっぷりの團十郎弁慶が好きだが、海老蔵弁慶もとても魅力的だ。そういえば、今回発声は全然気にならなかったな。しかし海老蔵オーラ出まくりの一方で、目をぎょろつかせ過ぎかなと思うところもあった。そのせいか、引っこみの時に客席後方から「にらんで」というおばちゃんの声が聞こえてきて(それも2回)、 笑いが起きたのは残念だった。でも、海老ちゃんの弁慶にはそこからもずっと義経を心配し追いかけていく真剣さを通していて、手拍子は起きなかっ た。ちゃんと客もそういう空気はわかるのだ。最後に富樫に目礼した後、客席に向かってお辞儀をする場面で海老蔵弁慶は明らかに天に向かって感謝していた。私はそこでまた感動したのだった。


「魚屋宗五郎」
ただただ面白かった。何と言っても一番ほっとして見ていられる菊五郎×時蔵夫婦だし。宗五郎が「おはま、もう一杯」と酒をせがむところなんて、おいおい宗五郎、なに甘えてるんだ、ってからかいたくなるような、長い間暮らしてきた夫婦の空気の濃さが感じられて、微笑ましかった。
お蔦の戒名が書かれた板を見ておはまが「こんなになっちまったんだねえ」と泣く場面では私も泣けた。
菊五郎さんの宗五郎はお蔦の突然の死を急には受け入れられないまでも、葬儀屋らなにやらしなくてはいけないという現実から、真相を知ってやりきれなさに怒り、酒をのまずにはいられない、そして久しぶりに飲んだ好きな酒があんまり美味しくてつい喜び、どんどん酔っぱらっていき、怒りが増すという心の動きが自然で、こちらはハラハラしながらも宗五郎の気持ちと同化していく。宗五郎の酒を飲む仕草に合わせて黒御簾音楽のテンポが速くなると、客席から笑いが起きる。だんだん酒癖の悪さが出てきて、しまいには酒をもってきたおなぎにまで当り散らす可笑しさ。
おなぎの梅枝クンは心からお蔦の死を悲しく思い、せめてもの慰めにと持ってきた酒でとんでもないことになって途方に暮れている様子がとてもよかった。娘を理不尽に殺された父親(團蔵)のやりきれない悲しみが胸を打つ。
弔問に来た茶屋娘おしげの右近クン、におい立つような娘ぶりだった。若い娘2人は、1人は町娘、1人は武家の腰元という違いが外見だけでなくはっきりわかるのが興味深かった。
出演者みんな、とてもよかったが特筆しておきたいのは橘太郎さんの三吉。この人がいるだけで、その時代、その物語の空気がすっと漂う。強い印象を残しながら、主役の邪魔は決してしていない。とくにこういう世話物では、菊五郎劇団は安心して見ていられる自然な空気をもっているなあと思う。
<上演時間>「毛抜」65分(11001205)、幕間35分、「勧進帳」74分(12401354)、幕間25分、「魚屋宗五郎」77分(14191536

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

5/2に観て参りました
お社の日でした

「魚屋宗五郎」について
お悔みの挨拶(「お後をお大事に」)や、決まり事(「こんな日は送っちゃいけねぃよ」など現代人の私から見ても参考になることがいろいろあって、それだけで芝居を観た甲斐があったというか、嬉しくなります
もしかしたら当時の人でも「そうだねそうだったね」と気付きながらお芝居を観ていたかもしれませんね
わたしが一番好きな場面は、宗五郎がおなぎさんを玄関先で見、その姿に妹お蔦の姿を思い出して胸が詰まる場面です(いつもぐっときます)
父太兵衛は、松助さんがお元気なら回ってこなかった役かもしれませんが、今では團蔵さんが枯れた演技ですっかり持ち役にされましたね 上手いものです 八剣玄蕃と同じ役者とは思えないですよね 
助高屋小伝次さんの父太兵衛が大好きでしたが、團蔵さんも良いです

投稿: うかれ坊主 | 2014年5月14日 (水) 10時02分

うかれ坊主様
無事にご覧になられてよかったですね。
魚屋宗五郎では、「こんな日は送っちゃいけない」というのがそのたび、一番印象に残ります。今はこちらが知っていても相手が知らないことも間々あるでしょうし(こちらが知らないことはたくさんあり過ぎますが)、見送らないのは却って失礼になったりして。当時の人でも「そうだったね」ということはあるかもしれませんね。
太兵衛は自慢の娘、かわいい娘を理不尽に殺されたのですから、宗五郎以上に悲しみや怒りは大きいと思うのですが、そこは身分の差を弁えてこらえているという様子がたまりません。でも、太兵衛も若かったら、絶対宗五郎と同じようにお屋敷に乗り込んでいったんじゃないか、そういう心情を團蔵さんから受けました。
年長の菊五郎さんが息子、年下の團蔵さんが父親っていうのが、歌舞伎の面白いところだなあと思います。

投稿: SwingingFujisan | 2014年5月14日 (水) 14時12分

そう言えば、磯部の殿様(錦之助さんぴったりはまってました!)が、最後に「けんごで暮らせよ」と言いますが、以前は「めでたいの~」でした

世間知らずの殿様が「めでたいの~」と言うのは「らしくて」悪くないと思うのですが、さすがに、本人が殺めた肉親の前で言うのはどうかということで変わったようです
現代人(常識人)の役者さんとしても言いにくくなっているのかもしれませんね

