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2017年5月19日 (金)

五月歌舞伎座昼の部

514日 五月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)
以前の私なら、何が何でも初日だったのに…。
3
階はサイトでは多分空席なしだったように思うけど、意外と混んでる感はなかった(実際、空席もいくつかあったし)。
「梶原平三誉石切
ああ楽善、彦三郎、亀蔵、親子3人の「石切梶原」を見ているんだ、となぜか開幕後数分経ってから、幸せな感慨を覚えた。口跡のよい3人、セリフが心地よく耳に入ってくる。
新・彦三郎さんはやや小粒(そりゃあ、吉右衛門、幸四郎という大物に比べたら当然仕方ないよね)、まだ硬い部分もあったが、丁寧に楷書で演じていて、何と言っても爽やかさが気持ち良い。若さと彦三郎さんの持ち味故だろう、策を凝らすという感じよりも、親子の力になりたいという真っ直ぐな気持ちを強く受けた。刀の鑑定をするために咥えた懐紙の厚さがかなりで大丈夫かと心配になったが、それが名刀であることに驚いて口を開いた途端懐紙が落ちたからほっとした。試し斬りをしようとする俣野五郎を自分に「失礼だ」と一喝する梶原。私もスカっとしたが、客席からも拍手が起こった。手水鉢は正面向きに切り、飛び越えると言うよりは2つに割れた中を悠々と(だったか、急いでだったか)歩いて出てきた。彦三郎さんの爽やかさを、今度は細川勝元で見てみたい気がした。
新・亀蔵さんはあまり悪役には見えなかったが、形がきれいで迫力があった。
楽善さんはやっぱり大きさが違うなと思った。そこが歌舞伎の面白いところで、彦三郎さんがやや小粒に見えたのには、楽善さんの大きさがあったのも一因かもしれない。大庭という人物は一応悪役側ではあるが、俣野と違ってそんなに悪い人ではないと、いつも思う。刀の目利きは梶原に一目置いていて鑑定を依頼するし、相手の言い値で買い取ろうとするし、六郎太夫が二つ胴に志願すると何を言っているんだと二つ胴をやめさせようとするし。とくに六郎太夫の申し出に対する反応はまともだろう。そういう大庭の面が楽善さんの大きさの中に見て取れた。
右近クンの梢は可憐だった。
團蔵さんの六郎太夫がよかった。弱々しく喋るセリフが効いて、二つ胴失敗の絶望→梶原の策に対する驚き→喜びの感情が伝わってくる。折紙を取りに帰る梢を見送る姿に、父親としての強い愛情・覚悟が見えて感動した。
呑助(松緑)のセリフは、酒尽くしではなくて十七世羽左衛門、七世梅幸の追善、楽善・彦三郎・亀蔵3人の襲名、眞秀の初お目見え、亀三郎の初舞台と、特別な團菊祭に絞ったものだった。松緑さんは真面目で、こういう飄々とした面白みはないかと思っていたが、そういう團菊祭に團蔵の兄と重ねられて(並べられて?)とおーんおーんと泣いているのが可笑しくもあり、気の毒でもあり、だった。

