« 芝のぶちゃんの八重垣姫‼ | トップページ | だらしなくなく生活する »

2015年5月28日 (木)

セリフの妙とケレンの妙:明治座夜の部

526日 五月花形歌舞伎千穐楽夜の部(明治座)
明治座に入って最初に目に入ったのは竹三郎さん休演のお知らせ。昼の部だけの出演だったけど、いつから休演されていたのかしら(後で調べたら22日からだそう)。体調不良とのこと、とても心配です(追記:6月の博多座も休演だそうで、ますます心配です)。
この日のQさま、澤瀉屋内での対戦だった。個人的には笑野さんが出ていたのがとても嬉しかった。
「あんまと泥棒」
夜の部なのになぜか激ネムで、行きの電車の中で爆睡、開演前も座席でうとうと。気がついたら緞帳が上がりかけていた。中車さん(あんま)の声だけが聞こえてきた。そのうち障子にあんまの影が映り、客との会話(一方的にあんまのセリフ)が続き、療治を終えたあんまがついに姿を現す。この芝居はあんまと泥棒の2人芝居だが、あんまは途中提灯を持った男と出会う。この男は黒衣の格好をしていて、あんまに話しかけられても返事はしない。黒衣だから筋書きに名前も載っていない。なるほど、こういう形であんまとかかわる人間を出したのか、とちょっと感心した。しかもここは後のあんまの本性の伏線となる。あんまは犬に吠えられたり(「丸橋忠弥」の犬もうまかったが、こちらの犬の鳴き声も本物みたいだった)、どぶに落ちたり、社会への不満をぶつぶつ口にしながら帰路に着く。
舞台は暗いし、あんまが自宅に着いた時またちょっと睡魔に襲われ、軽く目をつぶったらすぐに拍手が起こったから目を開くと、泥棒(猿之助)が登場したところだった。さあ、それからが面白くて面白くて引き込まれた。
あんまは見た目も薄汚く、社会の底辺に位置しているがゆえに金しか信じられないという人間性はあまりきれいではないものの、そのくらいしたたかでないと生きていかれないのかもしれない、と中車さんから思わされた。中車さんは昼の部の玄碩よりもこういうしたたかで屈折した人間のほうがうまいのかもしれない。顔芸(サクラスでしっかり覗いた)、畳み掛けたり少し置いたりするセリフの間で、哀れさと図太さを緩急自在に表現し泥棒を翻弄する。その巧さが光った。もちろん、猿之助・中車2人の会話だけで成り立っている芝居だから、2人の呼吸がぴったり合っていることが大事で、それもこの芝居を面白くした一因には違いない。あるいは猿之助さんが中車さんのよいところを引き出すように演技していたのかもしれない。
座頭たちの借金の取り立て法を語るところが面白い。ひところのサラ金を思わせる。
泥棒もやはり社会の底辺に落ちた人間であるが、そうなった経緯は気の毒だし、あんまを威嚇する一方で、あんまの手のひらで踊らされるナイーブさみたいなものが猿之助さんにはあり、自分の不運を社会のせいにしながら、あんまに諭され、徐々に自分の生き方に疑問を持ち始める動揺がうまく表現されていた。1日の稼ぎがいくらだからひと月ではいくらになって1年ではいくらになると計算させられ、割に合わない仕事だとあんまに指摘されるのが面白かった。
あんまに焼酎を出させ、それを1人占めするのではなくあんまにも飲ませてやる気の良さがよい。普通酒を飲むシーンでは実際には茶碗に何も入っておらず、飲む芝居をするのだが、ふと茶碗に水が入っているのに気がついた。あれれ、と考えているうちに、泥棒が言ったことにあんまがびっくりして焼酎をぷーっと泥棒に吹きかけてしまった。ああ、このために水を入れておいたのか。カメちゃん、ひどく丁寧に何度も衣裳や顔、首を拭いていた。
泥棒をうまくだまし、金まで恵まさせ、いひひひと床下に隠した金貨を床にまき、ちゃりちゃりいう音に酔うあんまの姿は逞しくもあるが、いじましくおぞましい(そんなに貯めてどうするんだ、墓場まで持っていく気か)。その一方でそれしか楽しみのないあんまの悲哀を思った。
いやあ、ほんと面白くて見応えあった。

