« いなくなったちくわパン | トップページ | 振り返る9月場所-はまった幕下以下の取組 »

2016年11月 3日 (木)

十一月「仮名手本忠臣蔵」

112日 「仮名手本忠臣蔵」初日(国立劇場大劇場)
161103kokuritu1 なぜ初日を取ったんだか忘れたけど、久しぶりの初日観劇。先月に続き11時開演、1615終演というのはきつい(今月は歌舞伎座も5時間超えでしょ)。
「道行」
道行は逆幕だったことを忘れていたから、ちょっと新鮮な驚きがあった。
花道から勘平・おかるが登場。ビジュアル的には申し分のない2人。錦之助さんと菊之助さんのガチ共演は「十二夜」以来のような気がするが、どうだったかしら。
途中までは仲良く歩んできたのに、おかるの疲れを思いやった勘平は自分の過ちの重さに耐えきれず自害しようとする。おかるが止める。おかるにはこれから勘平の女房として暮らす喜びと希望がみられた。「ちっとは女房の言うことも聞いてくれたが」のセリフには自信と恥じらいが感じられた。
花道での勘平はおかるへのいたわりと優しさを見せておかるも幸せそうだった。
伴内が亀三郎さんというのはイメージが違うが、伴内も武士であることを亀三郎さんは意識させてくれつつコミカルな味も見せていた。いつも思うのだが、伴内はどうしてあんな妙な衣裳(長襦袢)で追いかけてくるんだろうか。
ところで、おかるはすごく田舎から出てきてお屋敷勤めをしていたんだということを今回初めて意識した。
「五段目」
闇夜の悲劇だとあらためて認識した。
勘平(菊五郎)と千崎(権十郎)の再会にはちょっと感動した。千崎は大げさに再会を喜ぶことはしないが、恐らく勘平の行く方を心配していたであろうことが察せられた。権十郎さんの千崎は何度も見ているが、そのたび好きだ。
二つ玉の二つ目は、定九郎にかなり近づいて撃っていたが、そんなに近かったけ?(役者によって違うとはいえ、忘れるものだなあ)。
松緑さんの定九郎には暗い鬱屈したもの、そして寂寥たる孤独感があった。この人、どうしてあの九大夫からも勘当されるような人生を歩むことになってしまったんだろうと考えさせられた。
「六段目」
一番感じたのは、勘平とおかるの心のすれ違いだろうか(「道行」でもすれ違っている)。もちろん2人はずっと相思相愛だし、おかるは勘平が落ちる原因を作った責任だけでなく愛情から身売りするのであろう。勘平もおかるを愛おしく思っているだろう。それでも終始勘平の心を占めているのは、悔いと討入なのである。そしておかるがいよいよ家を出て行くにあたっては、自分が舅を手に掛けてしまったことで頭がいっぱい。おかるはいつも置いてきぼりだなあと可哀想に思っていたのが、「おかる待て」の一言ですべてが溶けて、泣けた。

