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2017年11月 7日 (火)

顔見世歌舞伎昼の部

116日 吉例顔見世大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)
自分では別の日にいつもの3階席を取っていたのだが、たまたま2階席のチケットをくださる方がいて、ありがたく観劇してきた。演目・配役が発表になった時には演目の方に注意がいって、重いなあという感想だったのだが、よくよく考えれば(考えなくても)今月はいかにも顔見世らしい大看板揃い。藤十郎、菊五郎、吉右衛門、仁左衛門、東蔵と人間国宝が5人も揃っているんじゃない、と今さらながらすごいと思った。相変わらず眠い日々で、各演目少しずつ(少しずつ、ね)寝落ちしてしまったが…。それに、同行者とオペラグラスを分け合ったので、よく見えなかった部分もあり、感想はとりあえず簡単に。
「鯉つかみ」
そういう中で、染五郎さん、児太郎クン、廣太郎クンと若手中心の演目だった。それに、染五郎さん、最後の舞台になるんだとあらためて気がついた。
演目自体は過去に2回見ているのだけど、今回は明治座の大詰から始まるため、物語としてはちょっとわかりにくいかも。とくに、本物の志賀之助が登場してからの進行がいまひとつはっきりしないように思えた。その辺はある意味歌舞伎らしいとも言えるかもしれないけれど、見ている側としてはもどかしい。再見の際に、確認したい。
開演時刻になると場内真っ暗になり、幻想的な蛍夜の舞踊が始まるが、この場面はすっかり忘れていた。舞踊劇かと思うほど、所作の時間が長かった印象だが(途中で眠くなった)、後半、染五郎さんの早替り、舞台上での宙乗り、本水を使った鯉との立ち回りと、これが朝一番の演目か、とちょっとびっくり。早替りでは、吹替えの役者さんの顔がはっきり見えたが、どなたかはわからなかった。鯉には足があったけど、明治座でもそうだったかしら…。

「奥州安達原」
吉右衛門さんが出てきた途端に舞台が狭く感じられた。赤旗を振るあたりはちょっともたつきがあったが、最後のわずか2030分(?)ほどで私の心を全部もっていくその大きさ、かっこよさ。妻子を抱き寄せた男の涙にやられた。初めて見た(はず)吉右衛門さんの貞任だが、今、貞任は吉右衛門さんを措いて他にいない、と断言したくなるような魅力だ(これまでに見たのは亀治郎さんと勘太郎さんだけだから大きなことは言えないが。亀治郎さんと勘太郎さんもそれぞれ感動したのだけど、やはり大きさという点でかなわないのは仕方ないだろう。いずれ、この2人も大きな貞任になるに違いないと期待している)。
錦之助さんの義家、先月の源之丞もニンだったが、義家もそうだと思う。そのうち義経を見てみたいという気持ちになった。又五郎さんの力強い宗任、歌六さんの直方の苦悩、東蔵さんの浜夕の妻としての立場と母心、みんな胸に沁みた。
雀右衛門さんは先月の国立でもちょっとおや?と思ったが、これまでのくどいほどの細やかさ(そこが他の女方にはみられない雀右衛門さんの良さだった)が少し薄れているような気がした。

