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2017年11月27日 (月)

坂崎出羽と沓掛時次郎

1118日 「坂崎出羽守」「沓掛時次郎」(国立劇場大劇場)
いつも通り半蔵門のサンクスでお茶を買おうと思ったら、なんとサンクスがなくなっていた。サークルK・サンクス全店がいずれファミマに変わることは知っていたが、ここは今だったか。
劇場では先月と違って空席が目立つという情報をいただいていたので心配したが、この日は団体が入っていたせいか、少なくとも3階はけっこう入っていた。
「坂崎出羽守」

第一幕:茶臼山家康本陣
緊迫の幕開きのせいか、開幕時の拍手はなし。松緑さんの登場でやっと少し拍手が起きた。千姫を心配する家康(梅玉)に、淀君が千姫を離さないと南部左門(松江)が報告する場面、先月歌舞伎座の玉三郎さんの淀君を思い出した。先月は落城する大坂城を内部から、今月は攻める側から見ているのだと、心の中で2つの作品がつながった。
梅玉さんは珍しい老け役だが、存在感はさすがに大きい。
権十郎さん(本多正純)の顔が新・彦三郎さんと似ている、と初めて(じゃないかもしれない)思った。
第二幕:宮の渡し船中
すでに千姫は救出されており、坂崎出羽守が駿府へ送り届ける船上。出羽は顔に火傷を負っている。一方の本多平八郎忠刻(坂東亀蔵)は爽やかな二枚目だ。出羽には火傷の負い目もあったかもしれないが、それ以上に性格的な問題というのか、心の闇がありそう。本多平八郎との比較でもそれが浮かび上がる。出羽にはセリフのない時間も多く、松緑さんが心理だけで見せる。松緑さんは私が歌舞伎を見始めた頃は竹を割ったようなという表現がぴったりの、いかにも江戸っ子な役が合う役者さんだったが、いつの頃からか陰影のある役にもニンを示すようになったと思う。
松川源六郎の歌昇さんは先月に続き忠実な家来役。こういう真っ直ぐな役が歌昇さんには似合う。源六郎が後に出羽の不興を買うのはまっすぐ過ぎた故だが、その哀れさもうまく表現していたと思う。
三宅惣兵衛は最初だれかと思った。いただいたコメントを思い出し、ああ橘太郎さんか、と。橘太郎さんは、本当に役になりきるのがうまい。
梅玉さんの老け役が珍しければ、梅丸クンの太鼓持ち的茶坊主も珍しい。菊市郎さんとのコンビでちょっとしたアクセントになっていた(梅丸クン、可愛い!)。

