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2014年10月12日 (日)

10月歌舞伎座昼の部

1010日 十月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)
相変わらず昼の部はきつい。電車で爆睡したのに、まだ眠気が取れないんだもの。1階で十八世勘三郎の遺影に手を合わせたら、急にこみ上げるものがあって、もうじき2年になろうとしている今、失った人の大きさをあらためて感じた(なんとなく、写真を撮るのは憚られてしまった。私らしくない)。
「野崎村」
芝翫さんの大根とんとんが忘れられない演目。福助さんでも見たし、今回七之助さんということで、芝翫さんからつながる3代のお光を見たことになる。大根――本物を使ってるから、野菜が高いこのご時世、毎日大変だなあ。あれってちゃんと誰かが食べているんだろうか、なんて最近の野菜高に悩まされている主婦としては歌舞伎以前にそんなことを考えてしまった。
江戸時代の物語を今日の感覚で見てはいけないことを重々承知で、今回ほどお光を哀れに思い、お染・久松に思い入れできなかったことはなかった。最初は「マッサンか」、なんてツッコミを入れていたのだけど、すぐに泣き、死ぬと脅し(脅しに見えちゃう)、久松を追い込むお染、なんだかハッキリしないけれど結局はほだされたかのようにお染を選ぶ久松、というふうに見えてしまったのだ。お染が死のうとすると、久松が「死なねばならぬのはこのワシ」、すると久作までが死ぬのは自分だと言い出し、ここは客席から笑いが起きた。本来なら笑うべきではないのだろうが、今回は笑っても仕方なく思えてしまったのが自分でも残念である。児太郎クン(お染)は一生懸命やっているが、とくに感情が高ぶった場面になると声に乱れが出て、気になった。まだ動き(体の線?)が硬いような気がした)が、ふとした時に福助さんにとても似ていると思うことがあった。
お光の母親(歌女之丞)が出てくるバージョンは初めて見た(と思う。見たことがあるかもしれないが、記憶に残っていない)。最初に、村の人がお大事にとかなんとか奥に声をかけていたのがなんとなく気になっていて(あ、おかあさんいたのか、と)、母親の登場には唐突感があったものの、あれが暗示だったかとわかった。とはいうものの、母親の登場の意味ある?という気がする。あまり効果的でないから通常は出さないのだろうか。
彌十郎さんの久作はく義太夫味が薄いような気がしたが、何度も演じているので安心して見てはいられる。
七之助さんのお光は初々しく、最初から最後まで女心がいじらしく伝わってくる。黒髪をおろした顔があらわになった瞬間には思わず涙が滲んだ。「嬉しかったはたった半刻」とはあまりに哀れで、又泣きそうになった。土手で3人を見送る姿は観音様みたいに見えた。「ととさん」の声はか細く、身を引いたものの諦めきれない切なさ、自分の気持ちにどう整理をつけていいかわからない心細さが感じられた。
しかし、歌舞伎座なのに両花道にしなかったのは大変残念である。花道で駕籠屋(実に逞しい、いかにも駕籠屋の肉体)が笑わせる場面が長く、船頭がただ背中を見せ、乗っているお常・お染も手持無沙汰なのは、こちらも何とも居心地の悪い思いがした。

「近江のお兼/三社祭」
35
分の幕間は、扇雀さんのため? 久松からお兼に変身するのに35分でも大変だったと思う。それなのに、両方とも、出だしの数分と最後の数分以外は沈没していて申し訳ない。近江のお兼では晒を新体操のリボンみたいに扱うのと馬の活躍を楽しんだ。
三社祭は橋之助さんと獅童さんの息が必ずしも合ってはいなかったが、躍動感があって、2人が楽しそうに踊っていたせいか、幕が閉まる時の拍手は意外なほど大きかった。
「伊勢音頭恋寝刃」
勘九郎さんの貢は2度目。初回の記憶はあまりない。勘九郎さんの多分人柄ゆえなんだろうが、実直な感じが強く、万野のいじめに耐える姿は勘九郎さんならではの味が出ていた。
玉三郎さんの万野はブツブツ言ったり、きつく貢を責めたりして、その意地悪さが客の笑いを取っていた。これまでの万野が笑いを呼んでいたかどうか覚えていないが、これくらい笑えたほうがいいのかもしれない(悪役、敵役には愛敬が必要って言うし)。貢は万野への怒りで殺すのではないのだから。貢とのやり取りではどうしても玉様のほうが目立ってしまいがちだが、主役を食わないように相当気を使っているのだろうという感じもした。
七之助さんのお紺は、肝心の縁切りのところでまた少し瞼が落ちたので大きなことは言えないが、貢のために必死になっている愛情に打たれた。
児太郎クンのお岸は声もきれいだったし、らしさがあってよかったと思う。このお岸が余計なことするから、こんなことになったのよねえ、といつも思う。
橋之助さんのお鹿はさぞ大げさに騒ぎ立てることだろうと懸念したが、かなり抑えていたように思う。その反面、案外面白さに欠けるような気がしたのはこっちの身勝手かしら。
梅玉さんの今田万次郎はまさにはまり役。ちょっとしか出てこないのに、とても印象に残った。
仁左様の喜助はカッコよすぎ。でも脚も腕もあんまり細くて心配になった。ラスト、危ういところで喜助が駆けつけハッピーエンドになるけれど貢の殺人は許されるの? 縁切りでハッピーエンドってそうそうないので、それはそれで嬉しいのだが、いつもここがもやもやと納得いかない。
<上演時間>「野崎村」75分(11001215)、幕間35分、「近江のお兼/三社祭」38分(12501328)、幕間20分、「伊勢音頭恋寝刃」85分(13481513

