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2017年4月29日 (土)

「夢幻恋双紙」

425日 「夢幻恋双紙」千穐楽(赤坂ACTシアター)
170429akasaka 面白かった‼ セリフは現代語だし、長唄も入るがピアノが流れるし(これが効果的)、歌舞伎でなくて一般演劇としても成立しそうなのに歌舞伎としての違和感が全然ない。脚本(蓬莱竜太、演出も)がよくできているんだろう、変なひねりがなく、最初から素直に入っていけた。以下、思い出すままに。
切り絵風の家々がメルヘンのようでいて、本当にその世界へ連れて行ってくれるようで、独特のいい空気を静かに発していた。
時間が前触れも説明もなく飛躍するが、ちゃんと時が移ったことがわかる(勘九郎さんが舞台上で着替えるのが、唯一目で見てわかる時間の飛躍だった)。
剛太、末吉、静、そして「のびろう」とあだ名されている太郎――ドラえもんのいない「ドラえもん」の世界の子たち。剛太の猿弥さん、末吉のいてうさん、静の鶴松クン、太郎の勘九郎さん(太郎がおなかの当たりで歌に小さく手を振るバイバイがとても可愛い)、みんな子どもに見える。子供の世界をうまく表現している(中でも猿弥さんが秀逸)。マドンナである歌(七之助)だけが「ドラえもん」の登場人物ではなく、そして私には年齢不詳に見えた。みんなが子供でも1人おねえさんな感じ、そしてみんなが大人になっても歌だけはそのまま。
太郎は2回転生する。まずは転生前の太郎の時代。
歌の心の変化が哀れだった。不治の病の父親の看病に疲れ果て、父を殺そうとする。やつれ、荒みが全身にしみこんで、この時だけは老けて見えた。やさぐれ兄・源之助(亀鶴)にさえ「1人にしないで」と叫びすがる哀れさが胸に迫った。ところが、この「1人にしないで」にはもっと深い意味があったんだと、ずっとずっと後になって気づかされた(そこが蓬莱さんのうまいところなんだよなあ)。
太郎は
2回転生すると書いたが、本当は永遠に転生し続けるのかもしれない。永遠に続くメビウスの輪? 
最初の太郎(のびろう)はどうしようもない男だ。子供の頃はやさしいのびろうで済んでいたが、歌と夫婦になってからの生活力がない。自分の劣等性に甘えて負けて努力をしない。そこを源之助につけこまれる。歌を苦しめる。そういうダメダメな太郎の勘九郎さんがうまい。

源之助の手にかかり命を失った太郎は転生する。物語は三人の太郎のうち、この二番目の太郎に重きが置かれている。二番目の太郎は180度性格が変わり、強くなっている。もう「のびろう」ではない。子供どうしの力関係も変化している。太郎は強いけれど、何かに操られているようにも見える。操られている意識が時々戻ってわけがわからなくなるという感じ。長じてからはかなり阿漕な商売をして金持ちになっている。悪行も、転生前は源之助に従うだけだったのが主導権は太郎に移っている。冷酷な源之助さえ、太郎に従わざるを得ない。ここでも太郎も歌と夫婦になるが、何事も自分中心で歌を縛り付け、怒りっぽく、常にイライラしているようだ。商売人としてもあやういし、自分のことしか考えていないと批判する歌に「全部、おまえのためを考えてのことだ」と怒鳴り返すなど、人間としてもあやうい生活である。しかし性格が悪いと一言では言えない陰がある、子供時代のように何かに操られているみたいに思えるのだ。
死にかけていた歌の父親がハデな格好で出てきた時には客席大ウケ。私もウケた。それと同時になんかちょっとほっとするものもあった(最初の病人ぶりがあまりに悲惨だったから)。病人でも元気な父親でも、亀蔵さん、怪演と言おうか。
ここでは剛太の男気がカッコいい。カッコいいけど、太郎の力の方が強い。猿弥さんがそのどうにもならないもどかしさをうまく表現していた。
三番目の太郎は二番目の太郎とは180度逆の性格、いわゆる<いい人>だ。歌に思いを寄せているのは同じなのに、剛太を応援し、2人を一緒にさせてやる。歌はやっと幸せになってよかった…ところが。
そういう展開になるとは想像しなかった。そういうことだったのか、と私はいつ気がついたんだろう。源之助が太郎と刺し違え「これが終わりじゃない」と叫んだ時だろうか(ニブい)。ここから続く場面でこれまでのすべてが腑に落ちた。もしかして歌は…とずっとちらちら湧いてきていた疑問の答えが出たし、「私にはわかる、私たちが一緒になってもうまくいかない」というセリフの意味もわかったし、赤目の意味もわかった。そして、ギャラリートークでの亀鶴さんの「今は歌より太郎が愛おしい」という言葉がちょっと感動を以て思い出された。