子役ちゃんが可愛くて泣かされた。自分の着物を脱いで母親に着せる場面ではいじらしさに涙ぼろぼろ。ただ、やっぱり女の物語より男の物語になってからのほうがこの芝居は面白いのは、吉右衛門さんが全部もっていったからか。
「雪暮夜入谷畦道」
菊五郎・時蔵の鉄板コンビはやっぱり鉄板だった。
蕎麦屋の店先。客の捕り手が帰ると、この雪だからもう誰も来ないだろう、火を落そうかなどと話している夫婦が家橘さんと齊入さんという豪華さ‼ 蕎麦屋の主人と言えば、未だに権一さんを思うが、亡くなってからもう6年以上が経つのか…。家橘さんと齊入さんは自然ににじみ出る生活感がさすがで、地道なあたたかさが感じられた。
火を落されちゃ、直侍も丈賀さんも蕎麦を食べられなくなるので、直さん早く来ればいいのに、とハラハラさせられた。やっと店に入ってまずは股火鉢、そして蕎麦と酒を注文する、猪口に入った灰の取る、酒をもっと熱くしてくれと頼む、蕎麦をすする、筆が悪いため爪楊枝で書くなど、菊五郎さんの自然な粋が全開。カッコよくてスッとする。
丈賀さんは先ほど浜夕を演じていた東蔵さん。こちらも田之助さんを思うが、去年の初春歌舞伎座でも東蔵さんが演じていたから、この役は東蔵さんに受け継がれたのだろう。いかにも蕎麦好きで人の好い、野暮ったい按摩を演じる東蔵さんの芸の幅の広さよ。
菊・時コンビが鉄板と書いたが、菊五郎劇団で暗闇の丑松といったらやはり團蔵さんが鉄板。直侍を裏切る薄暗い感じがいい。
大口寮はまあ、直さんと三千歳の色模様だけなんだけど、この2人に漂う空気はやっぱり独特。でも夫婦としての濃密さとは明らかに違う。そこが役者のうまさなんだろうなあ。
全体に緊張感が漂い、成り行きを知っていても、「早く、逃げて」とこちらの心が焦る。せっかく寮番が2人で逃げるよう勧めているのに、ごちゃごちゃやってるからぁ。
タイムテーブルを見た時はぎぇ~っと思ったが、面白かったので、案外長さは感じなかった。2分ほど早く終わったし。でも、5時間近くは物理的にやっぱり長い。
<上演時間>「鯉つかみ」74分(11001214)、幕間35分、「奥州安達原」87分(12491416)、幕間25分、「直侍」64分(14411545

追記:11月25日再見
「奥州安達原」についてのみですが。
・袖萩が三味線を弾いている間、袖萩の左側にいるおきみは茣蓙からははずれて座っていて可哀想だった。
・おきみが自分の着物を袖萩にかける場面、泣けて仕方がなかった。
・雀右衛門さんはこの日はいつもの細やかさが戻ってきていた。だからとてもよかった。
・吉右衛門さんは武将の顔、夫の顔、父親の顔と、変化していくのがよかった。
・東蔵さんのばば様の心情が痛いほどわかって泣けた。自然に祖母になっている東蔵さん、うまい。

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

わたしは5日に昼夜で観ました
安倍トランプ会食の日で終日物々しい警備の中の観劇でした


昼の部は、まず鯉つかみで開幕ですが染五郎最後の出し物としては季節外れでどうなのかという疑問は残りましたね
狂言立てが「夏→冬→冬」で季節がおさまり悪いように思いました

操り三番叟あたりで開幕してほしかったなぁ
その時間を「袖萩祭文」に配分してほしいです
貞任の出の唐突感は否めず、吉右衛門の貞任もその点若干損をしていますよね
「敷妙上使」「矢の根」から上演したいと思いました
松竹ではちょっと難しいのかもしれませんけどね
直方を切腹させたのも貞任の企みという点が不鮮明ですし・・・
いつもの一座で実力者揃いですが中でも初役の雀右衛門の袖萩が傑出してました!
「この垣一つがくろがねの」でほろっと来ましたよ!

「直侍」では直次郎の菊五郎が蕎麦屋で丈賀と知ってほっとする処や雪道の歩み一つ取ってもまさに生世話のお手本でした
時蔵の三千歳も直次郎を見つめる眼差しが印象的でこのコンビは本当に良いですよね
團蔵の丑松の暗さ、秀調の喜兵衛の実直さそれぞれ底光りする藝ですし、家橘・齊入の蕎麦屋夫婦も見逃がせません!
権一さんの名が出てきてとてもとても嬉しかったです

(長くなるので夜の部の感想は観られたあとにしますね)

投稿: うかれ坊主 | 2017年11月 8日 (水) 08時42分

うかれ坊主様
こんばんは。コメントありがとうございます。
昼夜でご覧になられたとのこと、すごいですね。私は昼の部だけでエネルギーを使い果たしました。

「鯉つかみ」だけ夏の狂言なのは確かにちょっと…ですが、染五郎さんとしてはラスベガスでも好評だったので、歌舞伎座にかけたかったのかもしれません。鯉つかみは歌舞伎座初ですよね?

