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2016年1月 9日 (土)

眠くて眠くての12月分③:東海道四谷怪談

1221日 「通し狂言東海道四谷怪談」(国立劇場大劇場)
160109kokuritu なんでこの時期に四谷怪談?と思ったら、そうか、四谷怪談は裏忠臣蔵だったんだと劇場に着いてから納得した(左の写真もその一助)のは我ながらお粗末。ま、いずれにしろあまり期待もせず行ったのだが、なんとなんと、これが面白くて私の中では上位のヒット。55分の休憩も含め5時間近い長丁場であるにもかかわらず、退屈することもなく(途中、睡魔に勝てないところはあったけれど、これは退屈だったからじゃない)、長さを感じなかった。
まずは、南北自身(染五郎)にこの物語が仮名手本の裏物語であること、忠臣蔵の発端を説明させ、足利館門前の場をもってきたことで、「つかみはOK」になった。南北は真っ暗な中、スッポンから浮かび上がり、足利館門前の後再び登場して、なぜこの場面をもってきたかの経緯をユーモアたっぷりに語り、観客は大喜びだし、納得もする。
全体の構成としても忠臣蔵を強く意識したもので、かわりにお袖・直助の物語が無視されてしまった(「宅悦内」「三角屋敷」が抜けていた)のは残念だったものの、ふだんあまり上演されない「小汐田又之丞隠れ家」(コクーンで見たくらい?)や初めて見る「夜討」が入っていたのが興味深かった。昼夜通しで全部見たいと思った。
さて次に、幸四郎さんのスケールの大きさを改めて認識した。というか、弁慶や松王丸より大きい感じが私にはした。華もあり、かつ極貧の浪人生活にすさんだ雰囲気もいい。実は「伊藤喜兵衛宅」のほとんどを寝ちゃったのにもかかわらず、伊右衛門が伊藤家の自分に対する好意にとまどいながらもお礼に出かけ、そこで考えを一変させたというのがよくわかるような気がした。というのも、「おお、岩、今日はちっとは快いか」というセリフには妻を少しは案じている様子が窺えたし、伊藤家へ赴く際の「女房は素人に限りますな」というセリフにもこの時点では岩を離縁使用など思っていないからだ(この後者のセリフは意外だった。初めて聞いたような気がするが、これまでもそんな風に言ってたのかな)。
染五郎さんのお岩がこれまた、とてもよかった。意外と言っては失礼だが、染五郎さんの女方は声にやや難があるのでどうかなと懸念していたのだ。ところが、このお岩さんは美しかったし、声も気にならなかった。武士の妻としての矜持に加えて、ただ運命に翻弄されるだけではない、はっきりした<怒り>が表れていて、現代性を感じた。お岩さんの気持ちがよく伝わってくる。恨みの凄まじさは顔の線がシャープなだけに強烈だった。気が変わった伊右衛門の邪慳を嘆くお岩さんを見ていたら、この日の「あさイチ」のテーマが<モラハラ>だったことを思い出し、なんか切なかった。
染五郎さんは南北、与茂七、お岩、小平、由良之助の5役を演じる。発端で暗闇の中、スッポンから南北が登場し、初演は東海道四谷怪談と仮名手本忠臣蔵を表裏に演じたこと、四谷怪談の登場人物は忠臣蔵に関係が深いこと、足利館の殿中での刃傷騒動が忠臣蔵の起こりであることを簡潔に説明する。そして南北は引っこみ、足利館門前の場が展開したかと思うと、再び南北が現れ、この発端の場を上演するに至った経緯をユーモラスに説明する。平成の人々は四谷怪談と忠臣蔵の関連をあまり知らないので、この発端を加えたいという書状が市川染五郎とか申す役者(「私がよく一緒に仕事をした五代目松本幸四郎の子孫」)から来た。「私がそのものの夢枕に立ち、ちょっと頷いてやると飛び上がって喜んでいた」。という平成の染五郎と江戸の南北を結んだ趣向が面白く、客ウケもよかった。

