« ヤバイ | トップページ | 明治座来年5月花形歌舞伎 »

2014年11月18日 (火)

「伽羅先代萩」

1113日 「伽羅先代萩」(国立劇場大劇場)
この通しを見るのは4度目だが(そんなに見ているのか、と自分でオドロキ)、国立劇場でのこの通し(花水橋→竹の間→奥殿→床下→問註所→刃傷)は意外にも初めてなんだそうだ。
「花水橋」
梅玉さんの頼兼が放蕩そうな空気を放ちつつ上品で嫌味がなく、ステキである。襲いかかってくる者たちを扇1本で鷹揚に(颯爽とではなくて、柔らかさの中にどことなくきっぱりしたところがあって、「鷹揚に」という表現がぴったり)躱す姿を見ていると、この人なんで悪だくみに乗せられちゃったんだろうと不思議になる。それに絹川(松江)の助けなどなくても1人で大丈夫なんじゃないかと思うほどだけど、お殿様は自分で悪人どもを斬ったりはしないから、やっぱり誰か助けが必要なのだろう。松江さんの絹川は力強さと真面目さが忠義の力士らしくてよい。松江さんって、いかにも歌舞伎役者らしい役者さんだといつも思う。
「竹の間」
扇雀さんの政岡は顔だけ見るとちょっときつさがあって八汐か、と言ってしまいそう。でもそのきつさが厳しい状況で鶴千代君を守る政岡の忠義、覚悟、強さを表しているのかもしれない。
八汐の翫雀さんは反対に優しげな顔で、意地悪さとのギャップが面白いのだろうが、ここは仁左様の八汐があまりに傑作であったため、どうしても比較してしまう。翫雀さんにしては案外ストレートで、もうちょっと愛敬というか茶目っけみたいなものがあってもよかったかもと思った。鶴千代君が八汐をやりこめる場面ももっと面白くなってもよかったのに、とちょっと残念。
沖の井(孝太郎)は松島(亀鶴)よりセリフが多いのに、意外にもここでは松島のほうが存在感があったような気がした。
嘉藤太の橘太郎さん、小槇の秀調さんが役の空気をしっかり醸し出していて、うまいと思った。
鶴千代の子役ちゃんも幼いのに殿としての自覚が感じられ上手だったが、千松の子役ちゃんが千松の立場をしっかり演じていて感心した。いつも鶴千代君にくっついて、曲者探しの時も天井に目をやり、曲者が落ちて来たらすぐに鶴千代のそばに寄って守ろうとしていた。その姿がいじらしくてうるうるしてしまった。

 

「奥殿・床下」
ここでも子役ちゃんたちのいじらしさが光り、客席の拍手を呼んでいた。
藤十郎さんの政岡には、常に鶴千代を守ろうとする心、2人を包む大きな愛が見えた。千松が刺されると政岡はすぐに鶴千代を上手の自分の部屋に押しやる。政岡ってこんなに早く鶴千代をこの場から去らせたんだっけ。
千松の胸元に深く懐剣を差し込みながら八汐が「政岡、現在のそなたの子、悲しうはないかいのう」と憎々しくも問うと、政岡は「何のまあ、お上へ対し慮外せし千松、ご成敗はお家のため」と答える。千松は苦しい息の中でこの母の言葉を聞いている。千松はどんな思いでこの言葉を聞き、どんな思いで死んでいったのだろう、また母は死にいく千松がどんな気持ちでいるかを慮りながらそれを表にあらわさぬようどれだけこらえていることだろう、とこの場面が私はいつも一番つらい。栄御前の目には「平然」と映る政岡は客席からはそうは見えない。政岡役者としてはその加減がむずかしいんだろうなあと思う。そしてもしかしたら「ご成敗はお家のため」が一番聞かせどころなのかもしれない。なぜなら、政岡はその言葉を千松にだけわかる褒め言葉として聞かせたかったんじゃなかろうか、と思ったから(そう願いたい)。政岡がただ千松にそのような教育を施しただけなら、それは褒め言葉として響かないであろう。母の深い愛があったればこそ、「この母が常々教えおいたこと」を賢い千松はまさにそのタイミングで実行したに違いない(子役ちゃんの演技にもそれが感じられた)。「ご成敗はお家のため」の中に「でかしゃった」の叫びが聞こえるようだった。そう思えばなお、千松と政岡が哀れである。
千松がなぶられている間、栄御前(東蔵)は下手へ移り、扇の陰からしっかり政岡の様子を見ていた。その表情に「納得」感がありありと現れていた。
「問註所」「刃傷」
橋之助さんの仁木弾正がとてもよかった。いつもは甲高くて耳障りにさえ思える声を低く抑え(セリフがいい)、容姿からくる凄みと相俟って大きな弾正になっていた。ところが国生クン(渡辺民部)のセリフがお父さんの普段にちょっと似て、ややうるさい感じがした。それが気になった以外は真摯に役に取り組んでいたと思う。もう少し動きに余裕が感じられるともっとよくなるだろう。虎之介クン(山中鹿之助)は若々しい正義がよく、梅丸くん(笹野才蔵)はきりりと美しかった。
梅玉さん2役目の細川勝元は仁左様のようなスッキリ爽やかさとは違って、ちょっとねちっこさがあるためスカっと感は仁左様のほうが強いが、梅玉さんのキャラが十二分に活かされた勝元で、とてもかっこよかった。