「鯉つかみ」
前回も明治座の5月公演で見た「鯉つかみ」だが、今回は初めて見る序幕百足退治の場と登竜の場がついていた。おかげで、前回よくわからなかった部分が明らかになって、その分面白さが増していた。
百足の生贄となる長者の娘・りき彌さんがきれいで、諦めと不安が見えてよかった。これを救わんとする瀬織津媛の秀太郎さんは琵琶湖の守護神らしい貫録に加えて、神としての清々しさがあった。
俵藤太の愛之助さんは勇壮。
百足の脚たちの動きはそれらしくて面白かったが、ところどころ揃っていないようにも見えた。でも、最後はきっちり決めて拍手。
琵琶湖中の場では鯉王の中車さんに注目した。発声や見得など歌舞伎らしさを少しずつ摑んできている。でも、後に亀鶴・男女蔵・猿三郎3人の場面を見たら、やっぱりまだまだかなと思った。そりゃあ、中車さんはまだ3歳児(って、今月はじめの「ノンストップ」で自身そう言っていた)だもの、やむを得ないよね。
鮒五郎の右近さんを見て、「傾城反魂香」の雅楽之助を思い出した。
鯉王親子が俵藤太を恨むのはわからないでもないけれど、悪いのは百足なんじゃないの?とこっそりツッコンだ。
二幕目の清水寺花見の場では弘太郎さんの三枚目ぶりを楽しんだ。釣家息女小桜姫(壱太郎)に一目惚れしての「嫁がとりたい、嫁がとりたい」は弘太郎さんの童顔もコミでまるで子供の駄々というのがウケた。志賀之助(愛之助)にやっつけられると「それにつけても先ほどの愛之助に似た奴、今度会ったら倍返しだ」。まだ「倍返し」で笑いが取れるんだねえ。そういえばこの時点では愛之助さんのことしか考えなかったけど、香川照之さんもこの前の場に出ていたんだわ、と今ごろ気がついた。
真葛ヶ原の場では、釣家の奴瀬田平(愛之助)と悪役組の晴近(國矢)が争ううち、唐突に釣家家老の妻呉竹(門之助)に悪役組の堅田刑部(男女蔵)も加わってのだんまりになった。晴近は顔も声も錦之助さんに似ていて、おや?と思ったが、姿形が違うのでまたまたおや?と思って筋書で確認したら國矢さんだった。
愛之助さんの瀬田平→志賀之助の早替りは吹替えの顔が見えたが動きがあるのでよくわからなかった。
大詰では待望の亀鶴さんが登場。釣家家老としての大きさもあり、妻役の門之助さんとのバランスに違和感もない。声よし、形よし、かっこいい。
小桜姫うたた寝の夢の中、舞っているうちに倒れるとスッポンから大きな鯉が上がってきた。中から志賀之助が現れる。宙乗りになるようだ。でも宙乗り小屋はない。どうなるのかと見ていると(前回もこの場面あったようだけど、覚えていなかった)、愛之助さんは3階正面席の前まで優雅に飛んできて、そこからバック、スッポンの位置に戻って下りた。私は宙乗り狙いだったのかどうか忘れたけれど下手の席を取っていたので、バッチリ真正面に愛之助さんが飛んできて、嬉しかった。
姫が夢から覚めると現実の志賀之助が現れる。歌舞伎の女性たちというのは積極的で、志賀之助が小桜姫の想い人だとわかると、呉竹は早く2人でしっぽりと、と煽る。志賀之助はとまどいためらっているというのに。しかしこの志賀之助は俵藤太末裔の釣家に恨みを抱く鯉の化身だとわかる。本物の志賀之助が放った矢がニセ志賀之助に当たり、ニセ者は水中へ逃げる。ここは釣家館の下にプールができていて、愛之助さんはそこに飛び込むと泳いで奥へと消えた。
いよいよ鯉退治の場面。大薩摩が勇壮でとてもよかった。
愛之助さん、回転ジャンプで水に飛び込み、ばしゃばしゃ水をはねて、鯉とともに大暴れ。10年前の私なら絶対最前列で水を浴びてきゃあきゃあ言っていただろう。いつから、遥か3階で客観的に眺めることになったのかしら。それにしても、鯉もラブリンも相当消耗するだろうなあ。鯉が苦しがって目を白黒させたり、目をむいて倒れちゃったりするのが愛敬たっぷりでかわいかった。
ともかくめでたく鯉を退治した志賀之助、花道を泳ぎ六方で引っこんだ。前回と同じく拍手が手拍子になったのはまあね、というところ。
ところで、今月歌舞伎座も明治座も夜の部は立ち回り月間だったねcoldsweats01

<上演時間>「あんまと泥棒」40分(16001640)、幕間30分、「鯉つかみ」序幕40分(17101750)、幕間10分、二幕目35分(18001835)、幕間30分、大詰65分(19052010

|
|

« 芝のぶちゃんの八重垣姫‼ | トップページ | だらしなくなく生活する »

歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 芝のぶちゃんの八重垣姫‼ | トップページ | だらしなくなく生活する »