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2015年6月 6日 (土)

ていねいに描かれているから面白い「駆込み女と駆出し男」

529日 「駆込み女と駆出し男」(MOVIX川口)
井上ひさし原案「東慶寺花だより」は去年1月に歌舞伎座で上演されて面白かったから、映画もぜひ見たいと思っていた。歌舞伎は喜劇だったのでそんな先入観で見たら、全然違っていた(原作、読まなくちゃと思いつつ、まだ読んでいないのよね~)。もちろん、大泉洋(中村信次郎:歌舞伎では染五郎)のキャラクターは抑えながらも十分活かされていたし(大泉洋を前面に押し出さないっていう点で適役!)、くすっと笑える場面もけっこうあったが、女性たちの事情がもっと重い。
その重い事情を丁寧に描いていたのが見ていてつらかったけれどもよかった。俳優もそれぞれ適材適所でよかった。ただ、時代劇らしさを醸し出す俳優はもうこの時代、いないのかもしれないなと思わされた。みんな現代の顔なのよね。眉を落し、お歯黒をつけた満島ひかり(お吟)でさえ、顔は現代的だなと思った。また、セリフの中に時々気になる言葉(一つだけ覚えているのは「心が折れる」。この言葉って江戸時代にあったのかな。原作にもあるのかな。以前見たテレビ番組では、神取忍が最初に使った言葉だって言ってたけど、もっともテレビが正しいとは限らないから…)もあったりして、私には時代劇らしさがあまり感じられなかった。
しかし考えてみれば私の知っている時代劇は必ずチャンバラが入る男性主体のものに過ぎない。そういう、いわゆる「時代劇」とはちょっと違っているのはだんだん気にならなくなるくらい、当時の女性たちの苦境、それを助けようという人たちの思い、それに縋って新たな生き方を見つける女性たちの物語に入り込んだ。駆け込んだからってすぐに認められるわけでもなく、また2年間の東慶寺での生活は厳しいものであったけれど(いじめもあったみたいだし)、精神的・身体的に苦痛を与えられた女性たちがそれに堪えてまで自由を得たい必死さにハラハラドキドキした。
一方で女に駆け込まれ、怒りまくる男、狂気に走る男、疑心暗鬼になる男――男たちの反応も興味深い一方で、柏屋の人々や駆け込んだ女性たちがどうなるんだろうと、ハラハラドキドキもさせられたが、弱者が勝つという結末にカタルシスを覚えた。

お吟とじょご(戸田恵梨香)の間に通う信頼関係、気持ちはしみじみ素敵だった。仇っぽくてちょっとつっけんどんにも感じられるお吟の心持を演じる満島ひかりは秀逸で、じょごとの別れの場面では涙が出た。お吟の美学が切ない。駆け込んだ理由はややサスペンスめいて、本来堅気でない堀切屋三郎衛門(堤真一)の誤解で信次郎が不要な暴行を受けた後に明らかになる。女として理解できる。そのお吟をそっと見送る三郎衛門もまた切ない。お吟に三郎衛門の唱える経は聞こえただろうか。きっと聞こえたと信じたい。
じょごは強い。自分をしっかり見つめるようになってからはとくに強い。強いだけに、幸せになってほしいと心から願った。最後の選択にほっとした。
主役であるお吟、じょご、そして信次郎の3人だけでなく、周囲の人たちもていねいに描かれており、さらに体制の抑圧が見せる暗い側面も相俟って、3人の物語が鮮やかに浮かび上がってくる。
東慶寺院代の法秀尼(陽月華)の凜とした姿が美しいが、時折見せるヒステリックな態度が面白かった。またその秘密も…。
御用宿・柏屋の主人源兵衛が女性(樹木希林)というのは、信次郎もびっくりしていたが、私も意外だった。名前が男だからって人も男とは限らないというようなことを劇中の誰かが言っていたっけ。
木場勝己、キムラ緑子、神野三鈴、北村有起哉、橋本じゅん、麿赤児、内山理名、武田真治など豪華な出演者の中で、中村嘉葎雄がじょごの祖父役、山﨑努が滝沢馬琴役で出ていたのは嬉しかった。
<上映時間>143

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コメント

私が紀伊國屋サザンシアターで「戯作者銘々伝」をこれから見るよ〜と、友人にメールしたら、その友人は、これから(横浜で)「駆込み女と〜」を見る、とのことでした。それが、奇しくも5月29日! なんだか皆さん、井上ひさしの日、だったようなwink
私もお芝居の中で、やはり江戸時代なのに現代的な言葉⁉︎と、引っかかってしまったところがcoldsweats02
映画のキャストも魅力的ですよね。北村有起哉さんが出演されてるのは知りませんでした。劇場でもこの映画のチラシはもらってたのに。
なかなか映画は見に行けないんですが、さて。(とりあえず近所の二番館に「ヴァチカン美術館」が来るのを待ってます)

投稿: きびだんご | 2015年6月 7日 (日) 01時20分

きびだんご様
おはようございます。
あらら、きびだんご様とは以前ボッティチェリで偶然がありましたが、今回はお友達もご一緒に井上ひさしデーでしたのね。
「駆込み」は映画なのでセリフにも現代的なにおいがあるのかなと思っていましたが、原作のセリフを一言一句変えてはいけないお芝居でも「??」という言葉があったんですね。
北村さん、よかったですよ~、憎らしくてcoldsweats01 機会があったらぜひ。
ヴァチカンは下高井戸ですか。シネスイッチで見逃したし、下高井戸へは昔は足を運んだこともあるので、私も時間が許せば見たい!!
「戯作者」は明日見ますconfident

投稿: SwingingFujisan | 2015年6月 7日 (日) 07時38分

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