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2017年6月13日 (火)

六月歌舞伎座夜の部②

611日 六月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)
夜の部の続きを。
「一本刀土俵入」
幸四郎さんの茂兵衛はどうかなと個人的にはちょっと懸念があったけれど、完全にそれは吹っ飛んだ。とてもいい茂兵衛だった。いや、これまで見た中でベストの茂兵衛かも(見るたび、ベストと書いているかもしれないけれど、その時その時で感動するから…)。取的の時は大らかで自然な朴訥さがユーモラスでもあり悲しくもあり。猿弥さんの弥八と川べりでやり合う場面は手のつけられない悪ガキと心やさしい空腹ののっそり坊やみたいで幸四郎さんも猿弥さんも楽しんでいるように見えた。
猿之助さんのお蔦はすさんではいても、捨てていないものがある。前に見た時は後姿に寂しさが隠しきれずに滲んでいたけれど、今回はそれに加えて強さのようなものが感じられた。お蔦は最初に見たのが福助さん、それから芝雀さん、そして今回が3回目となるカメちゃん(2年前の魁春さんは見ていない。前2回の茂兵衛は、勘太郎・中車さん)で、こうなるとやっぱり私にとってのお蔦は猿之助さんなんだよね。
我孫子屋の2階と外でのお蔦と茂兵衛のやりとりを聞いているうちに泣けてきた。ちょっと笑いもあったりしてまだ感動する場面じゃないかもしれなかったけれど、2人の言葉の行間に込められた気持ちがびんびん伝わってきて、泣けてきたのだ。
10
年後。老若船頭(錦吾、巳之助)、船大工(由次郎)の3人がのどかな空気の中に生活感を醸し出していて、場面転換の後の世界に入りやすかった。あんなにのっそりしていた茂兵衛がどっしり立派な(と言うのもおかしいが幸四郎さんの大きさに「立派」と言いたくなる)博徒になっている。暴れん坊の弥八もいっぱしの親分になっている(猿弥さんが10年前も含めてうまい)。一方、あのすさんだお蔦は細々ながらすっかり地道な生活を送り、いい母親になっている。利根の渡しで子守女に背負われていた赤ん坊が母親のお手伝いをする少女になっている。茂兵衛の変化よりもお蔦の変化よりも、私はお君の成長に10年の日々が経ったことを痛感した。子守女が背中の子はお蔦が生んだ父なし子だと茂兵衛に答えたあの場面の茂兵衛が鮮明に思い出されたから。
「思い出したっ」は、今回はお蔦の家の門口で茂兵衛が相手を頭突きした時。この頭突きは見るたびタイミングが違うような気がする。

辰三郎(松緑)が登場してからは、何回も見て経過も結末も知っているのに、ハラハラドキドキ。手に汗握って親子の幸を願いながらのめりこんで芝居の世界に入っていた。松緑さんは何となくお父さん(辰之助)を思い出させた。辰之助さんはこれまで何回も触れているように、テレビで見た暗闇の丑松しか知らないのだが、あの何とも言えない闇の部分が似てきたのかもしれない。
お君の右近ちゃんがかわいい。大きな声で上手に歌ったし、恋しいおとうちゃんから離れたくないいじらしさ、ヤクザに対する怖さはあるけどいざとなったら相手に噛みつくかもしれないこの子というような強さみたいなものも感じた。
元々話としてもいい芝居であり、さらに幸四郎さん、松緑さん、猿之助さんという新鮮な顔合わせで、終演時刻は遅くても見逃せない、途中で席を立てない舞台だ。
<上演時間>「鎌倉三代記」80分(16301750)、幕間30分、「御所五郎蔵」75分(18201935)、幕間15分、「一本刀土俵入」85分(19502115


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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

「幸四郎茂兵衛」わたしも良かったと思います。
取手の宿での望郷の思いが自らの役者人生の回顧と重なるようでした。「幸四郎歌舞伎」の集大成のように感じましたね。

原作にはないのですが、弥八が親分になったあとを出して、力士あがりの大男を怖がるところを追加しています。
前回の「幸四郎茂兵衛」公演からですね。このスケッチ。
全くの創作でなく長谷川伸のプランに当初あってカットされた場面なのかもしれません。短い場面ですが面白いですよね。

「情けはひとの為ならず」
恩を受けた茂兵衛が鳥屋の前まで叮嚀なお礼をしますが、10年後、今度はお蔦が同じように叮嚀なお礼を同じ位置で行う演出の妙もあります。

気になるのはお君が10年経っても幼い点ですかね・・・
これは芝居の嘘なのでしょうけど。
あのくらいの歳ばえで演じた方が哀れさが出て良いのでしょう。
実際に子役を使って演じるとなるとあーなってしまうと思いますが。
忠実に年齢を10~11歳としてしまうと歌舞伎では中途半端な年齢となってしまい配役なり演技が難しくなると思いますし。あまり難しいことは言わない方が良いのかもしれませんね。

千壽の子守娘が好演でしたね。
あと、根吉と辰三郎は逆の配役で観たい気がしました。松也は顔に傷を入れて凄みを出そうしていましたが、やはりこの人は辰三郎に相応しいと思います。
お松は笑三郎でしたが、これまで小山三や歌江など脇の役だけにやや違和感を持ちました。今なら幸雀さんあたりのお役かと思いますが・・・

