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2015年5月22日 (金)

楽しく気分よい明治座昼の部

518日 五月花形歌舞伎昼の部(明治座)
歌舞伎座の轍を踏まぬよう、睡眠時間はまあまあ取った。おかげでがくっときたのは1回ちょこっとだけ。何より面白かったからあまり眠くならないですんだ。
「矢の根」
市松模様の障子が上がって右近さんの姿が見えた瞬間、ああ五郎だと思った。力強く大らかで、きっちり演じていて余裕もある。動きがきれい。右近さんがジャンプしてそのままどすんと尻から床に下りると大拍手。後見の喜美介さんが注意深く右近さんの身体を倒して自分の背にのせると客席がどよめいた。右近さんは両腕を斜め上にあげたまま寝ていて、豪快な寝方だが両腕が疲れそう。
目覚めた五郎が兄救出のための身支度をするとき、もう1人の後見喜昇さんが仁王襷をものすご~く締め上げていて、途中で拍手が起きた。身支度が整うまで、演奏が間をもたせるのだが、以前見た時同様、喜昇さんが三味線へもうじき終わるという目配せをしていた。こういう場面は見ていて楽しい。
畑右衛門から馬を奪う場面は、「小栗栖の長兵衛」を思い出してしまった。猿弥さんの畑右衛門は体型的には五郎に負けていない(失礼)が、力では負けてでんぐり返って下手の柴垣内へ追いやられるのがご愛嬌で笑えた。
亀鶴さんの大薩摩文太夫はセリフがない(大薩摩がかわりに言う)が、行儀よくきっちりつとめていた。笑也さんの十郎はきれいだった。
のどかで他愛なく豪快で、大根を鞭替りにする最後の見せ場も楽しく、気分よかった。
「男の花道」
前回見たのは、福助・歌右衛門、梅雀・玄碩で、歌舞伎ではなかった。「男の花道」にはいくつかのバリエーションがあるらしく、福助さんで見たときと今回とではずいぶん内容も違っていた。
猿之助さんの歌右衛門――「ああ、やっぱりカメちゃんは女方の人だ」と久しぶりに見る女方にコーフンしていたら、「ん? ちょっと男入ってるぞ」。で、気がついた。歌右衛門は女方の男性役者であり、猿之助さんが演じているのは、男性なのだ。それは福助さんの時にも思ったことだが、福助さんのほうが最初から女方の男性役者だった。猿之助さんは徐々に男性部分を強く出していったような気がした。
目が見えるようになった歌右衛門の「富士のお山が見える」に喜びが満ち溢れていた。そして「この歌右衛門は甦ったのだ」と胸を張る場面では不死鳥の美しさと自信が漲り、感動した。
玄碩の中車さんは梅雀さんの玄碩に比べて偏屈さが薄い。でもあの偏屈さは梅雀さんの飄々とした味があるからいいのであって中車さんだったら重すぎただろう。中車さんは偏屈というよりは自分の信念で生きている。実際重いが、それだけに説得力はある。手術を成功させ、歌右衛門との友情を確かなものにした玄碩が江戸へ発つために宿を出ると、正面を見て「見事な富士の山だ」と感嘆する。目が見えるようになった歌右衛門の「富士のお山が見える」のセリフに呼応したように思った。そういえば、梅雀版では玄碩に女房子供がいたが、こちらではいない(あるいは、いたとしても出てこない)。そのかわりに、田辺嘉右衛門の妻子が出てきた。

田辺は愛之助さんで、玄碩を追い詰め窮地に陥れるが、悪意というよりは、年上妻に締め付けられている鬱憤を晴らしたいという感じを受けた。嫌味でワガママなところもあるものの、切腹が決まっても「切腹しないで踊れ」と玄碩に言うあたりは、案外悪いキャラじゃないなと思った。愛之助さんの田辺はそういうキャラを好演していた。
再び中車さん、田辺に抵抗する頑なさにギョロ目があって、重さが活きた。玄碩が歌右衛門を呼ばざるを得なくなる状況は福助版より受け入れられた。
田辺の妻は門之助さん。年上女房のヒステリー、やきもちやきに辟易した(田辺の気持ち、わかる…)。娘は笑也さんで、ピンクの振袖姿があでやか、まったく違和感のない若さである。贔屓の歌右衛門を父親が座敷に呼んだと知って期待にウキウキ、来ないとわかってがっかり落胆、そういう様子がいかにも若い娘らしかった。
この芝居では、序幕第一場に「芝居前」、二幕目第三場に「中村座の舞台」があって、歌右衛門の人気を観客も分かち合うことができる。序幕で玄碩に歌右衛門の目が悪いことを指摘された弟子の歌五郎(亀鶴)の否定しつつも戸惑う表情が雄弁に真実を語っていた。もう1人の弟子歌助(壱太郎)は中村座の舞台で歌右衛門が人形振りで演じる櫓のお七で後見、田辺の前での舞で鼓を担当していた。壱太郎クン、お母さんにそっくりだった。
劇中劇では竹三郎さんの口上があった。玄碩からの手紙で突然中断する芝居に、客席から野次が飛ぶ。実際に1階席に野次を飛ばす役者さんが何人かいたんだと思う。そのおかげで、客に事情を説明して許しを請う歌右衛門の心、それを受け入れる相手は中村座の客であり明治座の客なんだと実感した。
玄碩の許に駆けつける歌右衛門はお七の衣裳ではなかった。なんだ、着替えたのか。お七の衣裳で来れば、もっと余裕で間に合ったのに、それではドラマチックにならないか。そういえばつい最近、似たような場面を見たな、と思い出したのは、池田大助を待つ大岡だった。
福助版ではぽろぽろ泣いたものだが、今回は泣かなかった。泣かないけれど、芝居を見終わった後はすっきりといい気持で帰路に着けた。
<上演時間>「矢の根」30分(11001130)、幕間30分、「男の花道」一幕目70分(12001310)、幕間30分、二幕目70分(13401450
これくらいで終わってくれると本当に楽。

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