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2016年10月28日 (金)

十月「仮名手本忠臣蔵」

1026日 「仮名手本忠臣蔵」(国立劇場大劇場)
15
日に予定していたのが風邪で見られず、チケットも取りださないまま。やっとかわいそうなチケットを手にした。15日を諦めてすぐに次のチケットを探し、2B席で通路際が開いていたのがこの日。チケット売り場には当日券や電話予約の行列ができていたし、機械のほうにも列を整理するロープが張られていた。座席もかなり埋まっていたから(国立のこんな盛況、そうとう久しぶり)、よくチケット取れたな、ラッキーと思った。
でも台本が完売で、増刷分も完売。翌日千穐楽というギリギリだからやむを得ないががっかりしたら、予約注文で自宅に送ってくれると言うので注文した。送料200円かかるけどね。
チケット売り場の列の割に空席が目立つと思っていたら、いつの間にかほとんど満席になっていた。口上人形は間に合わずに着席する人も多く、落ち着かなかった。せっかくなのにこれを聞かないのはもったいない。知らなかった人もいるだろうし、この日は小田急線の事故があったから残念な思いをした人もいたかもしれない。
「大序」
お人形だった人物に義太夫が息を吹き込む場面、左團次さん(高師直)が本当にお人形みたいだった。口開きの松江さん(足利直義)はニンが違うような気がした。声も違和感を覚えた。好きな役者さんだし、歌舞伎役者らしい風貌を活かしたいい役についてほしいと常々思っているので残念だ。兜あらためのために呼ばれた顔世(秀太郎)が花道から登場する。私の席からは後姿しか見えないのだが、花道に座ったその後姿の美しさ、色気!! 師直に言い寄られる場面でも危うい色気があって、芸の力はこういうものだと思った。
師直の憎々しい意地悪に桃井若狭之助(錦之助)が怒りを滾らせていくのがよく伝わってくる。錦之助さんの癇性の表現は私は好きだ。梅玉さんの癇性も好き。だから、この2人が奇しくも師直にそれを引き出されることになったのが興味深かった。
左團次さん、錦之助さん、国立劇場賞受賞。左團次さんは特別賞、錦之助さんは優秀賞。おめでとうございます。
「二段目」
二段目では小浪(米吉。米ちゃんは国立劇場賞奨励賞、こちらもおめでとうございます)と力弥(隼人)を何とか合わせてやりたいと画策する戸無瀬(萬次郎)に客席から笑いが起こった。「いやかいやか」のセリフに、癪の仮病で「あいたたあいたた」、力弥を迎えた小浪がうまくやってるか覗きにきた、など…。小浪の米吉クンがめっちゃかわいい。でも2人ともなんかおままごとみたいな…。幼すぎる感じがした(奨励賞なのにこんなこと言ってしまった)。それはそれで初々しくていいか。
二段目は團蔵さんの加古川本蔵が魅せる。主人の性格を知りぬいている家老の知恵。落ち着き払って主人の計画に賛同しながら主人に刀を抜かせないために脳フル回転させていたんだろうなあ。
この二段目は平成中村座で見ているはずなのに記憶がない…(初平成中村座が「仮名手本忠臣蔵」であった。というのも忘れていた。この時はDプロのみ見逃した)。でも、松切り場があると物語の流れ、若狭之助の心境がよくわかって次につながるから、いつも省略しないでほしいわ。どうしてめったに上演されないんだろう。

