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2016年9月18日 (日)

贅沢な観劇:「銀座復興」

913日 演舞場発花形新派「銀座復興」(新橋演舞場 地下特設会場 東)
「銀座復興」は6月の三越公演を見逃してしまい残念に思っていたところ、この公演情報があり、飛びついた。というわけにはいかず、芝居は見たい、でも食事つきのため11,000円と高い。でもやっぱり見ておきたい、それにたまにはこういう贅沢もいいか…ということで席を取った。
チケット予約時点では食事が先かどうかわからず、もし先の場合は観劇中寝てしまいそうだと心配だったから、後ろ目の席で、食事中グループの中の1人はちょっと寂しいから、1人で来ていそうな人がいるテーブルを選んだ。
実際は観劇が先だったのでもっと前の席にすればよかったかな。でもやや見切れるところはあったものの、そんなに気になる問題ではなく(花道が見えないのには慣れてるしね。おっと、「東」の花道は舞台と直角に交わるものではなく、舞台を降りた延長だった)、何しろあの「東」に舞台を作っての芝居だから客席と舞台との距離がうんと近いため、ほどよい間隔だったかも。
「銀座復興」
場内が真っ暗になり、地震の轟音が響く。作り事ではないリアルな怖さを感じた。経験の有無の差は大きい。それが関東大震災であり、震災からの復興だってわかっているのに、「復興」「復興」と聞くたびに戦後の復興と勘違いした。主人公文吉(田口守)の「戦にも行って勲章をもらった」というセリフにもつい第二次大戦を思い浮かべてしまった。私が感じた芝居全体の空気が大正感ではなく昭和感寄りだったからだろうか。
上演時間が1時間ちょっとと短かったので(タイムテーブルより短かった)、せっかく復興の先陣を切った「はち巻」の後に続く者が出てこないもどかしさがやや伝わりにくい気がした。いっぽうで、常に前を向いて歩こうとする文吉と牟田(喜多村一郎)からは希望が失われることなく、心強い思いがすると同時に応援する気持ちになった。
田口守さんと瀬戸摩純さんが夫婦役なのは意外だったが違和感はなかった。田口さんはセリフが危ないこともあったものの、「振袖纏」の時と同様、芸の力で押し切った。復興のために頑張っている姿が感じられたのはとてもよかった。一番に店を再開させたとはいえ、物がない時に仕入も仕込みも大変だったろう、お客はどのくらい入ったのか、経済的にやっていけるのか…そんな心配をしながら見ていたが、文吉さんからは苦労や愚痴が見えてこない、聞こえてこない。悪い意味じゃなく、とにかく前を向いているという姿勢なのだ。瀬戸さんは上品で、時に弱音も吐くが夫を信じ支える妻のけなげさがぴったり。
一郎さん(私の中ではまだ猿琉さんなんだよな~)は爽やか好青年。三越劇場では山岸を演じたそうだが、ニンは牟田だと思う。文吉同様、一面焼け野原の町で当然苦労をしているだろうにそれを感じさせないひたすら前向きで元気な牟田が物語の世界を明るくしてくれた(牟田の仕事って何だったっけ?)。「社会は一度進んできた道を決して後戻りしない、東京は前より立派になる。その中心となるのは銀座」だと言う牟田の言葉は印象的だった。一郎さんは新派にも溶け込んでいて、一郎さんのためにも新派に移ったのはよかったかもしれないと思った。
山岸の市村新吾さんは東京にも銀座にも絶望した心の屈折の表現がよく、市村さんも山岸のほうがニンだと思った。ラスト、山岸の明るい笑顔を見てほっとした。光井の児玉真二さん、千八重の川上彌生さんは出番は少ないが、ちゃんとその空気の中に入るというか役作りがうまかった。
出色は稲村の笠原章さん。こういうおじいさん(って言ったら悪いかな)いるよなと思ったし、酒の飲み方酔い方、日常感の出し方が自然で感動してしまったほど。
舞台はバラックの「はち巻」内部だけなのだが、雷雨や虹、焼け野原の銀座、そこで行われている復興のイベントといった外の光景が見えるような感覚を覚えた。とくに瀬戸さんが虹を眺める場面は優れていた。日常のありがたさよ。

「銀座復興」のモデルとなった店は、今も銀座で営業している「はち巻岡田」。今年で創業100年だそうです!!



芝居が終わると、出演者全員とはち巻岡田の社長(だったと思う)による鏡開きが行われ、創業100年の祝い酒が配られた。升からは檜の香りが強く漂ってきた。お酒も美味しかった。ここのところ日本酒はやめていたのだが、いい日本酒は美味しいし酔わないしこれからはいい日本酒をちょっと嗜む程度にしようかな(マッサンに感化されたウイスキー熱はどこへ行った…)。食事も満足。タイムテーブルでは8時までになっていたが、食事が終わったら各自退席してよいとのことで、予定より早く帰宅できた。
たまにはこういう贅沢(食事だけでなく観劇スタイルも)も悪くない。
<上演時間>「銀座復興」75分(17301845)、休憩10分、鏡開き・食事65分(18552000

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