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2017年1月10日 (火)

1月歌舞伎座夜の部

19日 壽 初春大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)
170110kabukiza
「井伊大老」
昌子が侍女に「奥方様は本当におひいさまでいらっしゃいますねえ」と半ば呆れられながら言われるが、雀右衛門さんはまさにこのセリフにぴったり。侍女は世間知らずという意味も込めて言ったのだろうが、私には昌子はおっとりして心根が優しくて、いい意味でおひいさまだと思えた。そして昌子は本当は、直弼が言うように嫉妬心がないわけではなく、隠しているだけなんじゃないかと思った(そこもまたおひいさまなんだろう。それが直弼にとって荷が重いところなのかも)。お静の方に子供がいるという事実だけでなく、直弼の心があちらにあるということはわかっている、という正室でありながらの寂しさが細やかに伝わってくるようであった。
玉三郎さんは華を抑えて、直弼を支える女性をしっとりと好演しており、正室でないが故の寂しさ、直弼への甘えがうまいと思った。ひたすら直弼を思う可愛さがいじらしい。幸四郎さんは大老としての重責、国を思えばこその言動に対する人々の罵りに堪えなければいけない男の苦悩を体全体で表現していた。あの混乱の時代、一国をどこへどのように導いていくのか、スケールはまったく違うものの大石内蔵助に重なるものを感じたのは、3カ月間忠臣蔵を見たせいか。しかし幸四郎さんはちょっと泣きが過ぎる(力演過ぎ?)かなとも思った。お静の前でしか見せない男の弱さは、公人としての大きさ(幸四郎さんの大きさは言うことなし)との泣かせるギャップでもあるのだが…。

また、私には、幸四郎さんからは部屋住みであった時代の姿があまり想像できなかった。吉右衛門さんと魁春さんで見た時は彦根時代の2人がありありと目に浮かんだものであるが。せっかくしみじみした2人の世界はよかったのに、なにか物足りなさを感じた。
もう一つの物足りなさとして、今回桜田門外の変が省略されていることがある。もちろん、翌朝には直弼が襲撃を受けることは折り込み済みで見ているわけだが、それを予見しての余韻より、絶命した直弼に昌子とお静を思う余韻のほうが私としては感動できる。あくまで個人的な好みではあるけれど。あの終わり方では「ぢいさんばあさん」みたい、と言ったら言い過ぎだろうが、でも「ぢいさんばあさん」を思い出したのは事実だから。
水無部六臣(愛之助)と直弼のやりとりには迫力があってどきどきした。でも、六臣と直弼が幼馴染には思えなかった。
「越後獅子」
おお、田中兄弟が‼ 傳次郎さんと傳左衛門さんが同じ舞台に出ているのを見るのは久しぶりなような気がする。
鷹之資クンの成長と努力に胸が熱くなった。
獅子頭を付けている時は、まだ可愛い子供だなあと思っていたが、それを取ったら立派に成長している姿が現れてびっくりした。
踊りは楷書ながら指の先まで神経が行き届き、きっちり、柔らかく、メリハリがあって、飽きさせない。一本歯の下駄はやや重い感じを受けたが、晒布の扱いは見事だった。DNAだけではなく、よほど稽古したのだろう。富十郎さん存命時にテレビでやっていた鷹之資クン修業のドキュメントを思い出した。
「傾城」
玉さまがとにかくきれい。ちょっとだけ見せる花魁道中も、店の中での舞も、なにもかもが美しい玉三郎ワールドだった。
「松浦の太鼓」
この芝居と直侍は、江戸時代の雪の日の寒さを実感するようである。この日も本当に寒くなった。
染五郎さんの松浦侯はちょっと軽すぎるように思った。コミカルなところを強調しすぎているようで(たとえば、其角のことを「ばかばかばか」と小声でいつまでも呟いて笑いを取っていた)、愛嬌というよりはわざとらしさを感じた。笑い声や高音の声が吉右衛門さんに似ていた。巡業の時にもこんなに声が高かったかなと思うくらい高音が多く、それはたしかに吉右衛門さんに似ているんだけど、なんか違和感があった。巡業の時のほうがよかったな。
左團次さんの其角はプロンプターが付いているようにも聞こえたが(違っていたら大変失礼)、源吾兄妹に対する暖かさがとてもよかった。
愛之助さんの大高源吾は好きだと思った。骨太で声よくセリフもはっきりしているし、主君に対する思いをアツく語ったときにはこちらの胸もアツくなった。
壱太郎クンのお縫は可憐だった。浅草との掛け持ちだって、初めて気が付いた。
<上演時間>「井伊大老」83分(16301753)、幕間30分、「越後獅子・傾城」39分(18231902)、幕間20分、「松浦の太鼓」80分(19222042

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コメント

おはようございます。
寒波襲来ですが、東京は雪が降らないのがなによりです。
今月の歌舞伎は、残り浅草だけです。浅草は早くゆくと浅草寺の参詣客がすごいので、月後半にしています。それでも雷門前のどら焼きやいつでも並んでいるのでついぞ買ったことがありません。若い時から並ぶのが嫌いでしたので。そういえば、歌舞伎のチケット、窓口での前売りも、襲名興業以外は大体買えましたし、以前は都民劇場に加入していました。懐かしいです。
今月の観た中では、海老蔵の義賢最期が印象的でした。この優、細かいことを言えばきりがないのですが、ああやっぱり海老蔵は稀有のスターだなあと思えば、他が帳消しになります。平家方の使者との緊迫したやりとり、立ち回り、蝙蝠見得でのおちいり、凄艶さきわまりない出来栄え、実盛も結構ですが、この役もよく合います。
あと、鷹之資の越後獅子、Fujisanさんがおっしゃるように楷書の踊りですが、この若さでこれだけしっかり踊れれば立派なものです。当面は、それほど良い役はつかないのでしょうが、精進してほしいものです。

投稿: レオン・パパ | 2017年1月15日 (日) 09時56分

レオン・パパ様
こんばんは。寒いですね‼ でも、ほんとお天気がいいだけありがたいですね。

浅草は第一部を昨日見て浅草寺にお参りもしてきましたが、思ったほど混んではいませんでした(もちろん、混んでいることは混んでいましたが、想像以下でした)。並ぶのは私も大嫌いです。と言いながらやむを得ずたま~に並ぶこともありますが。そうそう、昨日、てんぷらの大黒屋さんにはずら~っと行列ができていました。

演舞場夜の部は来週見ますが、以前は海老蔵さんの汗を浴びたいと花道脇の席を取ったものでした。あの事件の後、枠からはみ出すものが少なくなったように思いますが、確かに今でも稀有な役者さんですよね。

鷹之資クンの踊り、お父様も泉下でさぞお喜びになっているでしょう。いい供養になったと思います。真面目に精進するタイプのように見受けますので、これからが楽しみですね。

投稿: SwingingFujisan | 2017年1月15日 (日) 20時36分

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