「三段目」
三段目でも本蔵の落ち着きが印象的だった。贈り物を喜ぶ伴内(橘太郎)の前に佇み、中間たちが斬りかかろうとしても平然としている姿に本蔵の複雑な心境―主君を守ったという安心と、賄賂を使ったことに対する忸怩たる思いと―を感じた。私はこの場面を見るといつも、大星だったら本蔵と同じことをしていただろうか、と考える。橘太郎さんのへつらいぶりが小物っぽくて面白かった。
判官の駕籠に勘平(扇雀)が付き添ってきたのが、後の物語の伏線になる。扇雀さんの勘平、よかった。高麗蔵さんのおかるは意外だったが、腰元らしさもあり、勘平を誘い込む軽率さみたいなものもあり、こちらもなかなかよかった。この場面と裏門の場があるから、後の悲劇がわかりやすくなる。わかっていていても、やっぱり見ると「そういうことか」と意識するのが不思議だ。
刃傷の場は、振り上げた拳の納めどころがないまま納めなくてはならない若狭之助の苛立ち、憤懣にこちらの気持ちも同化してしまう。豹変した師直のことは客席が笑うが、師直本人だって面白くないわけで、それがなかったら判官への態度もあそこまでひどくはなかったのだろうか。あるいは師直もまた、顔世に振られたことでプライドを傷つけられたのだろうか。
梅玉さんは先に癇性なところが好きと書いたが、判官はおっとりと優しそうで、穏やかに見えた。それが殿中とわかっていても思わず刀を抜いてしまうのは、プライドを傷つけられたからであろう。ここはいつも、本蔵よけいなことして、と判官と同じ悔しい気持になる。どうせ止めるなら刀を抜く前か、致命傷を負わせてからにしてよ、タイミング最悪、なんて。師直の去った方向へ刀を投げる判官同様身もだえしたくなる。
「四段目」
花献上の場は、そういう大事件を起こした一家の裏の姿を垣間見せて興味深かった。出光美術館で見た「伴大納言絵巻」で、最初の容疑者源信、真犯人の伴大納言、どちらの一家も悲しみと絶望のどん底に突き落とされたことを思い出した。
切腹はわかっていても、由良之助到着の遅いことにハラハラし、判官の命ぎりぎりで由良之助が間に合った時には泣けた。梅玉さんの性急なセリフが大星をどれだけ待っているか、会えないまま死ぬのは残念でならないという心情を強烈に表していた。無念さの中にも大星に後をゆだねてどれだけ安心したことか。その判官の思いにも泣けたが、死にゆく人との約束がいかに重いかがわかるだけに、大星にも泣けた。正座したまま前に倒れた判官の遺体をまっすぐ伸ばしてあげ、「汝へ形見」と言われた九寸五分を手に取ろうとすると判官がしっかり握っている。幸四郎さんは判官の手をさすりそっと開いていた。この場面は、平成中村座で判官の指を11本丁寧に開いていった仁左様が私の中では最も心を打たれた。毎度同じことを書いているかもしれないけれど、九寸五分が主君の手から由良之助の手に渡るということは、単なる形見ではなく主君の存念が籠っているのだから、ここは一番大事な場面だと思うのよね。だから指を1本1本というのが活きて、胸を打つんだと思う。
焼香の場は初めて見たんじゃないかな。焼香というと、「寺子屋」を思い出してしまうが、あらためて一家の悲しみを感じた。
錦吾さんは、何年か前は悪役に合わないと思っていたが、最近は見慣れたのか、錦吾さんの悪役が増えて錦吾さん自身の幅が広がったのか、斧九太夫がぴったりに見えた。巡業でも九太夫だったしね。こいつ小せえヤツ、と思わせるのがうまい。
城を明け渡した後、幸四郎さんは泣き泣き花道を引っこむ。泣き過ぎのきらいはあるが、大星ほどの男が泣く心情を慮れば、それもありかなとも思う。
重い重い仮名手本忠臣蔵ではあるが、面白かった。幕間を含め5時間超えという長丁場だったが、案外長さは気にならなかった(お尻は痛かったけど)。でも、やっぱり11時開演はつらいですわ(国立の12時開演は助かっていたのだ)。来月も同様の上演時間らしい。実は私にとって一番きついのは六段目なのだ(判官切腹よりもきつい。つらさとか重さとか)…。
<上演時間>「大序、二段目」80分(11001220)、幕間35分、「三段目」80分(12551415)、幕間20分、「第四幕」100分(14351615

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コメント

詳細なレポ、ありがとうございます。私も
11月には行けそうなので、楽しみです。

体調も回復なさっているご様子、
寒さに向かいますので、
くれぐれもご自愛くださいませ。

投稿: ゆーまー | 2016年10月29日 (土) 06時29分

ゆーまー様
こんにちは。コメントありがとうございます。
体調のご心配をいただいて恐縮です。ありがとうございます。風邪をぶり返すことのないよう、注意いたします。

今月の国立はご覧になれなかったのですね、残念!! 来月はつらい六段目がありますが、しっかり勘平の悲劇を見守ろうと思います。菊五郎さんの勘平に吉右衛門さんの由良之助、楽しみですね。