鶴松クンの静がなかなか興味深い。ちょっとした性格の悪さは、マドンナの立場が歌に取って代わられてかなりひがんでいるところからきているんだろうけど(「静ちゃんの時代は終わったんだよ」と剛太と末吉が子供らしい率直さで指摘する)、女として本来もっている嫌な部分が前面に出ている中で悲しさもあり、面白かった。鶴松クン、大奮闘(大熱演という意味ではなく、気だるげ、物憂げな様子をうまく出していたという意味で)。
末吉のいてうさんは、歌舞伎夜話で亀鶴さんがうまいと褒めていたし、以前に中村屋の巡業で私も注目したのだが、確かに実力がある。お調子者だとばかり思っていた末吉の意外な人間性がよかったのだけど、イマイチ信用できないという疑惑を感じた。
猿弥さんはとにかくカッコいい。ある意味得な役ではあるが、猿弥さんだからこそのカッコよさだ。

ACT
シアターではいい席を取った。亀鶴さんがすぐ脇の通路を何度も通ったのが嬉しかった。近すぎて顔はあまり見られなかったが、その空気に触れられて満足。亀鶴さんはこういう陰のある役が実にはまってうまい。
<上演時間>第一幕55分(14001455)、幕間20分、第二幕75分(15151630

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

蓬莱竜太では岸田國夫戯曲賞作品の「まほろば」を初演再演と観ていて好感を持っておりました。
この作品は登場人物が女性ばかりのものでしたが、男と女のあり方や命の再生が神話的な枠組の中で時にコミカルに切なく展開されていました。
今回の「新作歌舞伎」も男女の関係を「生れ変り」や「転生」という仕掛けを活かした展開でした。
歌舞伎によくある「ひとり何役」ではなく「ひとり何人生」というところでしょうかね。
「成功作」と言えると思います。
これには中村屋の2人の協力もあってのことだと思いますけど。
共演者では、猿弥の剛太が流石に江戸前の職人らしく、鶴松が歌に嫉妬する静を好演し進境を見せていましたね。抜擢のいてうは、お調子物で時に狡賢い末吉を上手く造形していました。(この人、勘三郎に似ていて時々ドキィとすることがあります)
もちろん亀鶴もはまり役。太郎と力関係がひっくり返るときのひょうきんさも落差があって笑わしてもらいました。
国広和毅の音楽も違和感なく溶け込んでいました。
蓬莱作品の次なる試みを愉しみにしたいです。

投稿: うかれ坊主 | 2017年5月 2日 (火) 16時28分

うかれ坊主様
こんばんは。コメントありがとうございます。
蓬莱さんの「まほろば」は残念ながら見ておりませんが、才能ある方ですよね。「木の上の軍隊」、「淋しいのはお前だけじゃない」を見ましたが、脚本を担当なさった後者は絶品でした(演出はマキノさんでした)。
「夢幻恋双紙」は作品としてもとてもよくできていたし、役者さんたちが人物をよく理解してその魅力を十二分に出していたと思いました。亀鶴さん、鶴松クン、いてうさんが大きな役を演じたのが嬉しかったです。亀蔵さんは唸り声だけで存在感を出していたのが亀蔵さんらしいと思いました。
いてうさんが勘三郎さんに似ている――うかれ坊主様もお感じでしたか。私も時々そう思っておりました。

ぜひ再演もしてもらいたいし、勘三郎×野田秀樹のように勘九郎・七之助×蓬莱竜太でまた新作も書いてほしいものです。

投稿: SwingingFujisan | 2017年5月 2日 (火) 23時04分

「木の上の軍隊」も蓬莱さんでしたね!

