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2016年10月22日 (土)

桃八・清之助、最高のコンビネーション:「たいこどんどん」

1020日 前進座創立85周年記念公演「たいこどんどん」(三越劇場)
体調はほぼ回復。ただ、回復期に外出する不安があり、パスしてしまおうかとも考えたが、とりあえず出かけ、具合が悪くなったら途中でも帰ろうということにした。生活圏を越えて出かけるのは7日以来という不安もちょっとあったし。
でも、出かけてよかった。見てよかった。本当に楽しかった!!
「たいこどんどん」は5年前にニナガワ演出で見ている。初めて見たあの時の「たいこどんどん」も面白くて感動したが、前進座の「たいこどんどん」のほうが直球な感じで、入り込みやすかったかもしれない。
はじめは<普通>だったが、主役2人(薬種問屋若旦那清之助:早瀬栄之丞、たいこもち桃八:中嶋宏太郎)のキャラが醸し出す空気にどんどん引き込まれ、気がついたら物語の世界にどっぷり浸かっていた。声を立てて笑ったり、思わず拍手したり、多分客席の大勢も知らず知らずにその世界に引き込まれていたと思う(それが嬉しい)。
清之助の早瀬栄之丞さんがぴったりのニンで、本当に何の苦労も知らずに育った放蕩お坊ちゃまのしょうもなさ、それでも放っておけない可愛さ、桃八を売って筆舌に尽くしがたい苦労をかけたのになんとなく許せてしまう。初見の橋之助さんもとても素敵な清之助だったのに、橋之助さんとはまったくニンの違う早瀬さんは見ているこちらに愛おしさを抱かせる。清之助の裏切りはかなり強烈に記憶に残っているから、初見の時は許しがたかったのかもしれないが、今回は許せてしまう。それどころか、若旦那も苦労したのねえ、なんて思わず同情してしまう(清之助の苦労は自業自得なんだけど、バカな子ほどかわいいってところかも)。桃八も同じ気持ちだったんだろうなあ。
桃八の中嶋さんもぴったりで、心から若旦那が好きなことが素直に伝わってくる。売られた先の鉱山で、若旦那からの使い(お金)を心待ちにして、その期待がだんだん絶望に変わっていく場面があっさりしているのが逆にその辛さを浮かび上がらせる。若旦那を恨み憎む桃八。それが若旦那の顔を見たとたん、すっと溶けていったのが理解できる。とにかく2人のコンビネーションが最高なのだ。
桃八は富本節ができるという設定で、2人が再会してからは清之助の三味線、桃八の語りで何とか稼ぐことができるようになったが、ある時清之助に瘡ができて、演奏をしくじってしまう。瘡、つまり梅毒をうつされたのも清之助の身持ちの悪さゆえ。そのために桃八は片方の足を失ってしまい絶望的になるのだが、そんな時は清之助のほうが希望を見出す。まったく見事なコンビだわ。富本節のことはよくわからないが、中嶋さんはうまいと思った。清之助と再会する前は三味線も演奏していたが、これもうまいと思った。富本節を巡る2人の再会の妙が面白い。
そんなこんなで、ひょんなことから離れてしまい、9年の歳月を経てやっとの思いで帰ってきた江戸はなくなっていた。若旦那の実家、鰯屋もなくなっていた。2人が東北で珍道中を繰り広げている間に江戸は東京になっていたのだ。途方に暮れる2人だが、2人が一緒にいれば絶対逞しく生きていくであろうことが想像できる。つらいラストが全員の歌と踊りで勇気づけられたような気がした。井上ひさし特有の怖さなんだろうけど、それを乗り越えようとする人間の希望と勇気を感じた、メッセージというのではなく。

脇の役者さんもみんな個性的で、コミカルにそれぞれの役になっているので楽しめた。私の席の周囲に松浦海之介さん(鳶、目明し喜平など6役)の知り合いらしき人がいて、聞こえてくる話につい私も松浦さんに肩入れしてしまった。デカい身体を活かした役もあれば、デカさが目立たない役もあって、その変身ぶりに感心した。袖ケ浦(清之助が惚れている品川女郎)と甲子屋おとき(目明し喜平と組んで旦那殺しをする悪い女)、お熊(これも悪い女)などの北澤知奈美さんが個性的で魅力的。
暗転では、桃八の語る富本節のリズムに合わせて下手に設えられた厩からお尻だけ出している馬の尻尾が上下にピシャピシャと動いたり(客、大ウケ)、役者さんが佐渡おけさを歌ったり、差し金の先につけた奴凧を飛ばしたりで飽きさせない。動物といえば、鉱山から命からがら逃げてきた桃八が魚婆のおにぎりで助けられる場面、魚婆の連れている牛の愛嬌に客席ウケていた。動物はウケるんだねえ。
また場が変わる間に、雷役の柳生啓介さんが前進座85周年の口上をユーモアたっぷり、かつ真面目に述べてウケていた。85周年のこの舞台に一番出たかったはずの梅之助さんが今年1月に85歳で亡くなったこと、「たいこどんどん」の初演では梅之助さんが桃八だったこと、梅之助さんの85年は前進座の85年であることなど、梅之助さんへの思いにうるっとした。これからは自分たちがそれを受け継いでいくという決意に拍手。
最後は全員が舞台を下りて通路を歩き(お芝居でも花道がわりに通路が頻用されていた)、客と握手したりしながら去って行った。と思ったら、ロビーで全員が客の見送りに立っていてびっくりした。歌あり踊りあり、舞台と客席が近い三越劇場で物語の世界に入ってとても楽しい3時間に花を添える、これは嬉しいサービスだ
5年前に見た時は東日本大震災の2カ月後だったからあの時の「東北の今」を強く意識したが、今回は「希望」というものを意識したのは私だけなのか、あるいはそういう演出になっていたのか。心配していた咳もほとんど出なかったし(これを書いている今はまたちょっと…)、「もう一度見たい」と久しぶりに興奮した。公演は27日まで三越劇場。1129日小金井宮地楽器ホール(前進座HPによれば1230の部は完売みたい。1700の部は一等席完売、二等席販売中)
<上演時間>180分(13001420)、休憩25分、第290分(14451615

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