投稿: SwingingFujisan | 2016年10月29日 (土) 17時53分

なかなか発表されませんでしたが、12月の配役がはっきりしましたね。力弥が錦之助で、10月には息子が演じた役を今度はお父さんということになります。驚いたのが、笑也のお石です。30年前の国立劇場の記念公演では先代の芝翫が演じた役ですので大抜擢かと思います。
前にも述べたかもしれませんが、「加古川本蔵一家篇」として二段目・八段目・九段目という「半通し」を時々やってほしいと思います。(大序と三段目も時間が許せば勿論あった方が良いです)お軽・勘平や判官・由良助だけの忠臣蔵ではないことがわかりますよね。

投稿: うかれ坊主 | 2016年11月 1日 (火) 23時02分

うかれ坊主様
こちらにもありがとうございます。

力弥の錦之助さん、驚きました。錦之助さんは3カ月出ずっぱりですが、桃井、勘平、力弥、平右衛門と役の幅が広いですね。
笑也さんのお石にも驚きました。先代芝翫さんが演じられたことは存じませんでした。確かに大抜擢ですね。こういうお芝居ではあまり見たことがないので、期待しています。

「加古川本蔵一家篇」、同感です!! 本蔵を中心とした段はやや地味だからなんでしょうか。物語としては面白いので、ぜひ国立で取り上げてもらえたらいいですね。

投稿: SwingingFujisan | 2016年11月 2日 (水) 21時11分

こんばんは。
12月の国立の配役発表が遅れたのは、おそらく事情があったものと思われますが、制作側が戸無瀬を玉三郎か 時蔵で交渉したけれどもうまくいかなかったのではと私なりに推測しました。ただ、玉三郎、歌舞伎座とは時間的には大丈夫なのですが、かけもちはしない人だからしょうがないですね。魁春、初役だと思いますが、この人にことのほか厳しかった故歌右衛門、泉下でどれほど喜んでいるでしょう。先代芝翫のお石、文句のつけようのない当たり役でした。ひところ、お石、沖の井、お初、戸浪 等々 いわばNo2の女形ばかり役をふられた時期(No1は歌右衛門)がありましたが、どれも素晴らしかったのです。今回の笑也、これも、幕内の事情は分かりませんが、大抜擢です。研修所出身俳優が50周年記念でよい役をという、座頭 幸四郎の配慮でしょうか。「西洋歌舞伎」「フランス人形風」といった評価を覆す熱演、本格演技を期待したいところです。あわせてこれも抜擢の児太郎の小浪、型をなぞるのに一所懸命の演技から一歩飛躍してほしいものです。(最近、本当にけなげに頑張っているなあと、陰ながら応援しているのです。七之助、梅枝に比べてまだまだの感がありますが。)

投稿: レオン・パパ | 2016年11月 3日 (木) 18時53分

笑也さんの場合には、国立劇場の養成の成果として記念公演に抜擢したのと、幸四郎さんが彼のことを買っているとの話を聞きました。時代物の大きな役ですが持てる力を発揮して欲しいものです。

投稿: うかれ坊主 | 2016年11月 3日 (木) 21時31分

レオン・パパ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
戸無瀬のご推測について、この3カ月時蔵さんの出演が一度もなくちょっと気になっていたので、ふむふむなるほどと思いました。
魁春さんの戸無瀬、いいと思います。期待しています。
先代芝翫さんは、歌右衛門さんがいらっしゃる間はやはりどうしてもNo.2にならざるを得なかったんでしょうね。私は福助時代の芝翫さんを覚えていますが、何年も間があいてから芝翫さんを見てあの福助さんだとは思わず、びっくりしたものです。当時の福助さんは若くてきれいだったという記憶しかないのが、本当に残念。
笑也さん、研修生代表として力を見せてほしいですね。
児太郎クンはおとうさんの病気をきっかけにぐんとよくなりましたね(子役の時に一度見て、とっても上手だと感心したのですが、女方で戻ってきた時には「え?!」と心配しました)。舞台に出る機会が多いので、どんどん成長していくでしょうね。
明日は12月の発売日、忘れないようにしなくては。

投稿: SwingingFujisan | 2016年11月 3日 (木) 22時30分

うかれ坊主様
こんばんは。情報、ありがとうございます。
笑也さん、50周年ならではの抜擢ですね。幸四郎さんと笑也さんの共演があったかどうかわかりませんが、そうやって抜擢してくださるのはありがたいことですね。楽しみな配役です。

投稿: SwingingFujisan | 2016年11月 3日 (木) 22時34分

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