マキノさんと言えば、「東京原子核クラブ」の本を紀伊國屋ホールの前のコーナーでサイン入りのものがあったので、思わず買って再読しました。(前に買ったのは小学館版で、今回のはハヤカワ版です)おっしゃるように演出ノートがついていて興味深かったです。
SwingingFujisanさんに紹介した「おかげ」で、本の方からわたしのことを呼んでくれたのかなぁと思いました。(これに似たことって時々ありませんか?)
わたしと同世代のマキノノゾミ、鈴木聡、三谷幸喜のこの3人にはできるだけ長く劇作家として活躍して欲しいと思っています。

5/3は明治座の昼夜です。なので早く寝なければ・・・お休みなさいませ。

投稿: うかれ坊主 | 2017年5月 3日 (水) 00時12分

うかれ坊主様
「東京原子核クラブ」のサイン本ですか。
あの後、間もなく読破しました(読破という量ではありませんが)。橋場さんのこと、しんみりしました。

意識がそちらに向いていると、呼んでいる本の声が聞こえてくるんでしょうね。本も見つけてもらって喜んでいると思います。

今日は明治座初日をお楽しみでしたか。私は連休明けに見ます。明治座は上演時間がほどよくて、とても助かります。歌舞伎座は今月もきびしい。とくに夜の部は…。

投稿: SwingingFujisan | 2017年5月 3日 (水) 22時02分

昼の部は14:20。夜の部は20:20に、はねしました。16:00開演ですから、夜の部はそれなりにボリュームありますよ。
昼の部が早くはねるので、通しで観るとちょっと間が空きます。
天気も良かったので川向うの清澄庭園まで散歩しましたが、夜の部に疲れが出てしまい失敗でした。
初日だったので関係者が沢山いました。
愛之助夫人は当然のこと、昼の部では歌六ファミリー(米吉君の弟?も一緒でした)と芝翫がはちあわせするところに遭遇。別の場所では藤十郎と鴈治郎夫人をお見かけしました。(劇場側もエスカレーターを下りから上りに変えるほどの気の遣いようでした・・・)夜の部では玉太郎君と松江夫人に芝翫のお母様もおいででした。夜の部開始前には劇場付近を上村吉弥と歌女乃丞のお二人が仲良く歩いておいででした。

<おまけ>
ご存知かもしれませんが。今年の「双蝶会」のちらしがあり、日程は8/5と8/6で、「一條大蔵譚(奥殿のみ)」と「吃又」の二本。
壱太郎が特別出演となっていました。

投稿: うかれ坊主 | 2017年5月 3日 (水) 23時15分

うかれ坊主様
こんにちは。コメントをいただいたのに、公開が遅くなってしまいすみません。
確かに夜の部はボリュームがありそうですが、八犬伝なので何とか頑張れるかなと自分に期待しています。

初日はやっぱりロビー等が豪華ですね。松江さんのご一家は、お互いに家族の公演をよくご覧になっているようです。先般も玉太郎クンご出演のKAATに松江さんがいらしていました。

清澄公園は近いように思いますが、やっぱりちょっとあるんですね。気持ちのいい気候ですから、足を延ばしたくなるお気持はわかります。私は昼夜別の日に見ますが、事情が許したら荒汐部屋を覗いてみるつもりです。明治座のすぐ近くにありながら、一度も行ったことがなくて。中は覗けないでしょうが、場所中でもあり、ちょっと空気だけ吸えれば…。

双蝶会の情報、ありがとうございます。研の會はすでに情報が出ていたので、双蝶会も待っておりました。今年はなかなか先の予定が立たず、見られるかどうかわからないのですが…。

投稿: SwingingFujisan | 2017年5月 5日 (金) 15時59分

そうそう荒汐部屋ですよね!近いです。
私も大分前ですが、開演前に付近を散策していたら偶然見つけて、朝稽古をしているところを観たことがあります。
五月の明治座は夏場所と重なるので格別ですよね。

投稿: うかれ坊主 | 2017年5月 5日 (金) 18時45分

うかれ坊主様
まあ、朝稽古をご覧になったのですか。それは羨ましい。荒汐部屋はいま、猫ちゃんで人気ですよね。私はただでさえ昼の部の開演は時間的にきついので、早く行くことはできないと思います。猫は苦手なんですが、帰りにちょっと寄って荒汐部屋の猫ちゃんでも見られればと期待しています。場所中だからお相撲さんの姿も見られるかしら。蒼国来関に会えたらサイコー。夏場所と明治座、なんか雰囲気が合いますよね。

投稿: SwingingFujisan | 2017年5月 5日 (金) 20時21分

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