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

Fujisan様
 こんにちは。今週も台風で休み明けの出勤時の電車が心配です。
 歌舞伎座のレポ楽しく拝読しました。今月は「鰯売」の評判がいいようですね。私は昼夜ともに今月後半です。今月、演舞場ははずせないので、土日が結構ハードスケジュールです。
 昨日は国立劇場行ってきました。あまり、期待しなかったのですが、「引窓」がなかなか結構でした。この場面、義太夫狂言屈指の名作ですね。染五郎、欲を言えばきりがないですが、それなりに頑張っていました。周りの俳優が目いっぱい盛りたてているといった印象です。あえていえば、吉右衛門風なんでしょうか。幸四郎の濡髪、相変わらずわかりやすい演技ですが、ともかく、貫録でした。なんだかんだといっても、健康で座頭の役割を勤めてほしいものです。11月は結構悩んだ末に、歌舞伎座昼夜ともにチケット買いました。昼どうしようかと思いましたが、吉右衛門の「大老」未見なので仕方ないですね。

投稿: レオン・パパ | 2014年10月13日 (月) 11時21分

レオン・パパ様
こんばんは。コメントありがとうございます‼
今月は歌舞伎座、演舞場、国立と3座なので忙しいですね。実は、私は今日国立に行ってきました。
おっしゃるように「引窓」がとてもよかったです‼
11月歌舞伎座は昼の部パスしましたが、「大老」だけは見たいので、心身に余裕があれば幕見で、と思っています。
レオン・パパ様は吉右衛門さんの「大老」はご覧になっていないのですか。私は8年前に歌舞伎座で「井伊大老」を、6年前に国立で「大老」の通しを見たのですが(両方とも吉右衛門さんでした)、今回の「井伊大老」と8年前の「井伊大老」は別作品なんでしょうか(「大老」と「井伊大老」は別作品のようですね)。
ところで、国立のプログラムに織田絋二さんが「北条秀司――『大老』のこと」というタイトルで高麗屋で「大老」が昭和42年に上演された時のエピソードを書かれていますが、読まれましたか? 大変面白いですよ。

明日のご出勤時、台風直撃なんでしょうか。お勤めの方は本当に大変だといつも思います。くれぐれもお気をつけくださいね。

投稿: SwingingFujisan | 2014年10月13日 (月) 18時49分

こんばんは
コメント お返しありがとうございました。
今回、上演される、「井伊大老」は国立でFUJISANさんがご覧になった「大老」の一部を抜粋したものだと思いますが、未見なので、あまり自信がありません。織田さんの「大老」の話は、演劇界でもでていたような気がしますし、北條さんの回顧録でも読んだきがします。国立劇場の開場当時は、とにかく新しい風を起こそうという気概があふれていたんでしょうね。12月に上演される数十年ぶりの「伊賀越え 岡崎」も意欲的な上演だったといわれています。私も、「岡崎」も未見ですが、暗い芝居らしいとはいえ、見に行く予定です。私にとって、今の播磨屋と松嶋屋の芝居は見ておかないと後々、悔いが残る気がします。
 あと、三津五郎の舞踊です。早く元気になってほしいものです。FUJISANさんはご覧にならなかったようですが、8月第3部の「競獅子」は傑出した出来でした。一緒に踊った方には悪いですが、まわりの役者の踊りとは格の違いが歴然でした。

投稿: レオン・パパ | 2014年10月13日 (月) 19時14分

レオン・パパ様
再びのコメントありがとうございます。
「大老」、ややこしいですね。でも、話の内容は好きです。
織田さんのお話、けっこう有名なんですね。
12月の国立は、私も楽しみにしています。
播磨屋さんは一時期出ずっぱりで体調を心配しましたが、最近は少し休養を取られているのかしら。松嶋屋さんは以前からそうでしたが先日あんまりほっそりしているのが気になりました。どちらも今の歌舞伎界には欠かせない役者さんなので、ご本人も周囲も大事にしてほしいと思います。
三津五郎さんも早い復帰が待たれますが、しっかり本復してほしいですね。「勢獅子」、そうですか、見ないで残念なことをしました。まわりとの格の違い、ってわかるような気がします。

雨が強くなってきました…。

投稿: SwingingFujisan | 2014年10月13日 (月) 20時29分

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