私にとって六段目は重くてつらくて、見るのが苦しいのだけど、菊五郎さんの<陽>の部分が効いたのか、そんなに重苦しい思いにとらわれることはなかった。重苦しさよりも「色に耽った」悔いと武士のプライド、討入への思いが強く響いてきた。菊五郎さんは若々しく、それだけに哀れが募った。仁左様をはじめとした他の役者さんの勘平でももちろん胸に迫るものを感じて泣けるのだが、菊五郎さんはやはり世話の人だなあ、一番しっくりくるかも、と思った。
おかるが出て行き、おかやと勘平2人だけになった家は広く寂しく、胸にぐっときた。
おかるには能天気なところがあると常々思っている。身売りもわりとあっさりしている印象がある(自分のせいだから、と諦めきっているのだろうが…)。でも先の「おかる待て」で2人抱き合って別れを惜しむ場面ではおかるの思いが一気に弾けたようだった。泣けたのにはそれもある。
團蔵さんの源六は女衒の下卑たところ(もちろん歌舞伎だから品よく下卑ている)、居丈高になったりそれを引っこめたり、商売柄売られていく女のあしらいをよく心得ている感じがよかった。
お才(魁春)の捌きは、ごめんなさい、寝落ちしてしまった。全体には源六をうまく使い、置屋の女将としての貫録とか商売上手なイメージがよく表れていたと思った。
東蔵さんのおかやは、いかにも田舎のしっかり者のばあさんたる泥臭さがとてもよかった。おかやの心の変化にこちらがちゃんとついていけるというか同化できた。娘を廓に出す母親の心境も察せられた。
「七段目」
ここは、9月の末に幸四郎さんの巡業で見たばかり。おかるは雀右衛門さんで同じだが、由良之助は吉右衛門さん、寺岡平右衛門は梅玉さんから又五郎さんに替わっている。大きさという点では幸四郎さんのほうが大きいように思ったが、吉右衛門さんはメリハリのある柔軟さが光り、一條大蔵卿がちょっと重なった。
雀右衛門さんは巡業では本当に<かわいい妹>であったが、今回は兄妹としての空気がもう一息と思ったのは、又五郎さんとの絡みが初日のせいだからだろうか。でも「兄さんの頼み」ならなんなりと聞こうわいな、のところからぐっと<かわいい妹>に見えてきたから、これはもう翌日からよくなっていくと確信する。
又五郎さんの平右衛門は足軽という垢抜けない(純朴で、真っ正直でという意味の垢抜けなさ)小身者らしさという点では一番<らしかった>と思う。又五郎さん、熱演過ぎる気もしないでもなかった(もうちょっと力を抜くところがあってもいいのでは?)が、どうしても討入に加わりたいという必死さが伝わってきて、こちらも手に力が入った。顔が種之助クンそっくりだった(又五郎さんのほうが種ちゃんにそっくり、と思った)。
ここでの伴内は吉之丞さん。こちらもイメージ違いだが、私が伴内に抱くイメージの方が違っているのかもしれない。亀三郎さん同様、伴内が武士であることを剽軽さの中に思い出させてくれた。九太夫が駕籠から抜け出て石をかわりに入れたのを駕籠屋が知り、「これはい」と言うと伴内が「し~」と続ける。巡業では駕籠の中身を駕籠屋は知らなかったと思う。
161103kokuritu4 前後するが、見立ては早速菊史郎さんがピコ太郎を取り入れていて、さすが歌舞伎。長い棒(何の棒だったかしら)と大きな盃を逆さにして「ロマンチックな秋の雨、相合傘」。吉五郎さんは太鼓持ちを5人階段に並べ、「国立劇場50年」。
面白かったけれど、今回は七段目でモーレツに足とお尻が痛くなってきつかった。
<上演時間>「道行」40分(11001140)、幕間35分、「五段目・六段目」110分(12151405)、幕間20分、「七段目」110分(14251615

161103kokuritu2

|
|

« いなくなったちくわパン | トップページ | 振り返る9月場所-はまった幕下以下の取組 »

歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

わたしも6日(日曜日)に観に行きます。12月の前売日と重なってしまいましたので、幕間に電話することになります。長丁場なんですね。情報ありがとうございます。七段目は入れ事が多く、特に長いですよね。
さて六段目の幕開きは、お軽の髪結からでしたでしょうか?歌舞伎座ですとカットされるのが普通ですが、国立ならつけてくれるかと期待しているところです。「寝乱れし髪取り上げんと櫛箱の。」という床の詞もあって風情のあるいい場面だと思っています。

投稿: うかれ坊主 | 2016年11月 4日 (金) 22時31分

うかれ坊主様
こんばんは。
うかれ坊主様はあぜくら会員ではいらっしゃらなかったのですか。会員は今日(4日)発売でした。10時ちょうどからしばらくは混雑でなかなかカレンダー画面にいかれませんでした。焦りましたが、数分後には希望の日の希望の席が取れました。
窓口発売は1日違いで7日なんですね。

六段目は、すでにお才と源六がいましたよ(私、寝ていたのかと心配になりました…)。髪結の場面があるなんて全然存じませんでした。一度見てみたいものです。がっかりさせてすみません。

投稿: SwingingFujisan | 2016年11月 5日 (土) 00時19分

おはようございます。
そうなんです、入っていません。
海外に居て帰任日がはっきりしませんでしたので、先行で3か月まとめての予約もできませんでした。
でも10月に戻れたので見られるだけでも幸せです。
六段目の情報ありがとうございます。いつもの場面からですね。