「頭付き」で思い出す場面はいつ観ても泣けますね・・・
「突っ張り」をする演出もありますが、やはり最初で頭付きをしていてそれをお蔦が見ているので、数段優れていると思います。

投稿: うかれ坊主 | 2017年6月14日 (水) 00時31分

うかれ坊主様
コメントありがとうございます。
これまでの茂兵衛もそれぞれよかったのですが、幸四郎さんには年齢による味わいもあり、望郷の思い(いつも泣けるのですが)はおっしゃるとおり役者人生を回顧するようなところがありましたね。

力士上がりの大男、千蔵さんが体を活かして、あの場面にちょっとした笑いを起こして面白かったです。

私の席からは鳥屋は見えませんが、いつまでもありがとうと叫ぶ声からその姿を想像してうるうるしていました。2人の「ありがとうございます」は、本当によくできていますよね。

昔の10歳はもっと大人びていたのでしょうね。私は右近クンのお君の強さみたいなところにお君の成長を感じて、年齢と幼さとのギャップには気が付きませんでした。

松也さんは8年前の浅草で辰三郎をやっていましたね。自分の感想を遡って読んでみると、なかなかよかったようです。たしかに根吉はちょっと無理をしているような部分があったようにも思いますが、色々勉強になるのではないでしょうか。
笑三郎さんがお松という配役には私もびっくりしました。猿之助さんのお蔦では段之さんがやっていたので今回もそうかと思っていましたから(前回歌舞伎座では小山三さんだったんですねえ。恐らく最後の舞台だったと思うので、パスしてしまったのが本当に悔やまれます)。

頭突き――同感です‼

投稿: SwingingFujisan | 2017年6月14日 (水) 15時10分

6月4日に通しで観てきました。幸四郎丈が聞き取り易くとても良かったです。今日15日は岩波ホールでアンジェイワイダ監督の残像、国立劇場で日本舞踊染五郎丈、尾上紫さん、尾上京さんなどです。7月の歌舞伎観賞会のチケットが取れてホッとしました。1日遅れたらネットでは売り切れでしたから。7月1日から14日までBunnkamuraル.シネマでアランドロン出演映画山猫、地下室のメロディー、冒険者たちは、太陽が知っている、リスボン特急、スワンの恋が上映です。

投稿: カトウ | 2017年6月15日 (木) 20時12分

カトウ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
通しのご観劇、お疲れ様でした。どちらも上演時間が長くて大変でしたでしょう。
幸四郎さんのセリフはこれまで私としては聞き取りづらいことが多かったのですが、今月は聞き取りやすかったですね。やはりセリフがわかるとこちらがお芝居に入り込む度合、感動も違いますよね。

染丈の未来座、とても見たかったのですが(NHK「ごごナマ」をちょっとだけ見ました)、日程が合わず断念、とても残念です(私は大劇場におりました。ニアミスですね)。

ル・シネマ、おお、いい映画をやるんですね。「冒険者たち」「リスボン特急」「スワンの恋」、昔見ました。教えてくださってありがとうございます。できたら昔を懐かしみつつ、どれか1本でも(やっぱり「冒険者たち」かな)見たいです‼

投稿: SwingingFujisan | 2017年6月15日 (木) 22時05分

こんばんは。
今月の歌舞伎座 早い時期に昼夜ともに見たのですが、fujisanさんの感想(特に幸四郎の茂兵衛)お待ちしていました。数年前の幸四郎の同役、私的に絶賛しただけにどのように思われるか、チョット心配でした。幸四郎、声が震えるとか、理知的すぎるとかいろいろいわれますが、やはり書き物は抜群のうまさだと思います。むつかしい演技の話はさておき、とにかくカッコいいですね。長谷川伸はこうでなくては。但し、私的には前回のほうが、もっと泣けました。その時の役者の体調でしょうか。25回興行となると、その日によって出来不出来があるのはfujisanさんよくご存じのとおりです。猿之助、突っ込みすぎる演技の癖がきになりました。もう少し、受けに回ったほうがいいのかとも。あと、笑三郎、もったいない使い方で、贔屓の人だけに残念です。
 後の演目では、猿之助の舞踊、仁左衛門の五郎蔵がやっぱりよかったですね。

投稿: レオン・パパ | 2017年6月16日 (金) 21時11分

レオン・パパ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
リピートしなくなってから観劇日が遅くなり、感想をお待たせしてすみません。
幸四郎さんの茂兵衛、レオン・パパ様のおっしゃる通りでした。しがない取的の時がちょっと心配だったのですが、過剰にならず自然な感じで、こちらも素直に受け入れられました。そして10年後のかっこよかったこと。安心感、大きさも抜群でした。

役者さんの体調が日によって違うのはわかります。自分の状態を考えても、毎日同じように健康でいることがどれだけ大変か。役者さんはとくに健康管理には気を遣っているでしょうが、いい時もいま一つという時もありますよね。
猿之助さんのお蔦は私は好きですが、そうおっしゃるお気持もわからないではありません。笑三郎さんはたしかに…。澤瀉屋の女方の配役、ちょっと難しいですかねえ。

昼の部はまだ先ですが、「浮世風呂」が楽しみです。

投稿: SwingingFujisan | 2017年6月16日 (金) 21時56分

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