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2014年6月 2日 (月)

六月大歌舞伎初日昼の部

61日 六月大歌舞伎初日昼の部(歌舞伎座)
140602syoniti 久しぶりの初日。奥様方も大勢いらして華やかでいいね、初日は。今回は仁左様復帰祝いの最前列で観劇。オペラグラスの必要がないって、やっぱり素晴らしい。そして昼の部は期待以上によくて、もう一度見たくなった。でも、今後、色々控えなくては…の大出費だからなぁ。
「春霞歌舞伎草紙」
時様の阿国を中心に、亀寿、歌昇、萬太郎、米吉、種之助、隼人、右近、廣松の若手がずらっと花道に並び、本舞台へ移って舞うと、脇の役者さんも大勢加わり、華やかに踊る。やがて雷に打たれたように倒れる阿国たち。するとスッポンから名古屋山三の菊之助さんがす~っと上がってくる。菊ちゃんの美しさ。
若手の中では右近クンの踊りがうまいと思った。
竹蝶さんは、阿国一行の扮装のまま、時様の後見役をやっていた。
「実盛物語」
悪役の橘太郎さん(いかにもタチが悪そう)に、いきなり物語の世界に引きずり込まれた。これがたまらないのだ、毎度。右之助さん(小よし)は安心して見ていられる。梅枝クンはあまりおなかがふくらんでいなくて、臨月にはとても見えなかったが、落ち着きと品格があった。
子役ちゃん(太郎吉)がとても利発な感じでかわいいことこの上ない。客席の拍手を一身に受けていると言ってもいいくらい、大人を食っていたところがあった。この子役ちゃんがあんまりかわいいから、家橘さん(九郎助)が太郎吉を世話する姿に心打たれるし、実盛が見守る目の優しさに自分の目も同化するのである。子役ちゃん、ノリ地もなかなか上手だったよ。
菊五郎さんの実盛を見るのは、2011年南座顔見世以来、意外にも2度目。ほっこりとした感じがあたたかくて、気取らない感じで、いい意味でリラックスして見ていられる。葵御前が生んだのが腕であったなんてことがあるわけない、企んだなと怒る瀬尾に向かって実盛が語る、昔中国でどこかの后(聞き洩らした)が鉄を生んで、それを剣にしたというエピソードは今回初めて「ほう、そうだったのか」とわかった。って、今まで何回も見ている実盛なのに、何聞いていたんだろう。この鉄の話、菊五郎さんが話すと、ウソくさい反面そんなこともありそうな気になってきて(とはいえ、そんなことあるわけないよね)、憎らしい瀬尾をやりこめるのが痛快である。
葵御前が生んだという腕を見て、それが自分が切った小万の腕であることを悟った実盛。事情を物語る実盛の語りは、一度だけ見た「竹生島遊覧」の舞台を脳裏に浮かばせた(でも、ちょっとだけ眠くなってしまったのは、やっぱり昼の部だから)。
小万の腕を小万の身体にくっつけ、甦らせようとする時、九郎助が家の外の井戸の底に向かって「小万、小万」と呼びかけるのが印象的であった(死者に関する当時の考え方がわかる)。
今回、私のイチオシは左團次さん。「もどり」に、捨てた娘への思い、目の前にいる孫への思いがひしひしと伝わってきて、泣けた。前半の憎々しさが本当に憎らしかったので、もどりが余計効いた。孫の太郎吉が持つ刀に自ら手を添えて腹に刺し、真実を告げた後にぐっとその刀を回し、さらには太郎吉に手伝わせて自分の長刀で、我と我が首を落す(痛そうでこちらの顔もゆがむ)。瀬尾は平家に忠実で勇猛な武士、源氏側からみれば憎らしいだけのことである。本当は捨てた娘をずっと忘れないでいたのだし、孫への愛情ももっているし、何と言ってもこの勇猛さを見れば武士として優れているのであろうと察せられる。左團次さん、身ぐるみ剥がれたあの方(cf俳優祭)と同じ役者とは思えませぬ。
綿繰り馬の場面は、本当は敵味方それぞれの覚悟がぶつかり合うところなんだろうけど、何ともほのぼのした気持ちになり大好き。とくに実盛が太郎吉を馬に乗せてやるところは、思い出しても涙がにじむ。太郎吉は本物の馬に乗せてもらって、自分もこれから武士として駒王丸に仕えるのだという決意と希望で、どんなに胸が高まったことだろう。一方の実盛には、将来この子に討たれてやるのだという大らかな優しさが感じられて、またうるうるしてしまうのである。
今回小万役の菊ちゃんもいずれ実盛をやるんだろうか。ちょっと違うような気もするな、なんて余計なことを考えてしまった(ごめん)。

「大石最後の一日」
この芝居、これまでイマイチよくわからず、あまり面白いとも思わず、したがって好きな芝居ではなかった。ところが、今回は内容がよくわかり、大いに感動し、泣いた泣いた。正直、幸四郎さんに、あるいは大石最後の日にこんなに泣かされるとは思ってもいなかった(多分、まわりでも泣いていた人が何人かいたと思う)。というか、今までの私の理解不足は何だったんだろうと我と我が頭をぽかぽかしたくなる。