かつて丸谷才一氏が「鷺坂伴内のために」というエッセイで指摘されていたと思いますが、伴内も高家にとっての「忠臣」なんですね。

余談ですが、一文字屋も原作はあるじ(男性)だったのが女形の活躍の少ない作品なのでのちにお才に変わったと聞いたことがあります。かなり以前、前進座で原作通りに上演したようです。お才といえば、我童さんが素敵でしたね。

投稿: うかれ坊主 | 2016年11月 5日 (土) 08時12分

Swinging Fujisan様
こんばんは。今日は国立行ってきました。とても充実した六段目、七段目で正直疲れました。本当にお尻が痛くなりました。その上、昼ワインで六段目は結構寝てしまい、起きたら、後半でした。
 道行、板付きでない、花道の出、久しぶりに見ました。これはこれでいいですね。出てきたところから最後引っ込むのはおかしいという妙な論理を言わないほうがいいのでしょう。錦之助、今月も良い役でよかったですね。
六段目、後半だけの記憶ですが、何度も見た菊五郎の勘平、としを取った以外、文句のつけようはありません。今回、ふっと思ったのは一人で死んでゆく姿に、なぜか透明感、崇高な感覚を感じました。円熟の極みでしょうか。一方、七段目の吉右衛門、相変わらず、セリフが巧緻ですばらしいですね。
又五郎、張り切りすぎて、セリフの音調が単調に強すぎるのがFujisannさんのおっしゃるとおりです。とはいえ柄がぴったりです。国立の忠臣蔵の記念公演での平右衛門、これまで大幹部が演じてきていますので又五郎も抜擢なのでしょう。久しぶりに、いっぱいセリフを喋る又五郎を見た気がしました。歌舞伎座でも舞踊以外の出し物をしてほしいものです。
 ところで、うかれ坊主さんご記憶の我童のお才、私も印象に残っています。この優、今の海老蔵のお祖父さんの十一代目團十郎ととかく噂のあった方です。そのお才、いかにも、祇園の一流の妓楼の女将とはかくあるべし(客あしらいは超一流だが、独特の計算高さが見えるといった性格表現が抜群でした)でした。そのほかの役では封印切、廓文章の女将といった役柄は余人を許しませんでした。あと、酒屋の三勝、二代目雁治郎と一緒の花道の引っ込みすばらしかったです。昔話で申し訳ありません。

投稿: レオン・パパ | 2016年11月 5日 (土) 21時28分

説明が足りませんでしたが、6日は電話予約を開演前か幕間にして、そのままチケット売場で発券してもらうという意味でした。
実は10月も観劇日が6日で同じことを行っております。
発券は6日から対応してくれます。
7日は文楽の電話予約もあり、忙しいです・・・

投稿: うかれ坊主 | 2016年11月 5日 (土) 21時39分

うかれ坊主様
そうですよね、ずっと海外にいらしたのですものね。
本当によかったですね、仮名手本に間に合って。
それにしても、同じ場所にいながら電話で予約して、すぐに発券って、なんだか不思議な感じです。

伴内はついコミカルな部分が印象に刻まれるのですが、役者さんの演技がこの人も武士で忠臣なんだと思い出させてくれます。

六段目は違ってたらごめんなさい。

我童さんは見たことがあるかもしれないのですが、記憶に残っていません。ですのでお才も…。

投稿: SwingingFujisan | 2016年11月 6日 (日) 00時04分

レオン・パパ様
こんばんは。国立、お疲れ様でした。
あれだけの充実で、1幕2時間近くが続くのですから、見る方もきついですよね~。
昼ワインは効きますでしょう。わたしなどアルコールが入ったら即おやすみなさい状態ですので(ただでさえ眠いし)、観劇時は絶対に無理です。本当は、飲んでいらっしゃる方が羨ましいんですよ。

仮名手本忠臣蔵は長いし重いし…なんですが、見ると面白いですね。道行も今回は寝ることなく見たらなかなか面白かった。錦之助さんが素敵でした。
又五郎さんもいい役でうれしく思いました。実直で泥臭くて、ほんと、ぴったりですよね。いっぱい喋る役をもっとやってほしいですね。錦之助さんも。

