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2019年7月16日 (火)

圧巻の高畑勲展

7月3日 「高畑勲展」(国立近代美術館)
190715takahata1 2日から始まった高畑勲展、珍しくこんな早く出かけたのは、すでに見た人から「素晴らしいから、絶対見て」と勧められたのと、日が経つと混むだろうし、夏休みに入る前に見ておこうと思ったから。
会場に足を踏み入れた途端、そこはもう高畑勲の世界。展示方法がよく工夫されていて、長編アニメはほとんど見ないので、高畑勲さんの作品は全く見ていないし、さほど関心があるというわけでもない私でも関心と興奮をかきたてられる。
まず、没年から遡って高畑さんの歴史を辿る。作品は最後の映画「かぐや姫の物語」からずら~っと紹介されている。ハイジ、マルコ、アン、ケン、チエ、みんな高畑さんだったのか!! 狼少年ケンやじゃりン子チエは見たことがあるかどうか記憶にないが、漫画としては知っている。驚きのジャブを受け、先へ進む。
第1章 出発点 アニメーション映画への情
第2章 日常生活の喜び アニメーションの新たな表現領域を開拓
第3章 日本文化へのまなざし 過去と現在の対話
第4章 スケッチの躍動 新たなアニメーションへの挑戦

東映動画時代の高畑さんからスタートする。「なつぞら」の世界だ。アニメーターの机がある。まさになっちゃんたちの机を思い浮かべて、そうそうこんな感じ(って、展示が本物なんだから)とミーハー心が躍る。展示は初期から時代を追って、ほぼ全作品に音声ガイドがつく。私は借りなかったが、ガイドは中川大志さん。「なつぞら」で高畑さんをモデルにしたという坂場を演じている。「なつぞら」と重ねて見て回るとより楽しい。
それぞれの作品制作に至るエピソード、原画、絵コンテ、高畑さん自身の様々な資料(若い頃のノート類を見ると、とても几帳面な文字で人柄が現れていると思った)がたくさん展示されている。漫画映画ファン、アニメファン、高畑ファンにはたまらないだろう。
ここから先は高畑さんの漫画映画に対する考え方や作り方、制作過程が詳しく示されていて、私のようなド素人にはそれらを細かく読むのはちょっと難しいし、そもそも基本をわかっていないので、ミーハー的に表側だけを見て行った。