見る前はあまり期待していなかった(「御殿」を何度も見ているから、何となく「又か」という思いだった)のに、見終わったらとてもよくて、とくに「奥殿」をもう一度見たくなってしまった。何度もかかる演目って、そういうことなのかなあ。
しかし国立は歌舞伎鑑賞教室を除いて空席が目立つのが何とも残念である。手ごろな料金でこんなにいい歌舞伎が見られるのだから。
<上演時間>「花水橋」「竹の間」80分(12001320)、幕間35分、「奥殿」「床下」70分(13551505)、幕間25分、「問註所」「刃傷」65分(15301635

 

|
|

« ヤバイ | トップページ | 明治座来年5月花形歌舞伎 »

歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

Fujisan様
 国立、三連休の初日にみてきました。私も、今回、梅玉が出演しなければパスしていたかもしれません。先代萩、やはり屈指の名作、見ごたえがありましたね。とはいえ、藤十郎のせりふが年々、聴き辛くなるのは、やや閉口です。で、梅玉、せりふがかすれ気味が気になりましたがまさしく期待通りです。足利公、何十年ぶりでみましたが、現大幹部の中では最上でしょう。この優の義経の諸役と双璧だと思います。細川勝元、松嶋屋も良いですが、こちらも、ニンにあっており、本当に安心して見ていられますね。
 ところで、渡辺保先生ご指摘の仁木の死体をハムレットなみに高々と掲げるやり方、私も変だと思いますが、これ、かなり前からやっていたように思いますし、誰も直そうとしないのは、そのほうが大幹部の引っ込み(?)にふさわしいということでしょうか。

投稿: レオン・パパ | 2014年11月24日 (月) 17時44分

レオン・パパ様
こちらにもありがとうございます。
藤十郎さんのセリフについては、私は以前に気になっていたずるずるっとした発声の感覚はなくなってきたと思っていたのですが…。
梅玉さんは素晴らしいですね。品といい、色気といい、足利公にぴったりです。松嶋屋さんの細川勝元は最高だと思いますが、足利公との2役という観点でいえば、梅玉さんですね。最近、ときめく役者さんの1人です。
仁木の死体のこと、私は何の疑問ももたずそういうものだと思って見ていましたから、保先生のご意見でそういうものでもないのか、とびっくりしたくらいです。悪の華にふさわしい役者がやれば、ああいうのも悪くないと思いますが…。橋之助さんは、仁木役者としてこれからも期待したいと思いました。

投稿: SwingingFujisan | 2014年11月24日 (月) 21時41分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« ヤバイ | トップページ | 明治座来年5月花形歌舞伎 »