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2015年7月21日 (火)

「阿弖流為」

716日「阿弖流為」(新橋演舞場)
歌舞伎と新感線の融合。まさに歌舞伎NEXTだ。
主役の2人(染五郎・勘九郎)はサイコーにかっこいい。
しかし、この芝居の成功は、脇が丁寧に描かれ、かつそれを演じる役者が適材適所、そのキャラクターがきわめてうまく活かされ、演技も素晴らしかったことが大きな要因ではないだろうか。
まずは亀蔵さんの蛮甲。生き意地の汚いことを自任(自認というよりは自任という感じ)する蛮甲は要するに日和見なんだが、生き延びるためには誇りを捨ててもそうしなくてはならない、かえってその意地が小気味よく見えた。憎らしい中に愛敬もあり、亀蔵さんのキャラが十二分に生きた。とくに妻・熊子(本当の月の輪熊)との愛情は和みと笑いを観客に与え、熊子の壮絶な最期は蛮甲への愛情に溢れて、ついうるうるしてしまった。最後まで生き意地の汚さを通すかと思われた蛮甲だが、やはり蝦夷は蝦夷だった。ちょっと残念なような(ひねくれてる? 私)、ほっとしたような。蛮甲を見ていて、新感線の「髑髏城の七人」の三五を思い出した。
熊子はここでは人格化されているが、蝦夷の生活は自然との共存、動物との共存だったから、ある意味、蛮甲が最も蝦夷を代表していたのかもしれない。熊子役の土橋慶一さんにも拍手(筋書きにちゃんとお名前が出ていたのが嬉しい)。彌十郎さんの藤原稀継は立派な体軀で、彌十郎さんらしくいい人に見えたのが、実は陰謀の中心にいる人物で、田村麻呂を裏切る(やっぱりキャラが活きる)。その裏切りには沸々と怒りが湧いてくるが、しかし別の目で見れば、どんな手段を用いても大和朝廷による国家統一を成し遂げようとする、歴史には必要な人なのかもしれない(藤原稀継は実在しないと思うけどね)。
そういう観点からすれば、橘太郎さんの佐渡馬黒縄も稀継に忠実な家来で、自分の本分を尽くしているかのように見えるけれど、彼を悪役としているのは、田村麻呂に対する嫉妬、敵意であろう。その存在感、卑劣な悪役ぶりのかっこよさ、橘太郎さんはやっぱり素敵な役者さんだ。
宗之助さんが珍しく悪役の僧侶で、魅力的だった。これを機会に歌舞伎での役の幅も広がるといいと思う。廣太郎クン、一瞬お父さんと見紛うほどそっくりだった。
女優陣、じゃなかった、女方陣(思わず女優って言っちゃいたくなる)がまた秀逸だった。
まず、萬次郎さん。黒幕は御靈御前だったか。田村麻呂の姉でありながら、国家統一のためには平気で弟を殺せる。古代日本には骨肉の争いも巫女が政治の中心にいた時代も実際にあったわけだし、そういう部分もうまく描かれている。萬次郎さんは草笛光子みたいに見えた。きれいで古怪。巫女の妖しさ、怪しさがぴったりだった。御霊御前が報じる帝は予想通りだったが象徴的だ。
新悟クン。こちらは大和に対する蝦夷の巫女・阿毛斗。萬次郎さんの巫女とは違って衣裳も割と地味で特別に目立つわけではないのだけれど、凛とした佇まいと存在感が素晴らしくて、出てきたら思わず注目してしまう。
七之助さんは戦う女(立烏帽子)と戦いを嫌う物静かな女(鈴鹿)を好演していた。1幕目、阿弖流為と鈴鹿の再会には感動した。私は立烏帽子のほうが好きだけどね。
阿弖流為、田村麻呂、立烏帽子をはじめ、みんながとにかく激しく動く。立ち回りもキョーレツに激しい。

歴史は勝者のものだとつくづく思った。学校で日本史を勉強する時、年表の上だけであっさりと田村麻呂の奥州征伐と習ってきたが、熊襲にしても蝦夷にしても大和朝廷に制圧された歴史の中に彼らの尊厳と歴史は封じ込められてしまったのだろう。それだからこそ、現代人の想像力によって彼らは甦る。「まほろばの疾風」(熊谷達也著)でもとても悲しくて印象的だったが、都の人々が蝦夷を獣のように思っていたことがこの芝居でもちょっとだけ触れられていた。そういう意識が彼らを虫けらのように葬り。
日本の古代の物語でありながら、政治や戦争など、現代にも通じるものが多々あり、とても見応えがあった。
今回の座席は仮花道と舞台の上手半分が見えない席だったが、低解像度ながらそこそこのサイズのモニターがあって、見えない部分をカバーしてくれていた。これまでは下手側の席では本花道だけをモニターに映してくれていたが、今回は舞台も見せてくれて大いに助かった。歌舞伎座でもそうやってくれれば、いいのに。
<上演時間>第一幕75分(11301245)、幕間35分、第二幕120分(13201520
この日は夜の部がなかったので幕間は35分。夜の部がある日は30分。昼夜の間が75分。役者さんたちの体力が心配になってしまう。

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