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2019年6月 9日 (日)

六月歌舞伎座夜の部:「月光露針路日本」

6月4日 六月大歌舞伎夜の部「月光露針路日本」(歌舞伎座)
見られるかどうか心配だったけれど、無事全部見ることができた。
定式幕が引かれると、荒海の浪布と背景。この時点で「ただいまのお時間から写真撮影はお控えください」(だったかな)の注意が入る。そうか、もう舞台だもの。
まだ始まったばかりなのでネタバレしないように、知られていることを中心に簡単な感想を。
望郷の思いを断たれ船上あるいは遥か極北の地で命を落とした人々。三谷さんらしく笑いをちりばめてはあるが、その姿はあまりに悲しく、心から笑うことはできなかった。東西の船乗りたちを苦しめた壊血病――神昌丸の乗組員たちにもその概念はなかったから、亡くなって行く人たちはもちろん、助けることもできずにただ見送ることしかできなかった人たちの心もどんなにかつらかったことだろう。幸いにも壊血病にかからなかった人たちはDNAスイッチがオンになっていたのだろうか(またまたNHKだが「シリーズ人体Ⅱ 遺伝子」)。
光太夫の帰国、ロシアに残る人たちとの別れは胸に迫った。発つ人には寂しさ以上に希望が満ちているが、残る者の寂しさは…それをこらえて笑顔で送り出す。そんな経験を私も何度かしてきた。しかし私の経験は彼らの別れとは比べ物にもならない。彼らは故国を諦めた人たちなのだ。帰る人も帰らぬ人も心は血を流していたに違いない(庄蔵の叫びが耳から離れない)。
東洋文庫の「ロマノフ王朝展」に光太夫一行の漂流記が出ていたが、もう一度見たい‼ この本、自分の記録(2017年4月)を振り返ったら、なんと、染五郎さん演じる磯吉の話に基づく手書きの本であった。


浅草メンバーの猿之助さんと愛之助さん、男女之助さんの顔合わせ、そしてオメッティとマッティに変態ブラザーズ、配役にはニヤニヤだ。
幸四郎さんの役どころは最初つかめなかったが、だんだんお頭としての貫目が出てきた。光太夫の成長物語でもあろう。究極の選択が正しかったか否か、それは結果を見なくてはわからない、いや結果を見ても何とも言えない。
猿之助さんは本当は純なのに斜めな人物にぴったり。でももう一役のエカテリーナが本役かなと思う。愛之助さんも極限での共同生活で変わって行って、ホロリとした。
染五郎さんがうまくなった。白鸚さんはさすがの貫録。彌十郎さんがいい味を出している。
乗組員たちは何人かはわかったものの、はじめ化粧やヒゲで誰?誰?だったが、よくよく見れば顔の特徴は残っており、やがて全員わかった。
竹三郎さんと寿猿さんの逢わせて175歳カップルが和ませてくれる。
八嶋智人さんが達者なところを見せる。ちょっとだけ見得も見せてなかなか。「トリビ屋」(うまい屋号だ)の掛け声がかかった。高橋克実さんが歌舞伎に登場したら彼も「トリビ屋」なんだろうか、などと余計なことが頭をよぎった。
「ポーリュシカポーレ」がかかった時、曲名が思い出せなくて、脳内で歌っていたら曲名と同時に仲雅美が出てきた…。
ちょっとテンポの悪いところもあるように思ったが、始まったばかりだからだろう。セリフはこちらの耳のせいもあるが、がなられると聞き取りにくい。まあ、人物像とか物語性とかは高田馬場と比べると…ね~。
終演が早くて助かる。カーテンコールはパスしてしまった。歌舞伎だからと自分に言い聞かせ帰路を急ぐ。頑張ったおかげで最速で帰れた。年寄の田舎住まいは大変なのよ。
<上演時間>第一幕65分(16:30~17:35)、幕間30分、第二幕42分(18:05~18:47)、幕間20分、第三幕65分(19:07~20:12)

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コメント

SwingingFujisan様
こんばんは。ここのところ、あまり渋滞なくブログをアップされているご様子何よりです。
私、先週、歌舞伎座 夜の部みてきました。(私自身はFujisanさんのネタバレむしろ大歓迎なのですが。・・)三谷作品、先年の演舞場の幕末物 今一つだったので、実のところ それほど期待しなかったのですが、うれしい誤算でした。今回の三谷歌舞伎、実に面白い。あれこれ、難癖つければきりがありません。但し確実に言えるのは十分、再演に耐える作品です。是非、プロの批評家を令和歌舞伎の傑作と唸らせるよう、批判された点を練り直して再演していただきたい。地方のファンのためにも地方公演が実現すれば、どれほどの観客サービスとなることか。(売れっ子を再度そろえるのは大変でしょうが)
 で、役者さんの話ですが、書き物の上手な白鸚の大貫禄を筆頭として、超若手の染五郎まで皆、実に生き生きとして演じていることの気持ちの良いこと、良いこと。三谷作品に共通する「役者へのあてがき」のなせる技です。
 衆目の一致するところ、主役三人の別れの場面は特に秀逸ですね。「俊寛」のパロディーというかオマージュというか・・。そして、猿之助のエカテリーナ女帝の輝きは目が釘ずけになりました。
 そうそう、幕間に三谷さんを一階でお見掛けしました。
「三谷屋 大当たり」です。

投稿: レオン・パパ | 2019年6月15日 (土) 18時54分

レオン・パパ様
こんばんは。
せっかく「渋滞なく」とおっしゃっていただいたのに、又悪い方向にいってしまっています。いただいたコメントの公開も遅くなってしまい、申し訳ありません。

私は幕末モノはチケットを買っておきながら見られなかったので、今回はとても楽しみにしていました。「高田馬場」と比べるとやや不満がありますが、それでもたっぷり楽しむことができました。というか、悲しかった。とくに別れの場面は辛かったですね。命を長らえたとしてもあの時代、異国にとどまる心情を思うと、今でも胸に迫るものがあります。
役者さんたちはそれぞれの人物として生き生きしていましたね。そうか、あて書きだったんですね。
「高田馬場」の再演熱望ですが、この作品もおっしゃるように練り直してぜひ再演していただきたいですね。

投稿: SwingingFujisan | 2019年6月18日 (火) 00時31分

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