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2017年5月 5日 (金)

4月分②:「化粧」

430日 「化粧」千穐楽(紀伊國屋劇場)
「化粧」といえば渡辺美佐子だったが、私は渡辺さんでは見ていない。実は、平淑恵さんの「化粧」は20143月(平さん2度目の公演)にも見ているのだけれど、あの時はなぜか感想を書けないほど爆睡してしまい(あんな熱演に対して申し訳ない。爆睡という割にある程度内容は覚えているし、あの上品でおとなしげな平さんが、と驚いた記憶はあるけど、自分の気持ちがついていかなかった。)、すっごく後悔していたから、再々演があれば絶対見ると決めていた。チケットは当日券も完売となっていた。
劇場には昭和歌謡・演歌が流れ、古びてさびれた楽屋と思しき舞台には五月洋子一座の幟が何本も立っている。それだけで、「化粧」の世界がぐっと迫ってくる。しかし正直、今回も自分の気持ちがこの芝居の、また五月洋子のすべてを受け止めきれてはいない。
現実なのか五月洋子の妄想なのか、しばらくの間は現実のものとして見ていられるのだけど、時々洋子が発する「どうしてこの芝居には1人しか出てこないんだ」(正確じゃないかも)というセリフから、これは<妄想>の世界だとわかる。洋子も現実ではないと一瞬気づきながら、すぐに自分の世界に戻っていく。でも、訪ねてきた息子はどうなんだろう。現実のようでもあり、妄想のようでもあり……私は現実と思いたい。感動の再会のはずがとんでもないオチとなり、洋子はついにこわれる。途中で時々揺れる楽屋は洋子とともにこわされる。
衰退した大衆演劇の女座長と母親――幼い頃に捨てざるを得なかった息子にかわり、大衆演劇は五月洋子にとって子供であったのではないか。1日たりとも忘れられない息子だったからこそ、自分の一座と芝居に打ち込んだのではないだろうか。そして洋子が演じるのは、自分の現実と重なる「伊三郎別れ旅」。

五月洋子は鏡の前でだし物の化粧をし、鬘をつけ、衣裳をつける。鏡の前ではあるが、実際の舞台に鏡はない。つまり平さんは鏡なしで、いかにも鏡の前にいるように化粧していくのである。しかも、座員の11人(妄想の座員)に注意を与え、自分も口上、母と子の再会の場面の稽古に余念がない。そういう中での鏡なし化粧は圧巻だ。伊三郎を演じる洋子はもろ肌見せた下着姿からてきぱきと衣裳をつけていく。ぱっと着物を投げて袖を通す場面では拍手が起きた(歌舞伎でもそういう着方、あったよね)。
平さんの次から次へのセリフで、公演直前の慌しい楽屋風景が生き生きと展開する。芝居は<ないもの>をあるように見せると言うが、「化粧」はそこが二重構造になっていて、あるように見せた<ないもの>(座員とか観客とか)は本当にないのだ(平さんがうまい)。それが私には重すぎて受け止めきれないのだと思う。
五月洋子はきっとこわれながらも満足していたのではないか。宙に吊られて「おっかさぁぁん」と叫ぶ平さんの顔を見ていたら、女座長の行く末を哀れに思いながら、そんな気持ちにもなった。前回公演はどういう終わり方だったっけ。やっぱり感想は簡単でも書いておくべきだったかな。

the座>は前回も買っているので今回も同じだろうと買わないつもりだったが、平さんの初演から今回までのthe3点セットを1,500円で販売していたのを見てじゃあ今回は前回とは違うのかというのと、今回は平さんファイナルと銘打っているのとで(本当にファイナルなの?)、結局今回分のみ買ってしまった(セットでないと900円)。

<上演時間>75


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コメント

わたくしは29日の昼に観ました。最後尾でした。
こまつ座から案内がこなくなっており、海外に出ていた関係ではがきでの申し込みをしていなかったのですが、おかしいと電話したら申し込みが途絶えると案内を中止するとのことでした。
なので楽は取れず、土曜もすごいところからでしたが、まぁ取れて良かったです。
最後の宙釣りは「平版」の最大の特長ですね。
あとは渡辺さんの時と大きく変わっていないように思います。(幕間があったかな・・・ちょっと自信がありません)
残念ですよね。もっと続けてもらえると思っていたので・・・
3代目はどなたが演じてくれるのかしら。