高畑さんの出発点は「ぼくらのかぐや姫」である。2013年の「かぐや姫の物語」の遥か前に(1960年前後だそうだ)高畑さんがかぐや姫の漫画映画を考えていて、それがボツになったことは全然知らなかった。几帳面な文字でびっしり書き込まれたその案が展示されていた。高畑さんはかぐや姫を忘れずに、その後の様々な作品を「かぐや姫の物語」に結晶させたのだろう。
「安寿と厨子王丸」は高畑さん初の演出助手作品(ノンクレジット)だが、高畑さんの細かい指示が描きこまれた絵コンテが残っている。この作品では佐久間良子さんを起用したライブアクションが使われている(佐久間さんがめちゃきれい)。ライブアクションは「なつぞら」の牛若丸で知ったから、おお、これかとわかったのが嬉しかった。
「わんぱく王子の大蛇退治」(1963年)はスサノオの物語だそうだが、この作品自体を知らなかった。
「狼少年ケン」(1963~1965年)は見たことがあるだろうか。あるような気もする。ケンは、各話が別々の演出家によって制作されている。第14話「ジャングル最大の作戦」が高畑さんの単独演出デビュー作だとのこと。しかし高畑さん自身が一番好きなのは第72話「誇り高きゴリラ」だそうで、その一部が動画で流れていた。
「太陽の王子ホルスの大冒険」(1968年)は高畑さん初の長編演出、初の長編脚本。何度も何度も手を加え、まさに紆余曲折を経て完成する。この作品で宮崎駿さんが頭角をあらわしてくる。ちょうど今、「なつぞら」で神地がそんな状態にある。このアニメは大画面でやはり一部が流されていた。動画はどれも面白い。ちゃんと全部見たい。
「パンダコパンダ」は、当時テレビシリーズとして企画されていた「長くつ下のピッピ」が原作者の許可が得られずボツになった後に浮上した企画だそうだが、この作品も知らない。高畑さんは宮崎さん、小田部羊一さん(なっちゃんの夫になる人のモデル)を誘って東映動画からAプロに移籍する。ピッピがだめになった後、3人は「ルパン3世」や「赤胴鈴之助」のスタッフとして活動していたそうだ。ほぉ~。
高畑さんのまわりには優秀な人材が集まり、次々と意欲作を企画し発表する。その中には興行として当たらなかったものもあるようだが、時代が彼らについていっていなかったのだろうか。
「アルプスの少女ハイジ」「母をたずねて三千里」「赤毛のアン」になると私も見たことがあると言える。感銘を受けたのは、現地にロケハンをしていることである。キャラクター、舞台、背景等々、すべてにロケハンが活かされたことは想像に難くない。しかし、アニメでもロケハンするという概念は私にはまったくなく、ここまでして作品にするのかと大いに感動したのである。フィクションとウソは違うということだ。その背景画の見事なこと。風景画として実に芸術的で素晴らしい。これまで背景画にはほとんど意識がいかなかったが、これからは注目して見ることにしよう。
人物描写も、その人物の生い立ち、精神、心を深く掘り下げて描く。だから笑顔、憂い顔、怒り顔が生き生きと魅力を放つのだろう。
ハイジ第1話では、重ね着をしたハイジが急斜面をのぼりながら1枚1枚服を脱いで下着になって山を駆け登る。このシーンも流れていたが、たしかに解放感に満ちている。高畑さんはハイジでレイアウトを取り入れたが、レイアウトによって、原画を描く人もアニメーターも平等に製作に関わることができ、無駄もなくなるということだ(それまでは、せっかく描いたものを捨てることもあったとか)。レイアウトは以降の漫画映画製作に多大な影響を与えた。
高畑さんはこの後、日本へと目を向ける。「じゃりン子チエ」「セロ弾きのゴーシュ」「文化記録映画 柳川掘割物語」「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」「平成狸合戦ぽんぽこ」。
そして、人物と背景が一体化した新しい表現スタイルを模索し、「ホーホケキョ となりの山田くん」「かぐや姫の物語」でそれを実現する。
「となりの山田くん」(見ていないけれど、こんな映画も作っているんだ)は極端に絵を単純化しているが、十分に話は伝わるし面白い。かぐや姫が怒りと悲しみに駆られて疾走する場面は、原画だとただの線の集合体にしか見えない。しかし映像になると、まさに風となって走っているのである。
かぐや姫は高畑さんが尊敬するフレデリック・パック氏(「木を植えた男」など)宅で上映され、その8日後パック氏はこの世を去った。このドキュメントは私も見て泣いたっけ。録画したまま何度も消そうとして消せなかったかぐや姫、見なくっちゃ。

興味深かったのは高畑さんとジャック・プレヴェールの関係である。高畑さんは東大仏文科の卒論でプレヴェールを取り上げており、プレヴェールが脚本を書いた映画「やぶにらみの暴君」が高畑さんをアニメーションの世界に進ませたそうなのである。そして高畑さんは奈良美智さんと出会い、「鳥への挨拶」という詩集が生まれた。そんなエピソードというか、側面もこの展覧会で初めて知った。

以上、表面だけを記録してきたが、1本のアニメーションの製作に高畑さんをはじめとするスタッフがどれだけ心血を注いできたことか。それはこの展覧会を見れば私みたいな鑑賞者にもじ~んと沁み込んでくるのである。もう一度見たい展覧会であった。

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コメント

わたしは夏休みの16日に行ってきました。
偉大なるコンダクターとの印象ですね。
個人的には東映アニメ時代が懐かしく、またハイジが当初三つ編みだったのがショートカット変更されたという裏話が面白かったですね。
この日は東京駅スタートで竹橋経由で新宿駅までウォーキング。
夜はサザンシアターで永作博美主演の「人形の家part2」を観ましたが、これまた、出色の台詞劇でした。

投稿: うかれ坊主 | 2019年8月20日 (火) 17時54分

うかれ坊主様
こちらにもありがとうございます。
高畑展、いらしたのですね!!
私は高畑さんのことはほとんど知らず、「なつぞら」と重ねて見て回ったミーハーですが、それでも高畑さんの功績がわかりました。

竹橋から新宿まで歩かれたのですか!! 暑い中、お疲れ様でした。
「人形の家」も(part2ではありませんが)「なつぞら」で大事なモチーフになっていました。永作さんはいい女優さんですよね。

投稿: SwingingFujisan | 2019年8月21日 (水) 20時33分

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