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2015年9月30日 (水)

まったく睡魔に襲われなかった「先代萩」:9月歌舞伎座夜の部

926日 秀山祭九月大歌舞伎千穐楽夜の部(歌舞伎座)
9月の歌舞伎座は昼も長いが夜も長い。絶対どこかで(多分「飯炊き」で)寝るに決まってる、ところがどうだ、まったく睡魔に襲われることなく「先代萩」を見たぞ(自慢にはならないか)。いやいや、「先代萩」にこんなに惹きつけられるとは。まったく寝なかったのは初めてかも。
「花水橋」
梅玉さんの頼兼が、廓通いに忠臣たちが頭を悩ませていることなどどこ吹く風、お殿様らしくおっとり鷹揚、上品で嫌味がなく、大きくて「いかにも」であった。又五郎さん(絹川谷蔵)はきびきびした動きがとてもきれいで、2人ともここだけの出演はもったいないながら、物語の発端としての魅力たっぷり。楽しかった。
「竹の間」
竹の間・奥殿とも松島が登場せず、沖の井だけだったが、このほうが沖の井の存在感・人物像がはっきりして、ずっといい。そもそもいつも、松島と沖の井の存在があいまいに感じられるのが気になっていたのだ。文楽では松島が出てこないそうで、歌舞伎もそうすればいいのに。
沖の井が用意した膳は、鶴千代が手を伸ばしかけるところへ政岡が目配せして止めるのが通常だが、今回の鶴千代は最初から目もくれなかった。鶴千代が自ら手を出さないのであればそのほうが、政岡にとっては味方してくれる沖の井への義理が立つというか配慮にもなっていいのではないかと思った(このあたりにも、沖の井の存在のあいまいさを感じていたのだ)。
児太郎クンの小槙は私の席からははじめ後姿しか見えなかったけれど、声を低く抑え、医療に通じている<らしさ>があって、若さは全然気にならなかった。小槙を呼び出す腰元は梅乃さんだったと思うが、凛としていた。
歌六さんの八汐、あんまり憎々しいから、鶴千代にやり込められた時には客席みんなが胸のすく思いで拍手喝采(鶴千代君、かっこいい‼)。政岡が獄屋に入れられるなら自分も一緒に行こうと言う鶴千代は子供ながらに毅然としたものがあり、千松はいじらしくて泣けた。
沖の井が1人ということで、八汐への追及の厳しさが浮き彫りになった。
玉三郎さんの政岡はここでは脇に徹している感じがした。
「奥殿・床下」
御簾が上がると、政岡が沖の井のご膳を手にしているのはいつも通り。鶴千代がその膳を食べてはいけないのかと問うが、食べ物を前にして空腹を満たせないつらさは、武士だからと強がってみせても子供である以上、いかばかりかと悲しくなる。いっそ、膳なんて2人の目の届かないところに早く片付けてしまえばいいのに。
飯炊きはいつも眠くなるのに、今回はとても面白かった。客席のほとんどの視線が玉三郎さんの手に釘づけになっていたのではないだろうか。私は時々視野の片隅にゲーム(バックギャモンに似てる?)に興じる子供たちの姿を入れながら、政岡のやることから目を離すことができなかった。米を炊く水に毒は入っていないのだろうかと心配したら、ちゃんと千松に毒見させていたのには感心した。と同時に、常に死の危険と向かい合っている千松が哀れで胸が締め付けられた。千松は鶴千代と友達でもあり、家来でもあり(あの幼さで必ず主人を立てている、当然とはいえ、えらい子だなあといつも思う)、そして何と言っても身替りに死ぬ覚悟をもっている子なのだ、と今回はとりわけ強く胸に訴えかけるものがあった。

米は優雅な茶道具を使って炊くが、米とぎは浄瑠璃三味線のリズムに合わせて手を動かしていたのが面白かった。雀の歌を千松に歌わせていると千松が空腹のあまり倒れてしまう。後を引きとって歌う政岡。玉三郎さんの政岡は千松に厳しく、時に冷淡にさえ見えたが、この歌にはやさしさ、愛情、哀しみが籠っていて胸を打たれた。
米の炊け具合をそ~っと見に来る子供たちが可愛く切ない。子供たちがちゃんとご飯を食べるまで八汐よ現れないでくれよと思わず祈った。
子役の2人がとても上手で、「奥殿」では千松に何度も拍手が送られていた。
栄御前の入りで、上手下手の部屋の御簾が上がり、舞台空間が広くなった。上手の部屋には花車が飾ってあった。
哀れにも自らの任務を全うした強い千松が八汐に刺された時、鶴千代はすぐに奥の間に移されるのではなく、ずっと政岡の打掛の中で守られていた。このほうがリアルで緊張感が増すと思った。政岡はやがて鶴千代を正面向きに座らせる。とりあえずほっとした感じを受けたのは、この緊張感の中で政岡の鶴千代大事が伝わってきたからだろうか。鶴千代は、栄御前が政岡に話があるから他の者は下がるようにと促した時に奥へ移る。
吉弥さんの栄御前は悪人側の一種の暗さみたいなものと貫録があって、なかなかよかった。
政岡の嘆きは比較的クールに見えたものの、「同じ名のつく千松のこなたは百年待ったとて、千年待ったとて」など、時として悲しみが強く感じられてうるうるした。
千松の遺骸を片付けた後、八汐が戻ってきて政岡に斬りかかる。そこへ沖の井が八汐の悪事の証人として小槙を連れてくる。栄御前に「取り替え子」を吹き込んだのは小槙だったことがわかる。なかなかドラマチックで面白かった。
弾正の引っこみは、花道七三から先が見えなくても、影がゆっくりゆっくり大きくなってくる。今回は3階花道真上あたりの席で、あらためてこの影のひっこみの素晴らしさに感動した。
「対決・刃傷」
吉右衛門さんは声が高いから弾正としての低いくぐもった声は決して聞きやすくはなかった。と言って聞き取れないわけではなく、言っていることがわかるのは発声としてすごい。染五郎さんの勝元は声を張り上げるとややヒステリックな印象を受け、弾正に対する大きさで負けるように見えたのが惜しい。
歌六さんの2役目、渡辺外記左衛門は老いてなお忠臣の精神が胸を打つ。短刀の弾正に扇で対戦する外記って強いじゃないか‼ 種之助クン(山中鹿之助)が大人っぽくなっていてびっくりした。歌昇クン(渡辺民部)は線が太くてよかった。吉六改め吉兵衛さん(笹野才蔵)はすっきりした二枚目でかっこよかった(二枚目はこの役に関係ないか。でも、合同公演のプログラムの「出演者の言葉」欄にいつも2文字熟語―4文字の時もあったけど―で一言だけ書いているそのすっきりした性格がこの役にも表れていたような気がしたのだ)。
さて、やっぱりラストは納得いかないなあ。瀕死の外記に舞わせるなんて。

通路際の席は取れなかったが、その席が空いていたので結果として通路際ってことに。今月は昼夜とも310列目。上手も下手も見やすい。
<上演時間>「花水橋」13分(16301643)、幕間5分、「竹の間」60分(16481748)、幕間30分、「御殿・床下」99分(18181957)、幕間15分、「対決・刃傷」60分(20122112

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