我童さんの芝居、見てみたかったです。そういう昔をご存知というのは歌舞伎ファンとしての財産ですよ。羨ましい。私は子供時代からの長いブランクでもったいないことをしました。今の私は逆に、○○の初舞台を見た、というのが財産でしょうか。我童さんと團十郎さんとのことは全く知りませんでした。ウィキペディアで調べて、あらためて驚きました。純な方だったんですね。

投稿: SwingingFujisan | 2016年11月 6日 (日) 00時20分

本日観て参りました。
(わたしもお尻が痛くなって何度となく座り直しました)

「七段目」では、斧九太夫と伴内の入り込みを見せてくれましたね。いつもは省略される事が一般的です。わたし自身も初めて観たような気がします。
平右衛門も三人侍と一緒に花道から登場でこれも良し。
役者によっては役が小さく見えるので、あとから下手そでから「暫く暫くお控えくだされましょう」で初めて出る方もいらっしゃいます。
わたしは又五郎の平右衛門良かったと思います。
お軽と兄妹に見えるのがなによりでした。

「道行」は、先月の復習のようでしたね。
レオン・パパさんの言うように浅葱幕でなく、花道からの登場も良かったです。しかしながら鎌倉から逆方向の戸塚に寄ってから山崎に行くのがいつも気になります・・・
錦之助の勘平、良かったですね。先月も良かったし、12月の九段目の力弥にも期待したいです。

三十年前の「道行」は、亡くなった團十郎と勘九郎(当時)のお軽勘平でしたので感慨深いものがあります。
定九郎も翌年急逝する初世辰之助ですから、この三人が居てくれたらと思わざるを得ません・・・

今日の「見立て」は、真田丸ネタと大相撲の床山ネタでした。九太夫の梅干しはお約束通りでした。

ご指摘の「おかるには能天気なところがあると常々思っている」
という点ですが、「お軽も六段目では世話女房」という台詞が「婦系図」にあります。身売りは当時の感覚では当然のことでしょうし、「勘平さん大事」というところが菊之助のお軽にはよく表れていたと思います。三段目のお軽は確かに尻軽のところはありますけどね。七段目のあとのお軽は一体どうなったのだろうと思うことがよくあります。

12月のチケットは開演5分前に取れました!
オペレートの女性にも開幕のブザーが電話を通して聞こえたようで、スピーディに協力してもらいました。(有難うございました)

投稿: うかれ坊主 | 2016年11月 6日 (日) 23時20分

うかれ坊主様
おはようございます。コメントありがとうございます。
チケット、よかったですね!! 5分前とはギリギリでしたね~。ほんと、よかった。

九太夫と伴内の入り込み、そういえば私も初めて見たように思います。
又五郎さんの平右衛門、ニンはぴったりだし、これから持ち役になるといいなあと思いました。巡業の梅玉さんと雀右衛門さんの兄妹が素晴らしかった印象が強いうちに今回見たので、又五郎さんとの兄妹ははじめのうちあまりピンときませんでしたが、途中から兄妹間に漂う空気が見えるようになりました。日が経ってますますその空気がはっきりしてきたのでしょうね。本当は初日を見たら後日リピートするのがいいのですが…。
見立ては九太夫の梅干以外は日替わりなので、全部知りたいところです。

おかるのこと、私はちっとも女心をわかっていませんね。身売りすることをあまり悲しんでいないように思えるのは、勘平さんへの愛が強いからなんですね(勘平さんのためなら当然、というより喜んで、という気持ちなんですね)。

七段目の後は、由良之助が身請けして母親のところに帰してくれる、といいなあと希望的観測で…。

道行、とてもよかったです。今回はじめてちゃんと見たような気がします(いつも、どこかで寝てしまう)。戸塚へ寄るのは、足利館は江戸城という当時の観客のコンセンサスによるのではないか、と戸塚パルソ通信というのに書いてありました(http://www.totsuka-pallso.jp/mailmagazine/yado/13-2.html)。そう言われると納得です。

本来なら今が華、これからが華という役者さんがいらっしゃらないのは本当に残念でなりません。とくに辰之助さんの定九郎は拝見したかったですわ~。

投稿: SwingingFujisan | 2016年11月 7日 (月) 11時02分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« いなくなったちくわパン | トップページ | 振り返る9月場所-はまった幕下以下の取組 »