「発端」では小汐田又之丞(錦之助)が足に怪我をする経緯がわかる。この怪我がもとで動けなくなった又之丞のために小仏小平が命をかけて秘薬を手に入れようとするのだ。又之丞とともに門前で主君を案じる矢間十太郎の松江さんのセリフはなんとなく現代っぽく聞こえた。
序幕では新悟クンのお袖がきれいで風情があって、やっぱり新悟クンいいなあ、好きだと思った。彌十郎さんと一緒の芝居は久しぶりに見たかも。しかも親子での夫婦役(序幕ではまだ夫婦になっていないが)は「やごの会」を見ていないから初めて。「浅草観世音額堂」は江戸の情景がよく出ていて面白かった。
序幕で残念なのは、「地獄宿」がなかったこと。あの場面、好きなんだよね~。これがないのも、完全にお袖のストーリーはスルーされたってことだね~。

二幕目では、小平の父親孫兵衛(彌十郎)が小平の不始末(民谷家伝来の秘薬を盗んだこと)を謝罪する場面があったが、これは初めて見たような気がする。彌十郎さんが悪役と実直で人のよい役2役をきちんとこなしていた。孫兵衛は大詰の「又之丞隠れ家」では伊右衛門の母お熊の夫として出てくるが、どうしてこんないい人があんな憎々しい悪いおんなと結婚したのだろうと不思議でならない。萬次郎さんがこの母にしてこの子ありな感じのお熊を好演。孫兵衛もけっこうお熊に言い返しているけれど、お熊のインパクトが強すぎて…。なお、ここでは小平の恨みはあくまで忠義の恨みなんだなあとわかる。

又之丞が盗みの疑いをかけられて討ち入りを拒否される場面は切腹しかけたこともあって、勘平を思い出した。ソウキセイのおかげで立ち上がった時には、客席から思わずといった感じで拍手が起きた。又之丞が無事討ち入りに参加できてほっとした。高麗蔵さんの伝蔵が<らしく>てとてもよかった。
討ち入りでは若い隼人クン(竹森喜多八)と亀蔵さん(小林平内)の立ち回りが見ものだった。亀蔵さんは前半、宅悦を演じており、まさに四谷怪談と忠臣蔵の裏表だ。宅悦では醜い顔になってしまったお岩のそばに最後までついていて、色々世話を焼いているその心情が哀れに思えた。怖くもあるんだけど惚れてもいる、宅悦って案外純情なんだろう。
伊藤喜兵衛の場面をリベンジしたかったが、結局できなかったのが心残り。
<上演時間>発端・序幕55分(12001255)、幕間35分、二幕目95分(13301505)、幕間20分、大詰80分(15251645

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コメント

遅ればせながら、明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願いいたします!
このお芝居、5時間近くもあったのですねぇ! 私、SwingingFujisan様に言われるまで、気づきませんでした。私もあっという間に感じましたし、「観れて良かった!」と思いました。この「観れて良かった!」という気持ちは、染さんの南北を見た時点で思っちゃったのですが…!(すごく楽しかった。)
場内のお写真、ステキに撮れてらっしゃいますね。私もトライしたのですが、暗くてよく映らず…。でも、劇中の効果を知る前に、何かに吸い寄せられるようにして撮ったのも、何かの因縁かも…なんて(笑)。ゾクゾクもし、歌舞伎らしい醍醐味も味わい、良かったですよね!

投稿: はなみずき | 2016年1月11日 (月) 13時36分

はなみずき様
あけましておめでとうございます。こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします。もう少し落ち着いたらコメントでお邪魔するつもりでおりましたのに、お先に寄っていただいてすみません。
国立劇場、面白かったですね~。これだけ客を惹きつけ、時間を忘れさせるお芝居に仕上がったのには、染五郎さんの力が大きかったようですね(見る前は「上演時間きついわ」とこぼしていたのです)。ほんと、あの南北の登場でぐいっと摑まれました。お岩さんもよかったし。
写真は、3階席でも撮ったのですがうまくいかず、下へおりて撮りなおしました。国立劇場もなかなかやりますよね(これも染五郎さんのアイディアかしら?)(^-^)

投稿: SwingingFujisan | 2016年1月11日 (月) 15時47分

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