投稿: うかれ坊主 | 2014年5月14日 (水) 15時35分

うかれ坊主様
錦之助さんのあの役はもうすっかり手に入っていますよね。
「めでたいの~」にはおっしゃる通り、そういう殿さまらしさがありますね(そういえばどっちも酒乱だ)。でも現代感覚では受け入れられにくい言葉ですよね。今の感覚ではそれだってどうなの?と突っ込みたくもなりますが、江戸時代に庶民がお殿様の屋敷に乗り込んで、お手討ちになることもなく、反省させて金子や扶持をもらうのですから、当時としては快哉!というところだったんでしょうね。時代によって変化せざるを得ない部分もありますね。

投稿: SwingingFujisan | 2014年5月14日 (水) 19時31分

こんばんは。私も2日に見ましたよ! 2列目で、斜め前には尾木ママが(つまり、かぶりつきでご覧になってました)。
勧進帳の問答の時など、弁慶がまっすぐ見えて、それゆえに少し息苦しかったです。お顔の迫力がcoldsweats01
魚屋宗五郎はほんと絶品ですね。私もまず弔問の言葉のやりとりに、ハッとしてしまいました。音羽屋の家の芸として、菊之助もいずれ……なのかもしれないけど、まだまだやらないで、なんてことも、見るたびに思ってしまうのでした。

投稿: きびだんご | 2014年5月15日 (木) 01時30分

きびだんご様
こんばんは(お互い、夜更かしcoldsweats01)。
おお、はからずもお2人とも2日のご観劇だったんですね。私は連休中は避けたので遅くなってしまいました。
尾木ママが!! かぶりつきで‼ 弁慶のお顔(とくに目ヂカラ)はたしかにすごかったですものね。私は5列目だったのでちょうどよかったかも。それでもオペラグラスを時々覗いちゃいました。
弔問の場面、萬次郎さんと右近クンが本当に心からお蔦の死を悲しんでいる様子が窺えたのと、当時の江戸の風習(? 風俗?)がわかってしみじみした気持ちになりました。
菊之助さんの宗五郎か…私はまったく考えませんでした。そうか、音羽屋の芸なんだから、いずれやるんですね。う~ん、まだ想像できないなぁ。

投稿: SwingingFujisan | 2014年5月15日 (木) 02時23分

そうですそうです
尾木さんが居ました
小柄なのによく目立ちました
関係者にさかんに頭を下げたりしてましたっけ
幕間にロビーで目が合ってしまいました
(それだけのことですけど)

お社の日だっただけに関係者も多かったですね
わかっただけで申し上げますと
渡辺保(劇評家)・上村以和於(日経担当)・水落潔(毎日担当)・児玉竜一(朝日担当)・犬丸治(読売担当)・利根川裕(作家)・小田島雄志(翻訳家)・葛西聖司(NHK)・矢野誠一(作家)・扇田昭彦(演劇評論家)・藤田洋(演劇評論家)・永井多恵子(元NHKアナウンサー)といったところです

渡辺保さんは私のちょうど3つ前においででした

投稿: うかれ坊主 | 2014年5月15日 (木) 07時42分

うかれ坊主様
うかれ坊主様も尾木ママにお気づきでしたのね。私、最近、有名人見ていないなあ。あるいは気がつかないだけかもですが。

こんなにたくさんの方を見つけられたとは、さすがうかれ坊主様。私は御社日でもこんなにたくさんは無理ですわ。みなさん、どの辺の席でご覧なのかなといつも思っておりましたが、保先生はうかれ坊主様の3つ前でしたか(と言っても、うかれ坊主様のお席を存じませんが)。
先生方にはもっと舞台が進化してから見ていただきたいと思うこともありますけれど、批評を書くには早い時期に見ておかないといけないんでしょうね。

投稿: SwingingFujisan | 2014年5月15日 (木) 09時36分

おはようございます。
旧歌舞伎座で、幕間に喫茶室に入ったら、評論家の皆さんで貸切状態だったことがあります。ギョッとしたけど遠慮することもないと思い、カウンターで背を向けてました。
小田島先生は、少し前から杖をお使いですが、劇場通いがパワーの源なんでしょうね。
初日の夜の部には山川さんが(1階なので大向こうではない)。……というわけで、ミーハーだけれども常に「おじ(い)さんだけ発見器」の、きびだんごでした。

投稿: きびだんご | 2014年5月16日 (金) 10時07分

きびだんご様
こんばんは(になってしまって、ごめんなさい)。
さすがはきびだんご様、錚々たる先生方の中で堂々の背向け、かっこいいです。
おじさんもなかなか発見できない私には、きびだんご様が羨ましいです(山川さんは演舞場ではよく発見しましたが、歌舞伎座ではまだないかも)。私の場合、突然視野に誰かが飛び込んでくる感じで慌ててしまうので、「おじ(い)さんだけでもいいから発見器」のアンテナがほしいですわ~coldsweats01

投稿: SwingingFujisan | 2014年5月16日 (金) 20時38分

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