「吉野山」
義太夫の「吉野山」は初めて。いつも見る「吉野山」とはずいぶん違うので驚いた。舞台下手側には吉野川が流れていて、静は花道からではなく、舞台中央奥から出てきた。ビジュアル的には申し分なく美しい菊之助・海老蔵の静・忠信。でも途中でけっこう寝てしまった。
海老蔵さんに覇気が感じられず心配したが、やはりかなり疲れていたようだ(精神的な疲れが大きいんだろうな…)。最後の笠投げは低めまっすぐに男女蔵さんのところに飛び、男女蔵さんもナイスキャッチ。
「魚屋宗五郎」
これまで菊五郎・時蔵コンビを含めて何度も見てきた演目だが、今回ほど胸にジンときたことはない。
全体に市井の人の生活感が自然に生き生きと感じられて、芝居の世界にどっぷりはまった。萬次郎さんは少ない出番の中で弔問者の悲しみとお悔やみの気持ちを滲ませていた。帰り際振り返ってふっと思い入れたところでは、宗五郎家への思いやりが感じられてじ~んとした。権十郎さんの三吉は安心して見ていられる。若手の三吉もいいが、こうしたベテランは生活の感覚を一入掘り下げてくれる。そういえば、萬次郎さんも権十郎さんも十七世羽左衛門の息子さんなんだよなあと今さらながら思った。
眞秀クンの丁稚の可愛さは劇場中の人気をさらったみたいだった。かわいいだけでなく芝居がしっかりしていて感心した。玄関先で待たされている間、正面を向いてにこにこしているのがまた可愛くてたまらなかった。
おなぎから真相を聞くところでは、国立で見た通しのその場面が思い出されて泣きそうになった。團蔵さんの太兵衛からは娘を理不尽に奪われた父親の怒りと悲しみ、やりきれなさが伝わってきた。菊五郎さんは江戸っ子らしさ、一家の大黒柱としての分別が感じられ、酒に呑まれるという唯一の欠点さえ悲しみと理不尽に対する怒りとやりきれなさの爆発であると思うと又々泣きそうになった。時蔵さんは夫のことは何もかも承知で支えている妻。この菊・時コンビは最強だ‼ 久しぶりにがっぷり組んだ2人を見たような気がした(「四千両」の時はがっぷり感がなかった)。
先述の萬次郎さんもだが、市蔵さんの岩上典蔵も、わずかな時間でその人となりを表現していて、これがベテランの味だなと思った。
そういう意味ではまだベテランとは言わないだろうが、松緑さんのお殿様も真摯な態度で、酒さえ入らなければ本来はちゃんとした人なんだろうということがわかる(この宗五郎との共通点で落しているところが黙阿弥のうまさだと思う)。
左團次さんの家老の大きさはさすが。1月の其角、2月の牢名主、3月の意休、4月の弥陀六、そして今月の瀬戸十左衛門と休みなくご出演でますますのお元気、貴重なキャラだけに嬉しいことだと思った。
<上演時間>「石切梶原」83分(11001223)、幕間30分、「吉野山」48分(12531341)、幕間20分、「宗五郎」77分(14011518

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コメント

「演劇界」の最新号に時蔵さんのインタビューが掲載されていました。
記事を読んでいて今更、気が付きましたが、政岡も玉手もまだなんですね。玉手はむしろ合邦が難しく、その背景に三津五郎の死を上げていました。
確かに菊五郎劇団で三津五郎の不在は時代物の上演では大きいですね・・・
政岡も玉手も菊之助は経験済みなのに年上の時臓がまだと言うのは、ひとえに親を早くに亡くしていることも挙げられるでしょう。もっとも父・四世が早世していなければ、吉右衛門劇団に居た可能性もありますので(結果的にはその後、吉右衛門劇団は解散してしまいますが)、今のように当代が菊五郎劇団で菊五郎の相手役を務めることもなかったかもしれません。
所詮、歴史のイフですけどね。
なにが幸いして災いとなるかはわからないものですけど・・・
慌てず、時が来れば、しっかりと大役を務めて欲しいものです。

投稿: うかれ坊主 | 2017年5月21日 (日) 19時04分

うかれ坊主様
情報ありがとうございます。
そういえば、まだ演劇界を読んでいませんでした。
時蔵さんは美形だし何と言っても品がいいのでもっと大きな役を期待しているのですが、芸風があっさりしているのも影響しているのではないか、と思う部分もあります。もちろん家柄や父親がいないことも大きいのでしょうが。
時蔵さんより梅枝さんの方がいい役がついているかなと思うこともあります。
合邦が難しいというのは興味深いお話です。三津五郎さんの死は歌舞伎界全体はもちろん、時蔵さんにとっても大きなショックだったでしょうね。ファンとしては2人の「喜撰」ももう見られないし…。
何が幸いして何が災いとなるか――そうですね、ほんとうに。
時蔵さんには菊五郎さん、仁左衛門さんの相手役として、また女方の大役を演じられる役者としてもっともっと活躍してほしいです(菊五郎さんと仁左衛門さんとでは違った味わいの空気が流れて、どちらも好きです)。

投稿: SwingingFujisan | 2017年5月21日 (日) 22時29分

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