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2016年8月31日 (水)

8月分④:「頭痛肩こり樋口一葉」

817日 「頭痛肩こり樋口一葉」(シアタークリエ)
前回、芝居も面白かったけど、若村麻由美さんがとってもチャーミングだったから、ぜひ又見たくて、それが主で取ったチケット。
出演者は6人の女優のみ。樋口家の母親・三田和代、夏子・永作博美、妹邦子・深谷美歩、没落したお姫様お鑛・愛華みれ、恵まれた生活から転落していかざるをえない女・八重(熊谷真実)、そして女郎・花蛍の幽霊(若村麻由美)。キャストは夏子が前回の小泉今日子さんから永作さんに替わっただけで、あとの5人は同じ。
期待に違わず若村さんは今回もきれいで弾けていて、お人好しで、明るくて悲しくて、ほんとに若村花蛍は大好き。狂言回しのようでもあり、唯一死の世界から現世を見ている人物であり(終わりに近づくと死者は増えるが)、それでいて自分が何を恨んでいるかわからず(だから成仏できていない)、一葉との会話から自分の前世を知り、恨みの元を次々辿っていくという、なんとも能天気というかユーモラスな幽霊・花蛍。絶品だったという新橋耐子さんは見ていないから私のスタンダードは若村さん。
二幕目の大半を、彼女の物語、演技にもっていかれた。皇后にたどり着く一つ手前の恨みの相手のところに出陣する時は、歌舞伎風に何度もくるくる回って、出陣しそうになっては戻るを繰り返し、夏子に「早く行け‼」と命令される始末。すると、ついには六方風に下手へ消えて行く、客席から思わず拍手が湧いた。花蛍は実に魅力的な役だが、体力的には一番大変だっただろう。
さて、その花蛍の姿が見えるのは<死>を意識している一葉(夏子)だけ。その身に<死>がまとわりついているような夏子だが、永作さんからは生きていること、未来を生きることへの魂の叫びを感じた。声を張り上げてもキンキンしないのがいい。女たちをがんじがらめに縛っている因縁の糸に筆で戦いを挑んだという夏子の言葉には、腹の底から感動した。永作さんは、女たちの会話をじっと聞いている時も、その<戦い>を、どうやって戦いを挑もうかを、常に考えているように見えた。それでいて、幕開け、子供たちが盆の歌を歌いながら歩いているのだが、その子供たちももちろん6人の女優さん。客席からは笑いが起きていたが、永作さんだけは童顔で子どもとしての違和感が全然なかいのだ。

三田さんは経年変化がうまい‼ 元気で機関銃のようにポンポン喋った母親が年を取って娘の入れてくれる甘い麦湯を飲むシーンに心打たれた。世間体を気にするゆえの頑迷さから色々めんどうな母親だったのに(邦子が心底腹を立てることもあったくらい)、死んだらただ一人生きている邦子に「世間体なんか気にするなー」と叫ぶ。これには死んで幽霊となった女たちもびっくり。「こっちの世界に来たらそう思えてきた」んだそうだ。もっと早く気がつけばね~。でも、そういう時代だったんだよね。「幸せになるんだよ」との叫びに、私がこれまで彼女に抱いていたすべてのわだかまりが消えるようだった。
邦子がいじらしい。くるくるよく働き、あちこちよく気がつき、姉を敬愛している。柔軟であり、自分というものも持っている。母への我慢(自分のことじゃなくて、姉を小学校中退させたこと)が爆発して責め立てるところは共感して、心の中で応援した。でも、結局は世の中が変わってしまったことが原因なのだ、先を見通せなかったからといって母を責めることはできない。邦子もそれに気づいたに違いないのだ。すべてを吐きだした後、「お母さんがちょっとかわいそうになった」と言ったのは。
愛華みれさんは、おっとりしてコミカルなのがいい。世が世ならというお鑛様も、時代に翻弄された悲劇の人。没落したお姫さまの立場をこれほど笑わせつつその運命に見る者の思いを馳せさせるよう描く井上ひさしはすごい。ラスト、愛華さんの歌声がしみじみ心にしみた。
熊谷真実さんがやはり急に落ちていく女を熱演。男のずるさ、夫に裏切られた女の悲劇、卑劣な夫に私も腹は立つが、自ら逞しく生きる女の明るいしたたかさ。でもその奥には悲しみが潜んでいるんだよね。熊谷さんのキャラに合っていて、八重がかわいい。しかし、女には究極としてそういう生き方が残されているんだなあと複雑な気持ちになった。
盆の時だけ現れる(1度だけ1度だけ10月にも姿を見せる)花蛍が最初に夏子の前に登場したのは明治23816日(私の観劇日、17日だった…)、そして物語の最後は明治31816日(夏子の母の新盆)。8年経っても女たちを取り巻く環境は変わっていないんだろうな。各自の恨みは他人から見たらつまらぬことのようでもあり、いやいやよくわかるというもののようでもあり、しかしそれが他人に向けられる故に、恨みの連鎖が起こるのだ。ついつい他人のせいにしがちなことは言い訳でしかない、と気をつけよう。
明治という時代に翻弄されるこの6人の女性の立場、日常を見せながら、日本という社会(さらには世界へと広がるだろう)の問題を追及する。それと筆で戦う夏子に井上ひさしは自分の思いを重ねたのだろうな、と最後に思った。
<上演時間>170分(13301440)、休憩20分、第280分(15001620

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