「袖萩祭文」は現行上演がこういう形なのでしょうがないですよね。何度か見ているせいか、唐突感にも慣れてしまいました(宗任も、義家も、桂中納言も、みんな突然出てきますね)。
雀右衛門さんはこれまでの雀右衛門さんよりほんの少しあっさりしているような気がしました。でも、本当に母であり娘でもある袖萩そのものに見えました。

「直侍」では、丑松がキーパーソンなんだなと改めて思いました。蕎麦屋夫婦、丈賀も存在感ずっしりでした。権一さん、懐かしいですね。

投稿: SwingingFujisan | 2017年11月 8日 (水) 22時53分

Fujisan様
おはようございます。私は歌舞伎座 昼はまだですが。今週は、国立劇場行ってきました。土曜日なのに、結構空席が目立ちました。両演目とも、初見ですが、なかなか充実していました。特に松緑の熱演(確かにセリフの癖がだいぶ改善されています)、梅玉の味わいのある演技が結構でした。大幹部だらけの芝居もいいのですが、このくらいの座組も、それぞれ(特に楽善、左団次)、しどころが十分あるようで見ごたえがありました。他では、橘太郎の家老役、とてもいいです。この優、器用にいろいろ(特に半道敵役)やりますが、このような、真面目な初老の武家の役も、しっくりあっていました。腕があるのですね。

投稿: レオン・パパ | 2017年11月12日 (日) 09時05分

レオン・パパ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
国立劇場は私はこれからですが、先月の入りとはだいぶ違うんですね。演目もよさそうですし、役者さんもいいと思うのでちょっと残念です。
橘太郎さんは、いつもすぐその世界に連れて行ってくれる役者さんで、大好きです。コミカルな役も真面目な役も上手ですよね(だいぶ前になりますが「天保遊侠録」のこまめに働く世話役、「彦市ばなし」の天狗の子がとくに印象に残っています)。国立、楽しみです。

今日は歌舞伎座夜の部を見てきました。まだ多忙でなかなか感想が欠けませんが、先日レオン・パパ様がコメントでおっしゃっていた「理屈っぽい演技、観客よりもまず自分が先に感極まるといった幸四郎の演技術が、ここではさほどマイナスに働かないようなきがして」ということがよくわかりました。ただ、私は「御浜御殿」のほうが好きかな、と思います(あくまで好みの問題で…)。

投稿: SwingingFujisan | 2017年11月12日 (日) 22時54分

Fujisan様
今晩は。今日は歌舞伎座昼の部観てきました。夜の部よりは、「鯉つかみ」が所作事風でもあり、「直侍」が清元ありで、夜の部よりも歌舞伎らしい華やかさがあってよかったです。ただ、季節感、順番がどうにもおかしいですよね。この類の話は、随分以前からあって、大幹部の顔をたてざるをえない幕内の事情によるものでしょう。
「安達ケ原三段目」吉右衛門が出てくるとバシッと締まりますね。但し、赤旗の振出が今一つ決まらず、刀も投げませんでした。年齢ゆえですか。雀右衛門、少し薄味ですか。もともと行儀のよい芸風の優なので、もっと突っ込んでやってもいいと思います。
「直侍」極上の世話物の味わいでした。出ている役者さんが皆大変結構でした。菊五郎の相手役としては、時蔵が最適なのでしょうが、私の見たい三千歳は、やはり玉三郎です。玉三郎のことだから直侍は、海老蔵あたりが実現可能性があるのでしょうか。

投稿: レオン・パパ | 2017年11月19日 (日) 19時05分

レオン・パパ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
「鯉つかみ」は11月の演目としてはちょっと、というところですし、ここのところの気温を考えるとね~。もっとも劇場内は外気温と関係ありませんが。
顔見世はやはり夜の部の重さが大きいですね(夜の部はもう見たのですが、感想が遅れています)。

吉右衛門さんの貞任にはぐっと心を摑まれました。やはり、赤旗は決まりませんでしたか。刀を投げたかどうかは私が見た時はどうでしたでしょう、よく覚えていませんが、投げたら記憶に残りそうなので投げなかったのかもしれません。雀右衛門さんは私もちょっと薄味に感じました。

玉三郎さんの三千歳、多分見たことがありません。あまり演じていらっしゃらないのでしょうか。直侍に仁左様というのは無理かしら。

投稿: SwingingFujisan | 2017年11月19日 (日) 22時34分

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