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2017年6月19日 (月)

スーパー新派誕生:「黒蜥蜴」

617日 六月花形新派公演「黒蜥蜴」(三越劇場)
「黒蜥蜴」はまったく初めて。原作も三島戯曲もお芝居も。というわけで、比較の対象は何もない。全体に乱歩は原作を読んでいないし、テレビでは比較的最近ちょこちょこ見たけど、芝居は歌舞伎の「人間豹」だけ。

劇場内の装飾といい、雰囲気といい、規模といい、三越劇場はまさにこの作品にぴったり。劇場そのものがこの物語の舞台となっていると言ってもいい。そして出演者も黒蜥蜴に雪之丞さんを得たことで妖艶で奇怪な世界が目の前に展開し、明智との成り行きもどうなるのかと、とても面白かった。一寸法師、怪人二十面相、人間椅子といった乱歩の他の作品との絡みもある。
これが新派か、と驚くような芝居ではあるけれど、新派のもつしっとりとした情緒は失っていない。これは「新派の黒蜥蜴」なんだ。スーパー歌舞伎ならぬスーパー新派、緑郎・雪之丞によって新しいジャンルが開けたのかもしれない。
第一部はちょっと眠くなった瞬間があったが、第二部はスピーディーな展開で、なんとだんまり(!)があったり、「ヤマトタケル」の火の踊りを思わせるような緑郎さんのパフォーマンスがあったり(やっぱり歌舞伎でも段治郎さん、見たいよ)、派手な立ち回りで飽きさせない。もちろん、そういうアクションばかりでなく、黒蜥蜴と明智の心理戦、そして「あらっ」という展開にわくわくした。
雪之丞さんは冷酷で気位高く美しく、堂々たる女盗賊ぶり。しかし明智に寄せる心に黒蜥蜴の寂しさ、満たされなさがあらわれているようだった。本当はどこかで<女>になりたかったかもしれないが、<女>には戻れない宿命のようなものにラスト、哀れを感じた。黒蜥蜴は雪之丞さんの持ち役になるだろう。明智と2人で踊るタンゴになぜか笑いが起きちゃったのは、タンゴというダンスの特徴に思わず笑ったんだと思う。
緑郎さんの明智はスマート、カッコいい。冷徹な中に熱い血がたぎっている。それは悪への怒りであり、それでいて悪の張本人への愛であり、明智にはこういう面もあるのか、それも含めて明智は緑郎さんにぴったりだわと思った。緑郎明智の活躍を他の作品でも見てみたい。

黒蜥蜴の忠実な僕、雨宮潤一は劇団EXILEの秋山真太郎さん。EXILE系に関心ないので初めて知った。黒蜥蜴に魅入られ催眠状態にある人間のようでもあり、どこまでもご主人さま第一のサイボーグのようでもあり。でも、明智に対して激しい嫉妬を燃やすところにナマの感情が見えて、ちょっと安心しつつこの男も哀れだなと思った。本人はマダムに尽くせて幸せかもしれないが、客観的には一番気の毒に感じられた。いい配役だと思う。
早苗役の春本由香さんはお嬢様が似合う。舞台度胸がよく、声がきれいで発声もはっきりしていて気持ちがいい。顔はやっぱり松也さんに似ている。
早苗の父・岩瀬庄兵衛の田口守さんは、成金らしさと娘可愛さで、その人間性をうまく作り上げていた(ちなみに、早苗の母親役の小川絵莉さん、もみちゃんかと思った)。
女中・春の伊藤みどりさんがうまい‼ ネタバレするのでこれしか書けないが、うまい。
片桐刑事の永島敏行さんは3年前の納涼公演以来の新派二度目。原作にはないという片桐刑事はもうほとんど銭形警部で、狂言回し的な役目も負っている。幕開きで登場し、「開通したばかりの銀座線で三越劇場によく来ましたね(云々)」で客席の笑いを取り、事件の発端について説明すると、舞台は退廃的で乱痴気騒ぎの仮面舞踏会へと変わる。「黒蜥蜴」の妖しい世界の始まりだ。
個人的には一寸法師の喜多村一郎さん(猿琉改め)、紅子の河合宥季さん(猿珠改め)に注目。2人とも個性を活かして大活躍だった。
カーテンコールは4回‼ 客席の熱気がわかるでしょう。
<上演時間>第一幕55分(15001555)、幕間25分、第二幕90分(16201750