第三幕:駿府城内茶座敷、同表座敷の一室
出羽が来たと聞いて複雑な表情を浮かべる千姫(梅枝)だが、彼女が出羽を嫌うのは容姿のせいではない。第二幕がその伏線になっている。千姫が家康に船中での出羽のダメな点を並べあげると、客席から笑いが起きた。千姫の言い分(私はおじいさまの道具に過ぎない、というようなこと)は当時の女性がみんな思っていたとしても、はっきり言えるのが現代的だ。「恩人の妻にならなくてはいけないなら女は体がいくつあってもたりない」という千姫の言葉にも笑いが起きた。そう言って祖父を困らせる千姫は我儘どころか共感を覚えるし、可愛いと思った(現代的観点からするとね)。自分と同じように利用された出羽をかわいそうと言い、嫁にいってもいいような素振りを見せるのもちょっと面白い。
出羽との約束を果たそうにも、孫娘に頑なに拒否され、泣かれ、うろたえる家康には狸おやじのイメージはなく、ただ孫娘が可愛くて仕方ない好々爺にしか見えないのが微笑ましかった。
第四幕:牛込坂崎江戸邸内成正の居間
出羽の源六郎に対する怒りの凄まじさに驚いた。松緑さんはセリフのない間、体勢を変えず、緊張感をみなぎらせていた。そのせいか、こちらが少し疲れてしまった。つらい物語だったけれど、最後に源六郎のことを思ってくれたので救われた。
「沓掛時次郎」
全体として展開がブツブツ切れる印象はあったものの、博徒ものながら梅玉・魁春コンビでしっとりした情感が漂い、長谷川伸の世界を十二分に味わわせてもらった。
松緑さんが(六ッ田三蔵)がさっきの坂崎出羽守から180度転換して忠義の博徒を好演。坂崎出羽でもそうだったが、独特のセリフ回しがかなり消えていて、自然と芝居の流れに入っていけた(あのセリフ回し、場合によっては嫌いじゃないんだけど)。三蔵と女房おきぬ(魁春)、倅太郎吉(左近)が逃げようとする場面は「一本刀土俵入」を思わせた。松緑さんと魁春さんの夫婦に違和感はなかった。
松緑さんがカッコよかっただけに、夫を斬った男に惹かれていく女の気持ちにはその男がよほど魅力的でないとついていけないものだが、梅玉さんにはその魅力が十二分にあった。博徒も梅玉さんのこれまでの役からは考えられなかったけれど、包容力と梅玉さんの柔らかさの中にある豪胆な部分がとても素敵だった。魁春さんも博徒の妻としての強さと女の愛らしさを見せて、やはり魅力的な女性だった。おきぬの死は容態の変化で暗示されるが、場面転換後に香華が供えられていることではっきりわかる。死の場面を直接描くより、哀れさ、悲しみが強いような気がした。
左近クンが大きくなっていてびっくり(御曹司たち、成長が早い)。相次いで両親に死なれるが、地にしっかり足をつけ、人を見る目の出来ている子供のいじらしさを見事に表現していた。
歌女之丞さんと橘太郎さんの老夫婦が<らしく>て、かつ安心の温かさ。3人の関係をちゃんとわかって助けてくれる姿にうるうるした。歌女之丞さんは肚も据わっていた。
坂東亀蔵さんと松江さんがちょっとコミカルなチンピラヤクザで、しつこく時次郎を追いかけてくるが、最後は時次郎の、そして子供ながら太郎吉の人間の出来に参った感じなのが小気味よい。
楽善さんは、さすがに、わずかな出番で舞台をぐっと引き締めた。いいところでちょっとセリフがつっかえたが、それが芝居の邪魔にならない大きさがあった。
三蔵、おきぬとはかない命だったが、博徒の足を洗いお百姓になる決意をした時次郎が太郎吉としっかり人生を歩んでいくのだろうと思うと、後味の良い、温かい気持ちで帰路につけた。
<上演時間>「坂崎出羽守」第一幕・第二幕50分(12001250)、幕間35分、第三幕・第四幕80分(13251445)、幕間25分、「沓掛時次郎」75


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コメント

「坂崎出羽守」
第二幕:宮の渡し船中の幕切れは有名な場面で、初演の六代目菊五郎が原作の指定を変えたところですね。居たたまれず過ぎ去るという演出に変えたわけです。そうかこういう感じだったんだと観ながら思いました。
第四幕:牛込坂崎江戸邸内成正の居間が観応えありましたね!血書を携えてくる歌昇がまた良かったです!あそこは出羽守の分身なんでしょうね。
「沓掛時次郎」
十五代目の時次郎がプログラムにありましたが、素敵でした。梅玉丈も同じ仁ですのでぴったりでした。もう少し若い時分に手掛けても良かったかもしれませんね。
確かに暗転が多過ぎました。最後の暗転は時次郎が出ていないので舞台を廻しても良かったと思いました。
プログラムの「思い出の舞台」で喜の字(現玉三郎)と孝夫(現仁左衛門)の太郎吉が可愛く揃って紹介されているのが微笑ましかったです!
橘太郎丈が2作品ともに好演で、得難い役者になってきましたね。嬉しい限りです。
あと楽善丈が流石の貫録で、これまた大切にしたい役者さんだと思います。ハイ。

投稿: うかれ坊主 | 2017年12月 2日 (土) 14時44分

うかれ坊主様
こんにちは。コメントありがとうございます。

第二幕で居たたまれず立ち去る場面は六代目菊五郎のアイディアだったんですね。あの心理はわかる気がします。
第四幕は松緑さんの気魄が凄かったです。松緑・歌昇のぶつかり合いには呑まれました。「明君行状記」「御浜御殿」「将軍江戸を去る」など、2人が対峙する芝居はこちらの緊張度も上がります。

プログラムはよく見ている余裕がなかったので、早速見てみました。十五代目、確かにステキです!! 私はまだ歌舞伎にはまる前に、竹田真砂子さんの「十五世羽左衛門」という小説で知ったのですが、その時代にタイムスリップして十五世の芝居を見たいと思いました。
喜の字、孝夫のお2人、可愛いですね。あんな時代があったんだなぁ。
楽善さん、橘太郎さん、同感です。

投稿: SwingingFujisan | 2017年12月 2日 (土) 16時25分

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