6日は昼夜で團菊祭でした。
7月のチラシはまだでしたが正面ロビーには紹介されてました。
昼は「矢の根」(右團次)、「慶安の狼」(太平記の方でなく小幡欣治本ですね・・・獅童の丸橋忠弥)「すし屋」(海老蔵の権太で右之助さんが斎入襲名披露とありました!ひぃおじい様の名ですね 斎入は隠居名ですがまだまだ頑張っていただきたいです)追い出しが「神田祭」。
夜の部は「秋葉権現廻船噺」で海老蔵、獅童、右團次らの出演ですが配役は公表されていませんでした。(演目は変えてましたがごめんなさい覚えきれませんでした)
以前、前進座で取り上げたことのある演目で、おそらくはかはり手を入れて海老蔵版になるのでしょうね。日本駄右衛門の原型になった狂言とのことです。

投稿: うかれ坊主 | 2017年5月 7日 (日) 00時27分

うかれ坊主様
まずは、7月の公演情報ありがとうございます。まだ歌舞伎美人にも出ていないので待ち遠しく思っていました。「慶安の狼」は松竹座で見たことがあります。あの時も獅童さんの忠弥でした。大変面白くて感動して盛り上がった記憶があります。その松竹座、昼夜は別でしたがやはり「すし屋」がかかりました。今回は右之助さんの襲名ですか。斎入というお名前から受けるイメージと右之助さんは合いませんが、そのうちこちらも慣れるのでしょう。夜の部の演目は初めてです。

「化粧」、やはりご覧になられましたのね。先日、紀伊國屋書店にいらしたとのことでしたので「化粧」のおついでかなと思っていました。平さんは3度の公演で終わりなんですね。とても難しい役なので、次はどなたが演じられるのか、私も気になります。宙吊りは演出家次第でしょうか。

こまつ座の案内について、今年に入ってだったか、今後案内がいらない場合は申し出てほしいというメッセージが案内状の中に入っていました。私は「化粧」は申し込みましたが、今は早くからの予定が立てられないので今後は案内も来なくなると思います。人気公演は取るのが難しいでしょうが、ダメ元、ネットでなんとか頑張ってみます(千穐楽はもう狙えませんね)。

投稿: SwingingFujisan | 2017年5月 7日 (日) 17時11分

Fujisan様
こんばんは。連休は歌舞伎座でした。3日の初日、寺嶋しのぶさんの息子さんの初舞台、マスコミが結構来ていてにぎやかでした。魚屋宗五郎、私はぼーっとしていて、勘違い。梅枝の登場にどうしてこんなにすごい拍手がくるのかと思ったら、可愛い丁稚さんがでてきて、ああそうだったのかと感じ入った次第です。
今回の團菊祭、狂言建てが名作揃いで並べ方もまずまず、見どころ多彩でした。(但し、Fujisanさんがおっしゃるように夜の部の終演時間がおそいですね。)
印象に残ったのは、新彦三郎の定評ある口跡の良さ(但し強音のみでセリフを押し切りがちな点気になりました。今後は弱音もうまく聞かせてほしいものです。新亀蔵、思ったより踊りがうまいですね。彦三郎、亀蔵ともに実力がありながらいい役をふられてこなかったわけですが、今後は出し物をできるようになればいいですよね。

投稿: レオン・パパ | 2017年5月 7日 (日) 18時26分

レオン・パパ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
初日にいらしたのですね。私は敢えて連休は避け、眞秀クンの初お目見えはテレビで楽しみました。可愛い子供には人気をさらわれてしまいますね。マスコミ的には音羽屋坂東一家の襲名が霞んでしまっていますが、口跡のいいこの一家を今後も応援したいものです。新・彦三郎さんは「明君行状記」でも実力を発揮しましたし、どんどんいい役がつくといいなと思います。
夜の部の終演時刻を考えると、最後の踊りはパスしたいところですが、亀蔵さんですからそういうわけにはいきませんね。新・亀蔵さんの踊り、そういえばこれまでもお兄さんより印象に残っている気がします。

投稿: SwingingFujisan | 2017年5月 7日 (日) 21時54分

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