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コメント

河合宥季はわたしも見惚れてました。
貴重な新派の女形として、雪之丞とともに宥季を大きな名にしてほしいですね。

「黒蜥蜴」はこれまでに「松坂版」「麻実版」を観ているのですが、今回は一番良いと思います。明智小五郎を狂言回しにしたり、京劇風のタテを入れたりして、良い娯楽作品になっていました。

伊藤みどりさんはファンなので最初の出で大きな拍手をひとりでしました(ちょっと恥ずかしかったかな)。

大向こうの弥生会の山本誠会長がおいでだったので、タイミングよく声がかかり、いい気分で観ることができました。
山本さんは、そのあと演舞場の熱海五郎一座でもおもかけしました。
一日お芝居でご一緒したことになりますね。

(追伸)ポスターの喜多村緑郎は俳優の谷原章介そっくりでしたね。


投稿: うかれ坊主 | 2017年6月20日 (火) 16時48分

うかれ坊主様
こんばんは。
これまでご覧になった中で一番よかったというご意見、私はではいいものを見たんだなと嬉しくなりました。
河合宥季さんは猿珠時代にきれいな人だなと思ったことがありました。新派でも違和感なく、キレッキレでした。今後が楽しみです。
伊藤みどりさん、こんな役もいいですね~。かなり興味深い存在でした。

熱海五郎も同じ日にご覧になったのですね。はしごで大向こうの会長さんとご一緒だったとはびっくりです。
熱海五郎は例年通り千穐楽に見る予定です。

緑郎さんと谷原さん、そうですか…? お顔の系統は同じかもしれません。

投稿: SwingingFujisan | 2017年6月20日 (火) 21時56分

そうですか・・・「谷原章介そっくり説」は結構自信あったのですけどね。

今回良かったのは、SwingingFujisanさんも指摘していたように劇場の雰囲気が合っていたことに加えて、さらに追加すれば、黒蜥蜴役が女形であったので妖気性、伝奇性が増したことと、トリックを見せるにはこうした狭い空間の方が合っていることもあったかと思います。

新派のベテラン女優さんでは伊藤さんの他に青柳喜伊子さんが良いですよね!

投稿: うかれ坊主 | 2017年6月21日 (水) 23時12分

うかれ坊主様
谷原さんのことはすみません。「似ている」ことに関する人間の感覚は様々なようで、テレビで見ていても「え~bearing」ということあり、逆に「そっくり」ということもあり、です。私もず~っと前にブログにある人とある人が似ていると書いたらモーレツに反対意見をもらってしまいましたcoldsweats01

黒蜥蜴役は確かに女方のほうがいいだろうなと思います。美輪さんも玉三郎さんも見ていないので、私にとっては雪之丞さんがスタンダードになります。
劇場の雰囲気はぴったりでしたね。

はい、青柳さんもいいですね。新派も歌舞伎同様、年月と役者さんの味わいは比例するように思いました。

投稿: SwingingFujisan | 2017年6月22日 (木) 10時36分

わたしも気を付けます!
でもあのポスターだけ見れば、だれでもあっと感じると思います。
決してご本人同士が似ていると言っているわけでもないんですよ(すこしシツコイですね)

青柳喜伊子さんの場合はお父さんが歌舞伎役者でお母さんが新派の女優ですから、二代目八重子さんや春本由香さんと一緒ですね。

投稿: うかれ坊主 | 2017年6月22日 (木) 13時00分

うかれ坊主様
いやいや、過去のことを考えると、私の感覚がおかしいんだと思います。それに、だんだん、あの写真の緑郎さんが谷原さんに見えてきましたよcoldsweats01

青柳さん、そうだったのですか。新派のHPにはおじいさんも歌舞伎役者だったと書いてありました。ほんと、八重子さん(最近、ついつい水谷千重子の方を思い浮かべてしまいます)、春本由香さんと一緒ですね。歌舞伎と新派はつながりが深いんですね。

投稿: SwingingFujisan | 2017年6月22日 (木) 16時44分

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