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2015年8月30日 (日)

期待に違わぬ面白さの納涼八月歌舞伎第一部

828日 八月納涼歌舞伎千穐楽第一部(歌舞伎座)
150830kabukiza 珍しく第一部観劇が千穐楽になってしまった。日程の都合でそうなったのだが、個人的な事情で危うく断念するところだった。何とかしのげてありがたい。
「おちくぼ物語」
演目発表の際にも書いたが、大好きな話。いじめられる話は好きでないけれど、おちくぼは味方してくれる人たちがいるし、素敵な貴公子との恋を実らせてハッピーエンドだし。というわけで、前回公演を博多まで見に行ったのが8年前(平成19年:2007年)。当時は歌舞伎の「おちくぼ」があまりにコミカル、完全にコメディになっていたのでびっくりしたのだが、今回はあの時ほどのショックはなかった。2度目だからというよりは、コメディ性が強調されていなかったからだと思う(演出の違い)。今回強く感じたのは現代性である。セリフは前回と変わっていないだろうと思うが、たとえば何かにつけ「お許しあそばせ」と謝ってしまうおちくぼに対し左近少将が「自然と都合のいい言葉を覚えた」と指摘するセリフなんか、絶対に現代の感覚ではないだろうか。もっともこの作品が宇野信夫によって書かれたのは明治時代だから<現代の感覚>ではなくて<明治の感覚>なんだよね。明治時代の「近代的自我」に現代にも通じるものがあるということだろうか。
この芝居の最大ヒットは隼人クン。立派な貴公子として七之助さんのおちくぼをしっかりリードしていた。品のよさ、噂とは違っておちくぼ一筋の熱い想い、おちくぼと結ばれるために働かす智恵、どれもが隼人クンを大きく見せていた。声もセリフもよかった(この点は博多座の海老蔵さんよりずっと好き)。すべてがよかったのは現代語の芝居であるからかもしれないが、一時はどうなることかと心配した隼人クンの成長は素晴らしい。吉右衛門さんについて勉強した成果が表れている。今後は義太夫狂言などでも成長を見たいものだ。
七之助さんがとても愛らしくてきれい。確かにすぐに謝ってしまうし自信もなく諦めの中で生きてはいるが、少将の愛を知ってからは少しずつ主体性をもつようになり、強くなっていく、その変化が見事に表現されていた(少将と痴話喧嘩までしちゃう。酔っぱらった姿も自然で可愛かった)。変わっていくおちくぼもまた、現代的な女性のように見えた。歌舞伎の「おちくぼ」のそういう点は原作とは違うかもしれないが(原作は何十年も前に読んだから、どうだったろうか)、それは案外心地よく見ていられた。
継母は博多座では強烈にヒステリック過ぎてちょっと引いたけれど、今回の高麗蔵さんはヒステリーを抑えた意地悪さでなかなかよかった。
阿漕と帯刀の夫婦はとても楽しかった。何しろ新悟×巳之助の仲良しコンビですもの。好人物な巳之助・帯刀をちょっと頼りなく思っている新悟・阿漕が時々牙をむくのが面白い。演舞場のトークショーで新悟クンが「できるだけヒステリックにやってくれと言われた」と言っていたが、引くほどのヒステリーではなく、また2人のコミカルな味も程よく(巳之助クンにはやっぱりコメディアンの素質がある)、芝居を引き立てた。トークショーで巳之助クンに「馬、馬と言われるから、犬、犬と言ってやった」と語っていたのはこのことだったのかという場面が2人の夫婦喧嘩。それもおちくぼを思えばこそなのが伝わってくる。

鼻の兵部少輔は宗之助さん。「阿弖流為」に続いて珍しい役どころだが、鼻が大きいだけでなかなか可愛い顔をしていたし、飄々とした三枚目ぶりがとてもよかった。三の君と幸せになってほしいわ。
再婚した北の方に手を焼いている父親は彌十郎さん。おちくぼのことも他人事のようでしょうもない父親だと思ったけれど、最後は娘の幸せを願っていたことがわかり、ほっとした。典薬助は博多座と同じ亀蔵さん。亀蔵さんにしては期待しているアクの強さがちょっと薄い。もっともそれは、この役がそういう役だから。
若く美しい2人のハッピーエンドは見ていて気持ちがよく、楽しい。
「棒しばり」
大名(彌十郎)が太郎冠者を呼び出して巳之助クンが出てきたときの拍手が凄かった。次郎冠者(勘九郎)が出てきた時も拍手は大きくて、観客がこの2人に今は亡き2人の父親を重ねて期待していることがわかる。そして2人とも見事にそれに応えた。勘九郎さんは太郎冠者を数回、次郎冠者を1回やっていて、そのうまさは予想できたが、巳之助クンは予想以上によくやっていた。三枚目の素質がある、と前述したとおり(三枚目っていうと語弊があるかしら。コミカルな素質と言ったほうがいいかな)。丁寧に演じていて、わざとらしさがない。2人で楽しそうに工夫をして酒を飲む、それが本当に楽しそうでこちらの頬が緩む。
勘九郎さんは勘三郎さんに似ているところはあっても、もう自分のスタイルとうものを身に着けているような気がした。巳之助クンの身体の動かし方は三津五郎さんに似ていて胸が熱くなった。次郎冠者の扇は片方の手でくるんとするのも、左手で投げて右手でキャッチするのもうまくいって、大拍手。
全体に2人とも屈託なくのびのび生き生きと踊っていて、ほぼ楷書でもこんなに楽しく気持ちよく見ることができるんだと思った。このコンビで何度も再演してほしい。将来的には巳之助クンの次郎冠者も見たい。
納涼歌舞伎は第二部を飛ばしたが、第一部・第三部とも見終わった後、明るく楽しい気持で帰ることができた。とくに第一部を見た日は個人的に気がかりがあったのだが、それを吹き飛ばしてもらった。
<上演時間>「おちくぼ物語」87分(11001227)、幕間35分、「棒しばり」40分(13021342

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