久々の幸四郎さんである。というのは、3月の加賀鳶も4月の髪結新三もパスしてしまったから。その幸四郎さんがめちゃくちゃよくて、泣いたのは第一に幸四郎さんがよかったからである。多分、新歌舞伎が幸四郎さんによく合って、理屈がきちんと理解できたのと、いつも自分が泣いてしまってちょっとこっちが引くようなところがあるのに今回はそれがなかったことによるものだろう。義士を束ねる大石の大きさも主張されることなく自然にど~んと感じられた。細川家の御曹司(隼人)の件では、お目通りではないから肩衣はいらぬという理屈を明晰に語るのが幸四郎さんらしくて、その理屈にも納得がいった。おみのと磯貝の気持ちを巧みに吐き出させ、どちらもしっかりと受け止めた思慮と大きさに胸がどきどきした。
吉良の処分を聞いた時の大石に、涙。それを告げる我當さんのあたたかさも感動的だった。
おみのの孝太郎さんも必死の思いが伝わってきてよかった。私が今までこの芝居を好きになれなかった理由の一つは、このおみのにあると、今気がついた。自分でもなぜかわからないけど、おみのという女があんまり好きじゃなかった。ところが、今回はおみのの気持ちがよく理解できて、おみのと一緒に磯貝の本心を知りたいと手に汗握った。だから、磯貝に琴の爪を見せるよう迫る大石に「もうお許しくだされませ」と叫んだ時には、思わずどっと涙が出た。
おみのを支える堀内伝右衛門(彌十郎)も、大きくあたたかくてよかった。
磯貝の錦之助さんが思いを秘めた若者を好演。おみのへの気持ちを爆発させてよかった。
隼人クンの優しさ、義士へのいたわり、あこがれがいかにも坊ちゃんらしくてなかなかよかった。
こうしてみると、みんな「よかった」であり、だからこそ泣けたのだろう。又言うけど、今までの私は何だったんだろうな。
「お祭り」
浅葱幕が振り落されると、千ちゃんと仁左様が!! 泣くかと思ったけど、もうこれだけで十分なほどの満足感、嬉しさで涙じゃなくて笑顔笑顔。仁左様、右肩も大丈夫そうで一安心。少し緊張気味だったかも。でもとにかくカッコいい。舞台上手、下手、中央と仁左様のお辞儀に割れんばかりの拍手。大向こうの声もかき消されそう。「待ってました」が舞台に届くかしらと心配になるほどだったが、無事に「待っていたとはありがてえ」が仁左様の口から発せられ、再び割れんばかりの大拍手が起きる。千之助クンの側転も見られたし、大満足。
ここにいなくっちゃいけない役者さんが亡くなったり、病気で休演したり、寂しい思いをしてきたけれど、三津五郎さんに続き、舞台に立つ姿を見るとそれだけで、気持ちが明るくなる。役者さん自身、舞台に立ちたくて仕方ないだろうけれど、今後は健康に十分気をつけて、私たちを楽しませてほしい。
<上演時間>「春霞歌舞伎草紙」28分(11001128)、幕間15分、「実盛物語」85分(11431308)、幕間30分、「大石最後の一日」80分(13381458)、幕間15分、「お祭り」17分(15131530

 

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
私も昼の部、初日を観劇しておりました。
「実盛物語」は、私も左團次さんに気持ちが行ってしまいました。「俳優祭」での強烈なパフォーマンスとのギャップが……ある意味スゴイ(笑)。また、これは「義賢最期」の続きだということが、今回、ようやくストンと入ってきました。
「大石……」では、隼人くんがお父様にそっくりで、「え、錦之助さんが若殿役?」なんて、何度か見直してしまいました。素顔は今風のイケメンなのに、お顔を作ると、やっぱりお父様似の品が出るんですねえ。
そして「お祭り」。このために初日を選んだのでした。
最前列でご覧になったなんて、ホント羨ましい!
私も仁左さまのお姿が現れたときから、ず~と顔が(笑顔で)崩れっぱなし。私の席には「待っていたとはありがてえ」が、怒濤の拍手にかき消されて、聞こえませんでした。とにかく無事に復帰されて、お目出たいことですね。

投稿: いちご | 2014年6月 3日 (火) 20時23分

いちご様
こんばんは。
コメントありがとうございます。
いちご様も「お祭り」のために初日をご覧になったのですね‼ 本当に「待っていました!!」ですよね。と書いて、思い出しました。たしか、「本当に待っていました」って大向こうがかかっていました。すごい拍手でしたから、大向こうも「ありがてえ」も拍手の音の中に埋まっちゃいましたね。「お祭り」は仁左様の復帰1日目とそのカッコよさだけで大満足でした。

左團次さん、よかったですね‼ そしてあのギャップ。ブログでも人を喰ったような調子にいつも笑わせてもらっています(メイド姿には奥様がだいぶお困りのようでした)。
考えてみれば、「義賢最期」でも「実盛物語」でも武士の壮絶な最期が描かれているのに、こちらはほのぼのとした趣があって、対比としてもよくできているなと思いました。ぜひまた通しでやってほしいものです。

