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2016年8月13日 (土)

7月分⑤:歌舞伎座昼の部

「柳影澤蛍火」
序幕の柳澤弥太郎は、ちょっと違うんだけど海老蔵さんの純朴な青年ということで「神田ばやし」(20095月歌舞伎座。演目の名前が思い出せなくて、すご~く探した)を思い出した。あれ以来、梅枝クンとの恋人役での共演がないようなので、今回梅枝クンだったらとよかったのにと思っていたが、右近クンのおさめが素晴らしくて、大満足!!
右近クンは<おさめ>と<おさめの方>を声を変えたりしてきっちり演じ分けている。吉保に利用されたとはいえ、おさめも出世したらそれなりの欲を見せている一方で、吉保への愛を忘れていない女心が哀しい。右近クンのさめは芯が決して汚れていないことがわかるのがよかった。<さめ>に戻って5年前の思い出を語り、「<さめ>は別の<さめ>になりました」と言った時には万感の思いが込められているようで、ざくっと心に刺さった。吉保はこれを聞いてどう思ったのだろうか。そちらは私にはわからなかった。
面白かったのが東蔵さんの桂昌院。東蔵さんは老け役が多いのでいつもそんなに声を作っていないように思うが、桂昌院は最初若いのだろう、声を高めにしていたのが印象的だった。桂昌院は色好みで、美男子の弥太郎(白塗りでない海老蔵さんがとても美しい)を大いに気に入り、露骨に迫る。出世をもくろむ弥太郎がいやいやながら…というのが可笑しくて客席から笑いが起きた。桂昌院の色好みは年齢が進んでからもおさまらず、そうなると確かに醜悪であるが、東蔵さんが品を落さずに女の醜さを見せたのはさすが人間国宝の芸である。
中車さんの綱吉はちょっとバカ殿っぽく見えた。吉保と激しく対立する護持院隆光が弥太郎を嫌う理由が赤子の腹掛けにあるという場面――その腹掛けには「感謝を忘るべからず」と書かれており、これに喜んだ綱吉が、すでに三百石を与えていたものを五百石に加増すると、客席から期せずして拍手が起きた。弥太郎は客の心を捉えていたのだろう。綱吉はさらに吉保の名前も与える。しかし隆光との争いについては「古より両雄相並び立たず」と言って仲裁しないまま退場する。中車さんへの拍手は花道からの出より退場のほうが大きかった。
猿之助さんはいかにも賢そうな態度で、海老蔵さんの暗さを含んだ謀略ともっとバチっと火花を散らすかと思ったが、案外そうでもなかった。最初に桂昌院の前で互いに相手を嫌いと言った時にも火花というのではなく、お互いに相手の人間や出方を窺っているような感じだった。いずれにしても、吉保にとって不気味な存在ではある。

海老蔵さんは出世を望む若者・弥太郎(「出世」の文字、本当に書いていた)から、桂昌院に気に入られて徐々に己を失うことと引き換えに出世していく吉保の表現がとてもよかった。桂昌院を殺したのは、諸事がバレたからというより、あるいはそれに加えて、もう一瞬たりともこのしつこい女の顔を見ていたくなかったからじゃないのか、なんて思った。吉保も死してやっと昔の自分に戻れたのかもしれない。
猿弥さんの曽根権太夫が存在感たっぷりで、うまい。
福太郎クンが大きくなったなあ。
「流星」
後見・段一郎さんとの息もぴったり、面をとっかえひっかえの猿之助さんの軽妙な踊りが楽しかった。さぞ大変だろうが、その大変さを感じさせず、踊りたい放題踊って、さ~っと去っていく(表現は悪いが、ほめている)。それが実に見事で、爽やかでさえあった。猿之助さんの宙乗りは6月に見逃したので、私にとっては新しい歌舞伎座で初めて。やっぱり猿之助さんに宙乗りは似合うね。
<上演時間>「柳澤騒動」序幕~三幕目79分(11001219)、幕間30分、四幕目41分(12491330)、幕間10分、五幕目・大詰61分(13401441)、幕間20分、「流星」35分(15011536

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