隼人クン、おっしゃるように錦之助さんによく似ていますね。歌舞伎の親子ってよく似るものだなあと感心します。

投稿: SwingingFujisan | 2014年6月 3日 (火) 22時54分

わたしも初日に伺いました
1階4列目の上手でした
開幕の舞踊劇は米吉が良かったです
「実盛物語」は、菊五郎さんが愉しいそうに演じていて良かった(子役が良かったのもありますね)
瀬尾がずかずか入ったきた時に葵御前の入る部屋の前に移動してお守りする感じが良かったです 
井戸で呼ぶのは團蔵系の古い型と聞き及んだことがあります、菊五郎系では珍しいような
家橘さんがいつもそのようにされているかもしれませんが・・・
家橘・右之助夫婦もしっかりと舞台を支えていて嬉しかったです(お二人とも病を治されての舞台で大切に役を演じておられる感じがしみじみ致します)
「大石最後の一日」は好きな演目で、うるうるしてしまうのですが、今回も我當さんが良かったですよ
隼人はだいぶ体重を増やしたようですが、台詞回しも気持ちがこもっていました
お父さんの錦之助は夜の三次もよかったですが、磯貝役は持ち役とは言え、ぴったりでした
「初一念」は人生訓でもありますね(説教臭くならないところで踏みとどまっている感じですね)
素直に、受け取りたいと思ったりします ハイ
この場の内蔵助役は30年以上、幸四郎・吉右衛門兄弟お二人だけ
この下の世代から後継者を出しておかないといけませんね
幸四郎さん吉右衛門さんも初役の頃は40代であったわけですから・・・今の40代50代が手がけませんと藝の継承がされなくなりますもの
「お祭り」は、めでたく打ち出しという感じで良かったです 開幕直前から拍手の嵐でしたね
3世辰之助と12世團十郎が2人でよく踊っていました
その2人が早世と急逝でしたので、縁起をかついでこれからは1人で踊る形が多くなるように思います
以上、「良かった」の安売りで失礼しました
それにしても東京は暑かったですね・・・

投稿: うかれ坊主 | 2014年6月 4日 (水) 15時01分

うかれ坊主様
おお、初日ご覧でしたのね!! 私はほぼセンターでしたが、比較的お近くだったと言ってもいいですね。
「実盛」の菊五郎さん、ほんと、楽しそうでしたね。菊五郎さんのああいうお顔は好きです。主役にしても脇にしても、ベテランの存在感というものをしっかり見せていただいた気がしました。私は忘れっぽいものですから、井戸に向かって呼ぶ場面なんてあったかなあと思いましたが、2011年南座顔見世でもそうだったようです(筋書きにの粗筋にその場面のことが書いてあったので)。
「大石最後の一日」は、今回初めて良さがわかりました。我當さん、お人柄が出ていてよかったですね。やっぱりこの方は悪役よりあたたかい役のほうが合います。
隼人クンもすこしずつ成長しており、錦之助さんも安心でしょう(まだかな)。錦之助さんの繊細な心情表現、よかったです。
幸四郎さん、説教くさくなかったのがよかったのかもしれません。そうですか、30年以上もこの役は幸四郎、吉右衛門のお2人しかやっていないのですか。次世代はどなたが…何人かやりそうな名前は浮かびますものの、いずれもぴんときません。
「お祭り」は仁左様の復帰を祝い、華を楽しむ、それだけで十分でした。
「良かった」は私も安売り状態でしたが、本当に良かったから。

暑かったですね、ここ何日か。明日からは気温が下がるそうですが、いよいよ梅雨入りのようです。

投稿: SwingingFujisan | 2014年6月 4日 (水) 15時44分

東京・埼玉は雨続きのようでお見舞い申し上げます

鉄の玉を産んだのは蘇国の后である桃容夫人です

「大石最後の一日」は「琴の爪」という映画になっていて藤十郎(当時扇雀)と扇千景が共演し、結婚するきっかけになったと聞いています
戸板康二さんが映画上演にあたって「琴の爪」という名を提案したと自書で書かれています

「大石最後の一日」の初演の時の内記役はもしほ時代の17世勘三郎、18世も勘九郎時代二十歳になる直前に演じていますが、その子息の二人が演じていないのはちょっと残念です(もう流石に難しそうですものね)

投稿: うかれ坊主 | 2014年6月 8日 (日) 08時20分

うかれ坊主様
おはようございます。お見舞いありがとうございます。
雨が降らないのも困りますが、3日も続くとさすがにちょっと…。各地で大きな被害の出ないことを祈っています。

桃容夫人のことありがとうございます。こういう故事を実盛のセリフに盛り込んで瀬尾を言いくるめる作者の智恵に感心です。

「琴の爪」というタイトルと「大石最後の一日」というタイトルの示すポイントの違いが面白いですね。藤十郎夫妻結婚のきっかけというのは存じませんでした。

内記役は、では七緒八クンに期待しましょう。その時、大石はどなたが演じるんでしょうね。

投稿: SwingingFujisan | 2014年6月 8日 (日) 09時19分

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