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2019年7月31日 (水)

七月歌舞伎座夜の部:「星合世十三團」

7月28日 七月大歌舞伎千穐楽夜の部(歌舞伎座)
終演時刻が当初の10時近くから30分ほど早くなって、それでも長いよなあとちょっとびびっていたものの、意外と長さを感じなかった。海老蔵さんの健康を考えての短縮だろうが、海老蔵さん、本当に本当にお疲れ様でした。知盛、権太、狐忠信と別個でも大変な役を5時間の大半を使って一気に演じたのだから、演目発表のときに懸念した以上の大変さだっただろう。
「星合世十三團」
それぞれの幕はダイジェスト的なので物足りなく思うことも多々あったが、とにかくこの芝居は海老蔵さんの13役をたっぷり楽しむものであり、海老蔵さんのチャレンジを評価したいと思った。ただ、どうしても早替りに気を取られて、肝心の物語に集中できない(吹替えが海老蔵仮面をかぶっているのも逆に気になって集中力がそがれる)。それもあって物足りなさを感じたのかもしれない。

発端:幕開き前に人形の口上があった。ギリギリに着席しなくてよかった。海老蔵さんの13役をまとめて言うのではなく、1役1役紹介したから場内、ちょっと笑いが起きた(能登守教経:市川海老蔵、武蔵坊弁慶:市川海老蔵のように)。
教経と横川覚範(新蔵)が一通り太刀を交えると、海老蔵さんが口上を述べる。死んだと思われていた平家の公達3人、教経・知盛・維盛が実は生きていたという。
前日、ちょっと重労働をしたので序幕は眠くなってしまい、ところどころ朧気に…でよくわからなくなってしまった。ふだん見ない場面なのでちゃんと見ておけばよかったと後悔。海老蔵さんの卿の君はきれいではあるが、ちょっとごっつい感じがした。セリフも女方であるからどうしてもふわふわしてしまい、う~ん。
二幕目:序幕を反省してメガシャキガムを半分噛む。次に又眠くなったときのために半分とっておいたのだが(このガム、私の知っている範囲では高速のSAにしかないのだ)、よく効いて、後は大丈夫だった。
「渡海屋/大物浦」では、相模五郎(右團次)が1人で義経の詮議にやってくる。お柳さん(実は典侍の局:魁春)の亭主自慢も相模五郎の魚尽くしもなし。まあ、ダイジェスト版だから仕方ないだろう。入江丹蔵(海老蔵)の勇猛な最期は見せ場だからあった。典侍の局の自害がなかったのは残念。魁春さんの品格がいかにも典侍の局らしく、よかった。魁春さんはずっと前から、とくに後姿が女性らしいと思っていたが、今回もその思いを強くした。銀平とは一応夫婦ということになっているが、義経(梅玉)の身支度を整えてあげているときには義経との夫婦感が強かった。兄弟だからかしら。

「渡海屋」で知盛が白装束で花道を下がる時の目に、語弊があるかもしれないが狂気のようなものが感じられ、今後の展開へのワクワク感が増した。一方で、知盛の最期はカット場面が多く、感動に浸る間がなかった。
定式幕が引かれると席を立つ人が何人かいた。場面はまだ続いているのに。場内真っ暗になり、弁慶(海老蔵)が法螺貝を吹く。その間、宙乗りのハーネスが移動してきたからこれは宙乗りあるぞ、と期待していたら、再び場内真っ暗になり、客席にホタルのようなあかりがたくさん飛ぶ。花道上方では2つの人魂のようなものがゆっくり上昇していく。そしてスッポンから顔から血を流した知盛が登場。静かに静かに宙を歩む。不気味で美しい空中歩行だった。
三幕目:若葉の内侍の児太郎さんは最初声が低くて福助さんそっくりだったが、だんだん高くなって、落ち着いた女性の声に変わった。児太郎さんは小せんの方がよかった。権太に対する愛情、家族としての思いがとても愛おしく感じられた。若葉の内侍は誰がやってもなかなか私は納得できない。難しい役なのかな。
権太はまさにやんちゃな不良そのもの。弥左衛門は年寄らしくしようとして声がふわふわしたのがイマイチ。もっと低い渋い声にした方がよかったのではないかしら。3人(権太、弥左衛門、弥助=維盛)がいっしょに出る場面はどうするのだろう、とくに父親が権太を刺す場面は…。そうしたら衝立などを使って権太が逃げ回ることで、吹替えと入れ替わっていたが、ここはかなり無理があると思った。権太親子、兄妹の感情の絡み合いがないため、悲しみが湧いてこない。梅丸さんのお里ちゃんが可愛い(でも、見せ場がカット)。齊入さんのお米が手慣れていてうまい。
前に戻るが、小金吾は白塗りでないせいか、あるいは海老蔵さんが前髪の若衆らしくないせいか、イメージ違い。ここも1人で3役(権太、小金吾、弥左衛門)をやるため、権太にだまされるのは小金吾ではなく妙林尼(萬次郎)ということになっていた。妙林尼は第三幕第一場「北嵯峨庵室の場」で若葉の内侍と六代の君をかくまっている。維盛存命の噂を聞いた小金吾が若葉の内侍たちを迎えに来たが、平家落人詮議の捕り手たちに邪魔をされたため、妙林尼に若葉の内侍と六代を守らせて先に逃がす。したがって、わざと荷物を取り違えていちゃもんつける権太との遣り取りは小金吾ではなく妙林尼になったというわけ。この変化は、萬次郎さんのうまさもあって案外面白かった。
大詰:「川連法眼館」は元々早替りだから違和感はないが、それでも短縮バージョンのため味わいは薄かった。その中で義経の梅玉さんと静の雀右衛門さんはさすが。2人の間に通う強い愛情、狐の子の告白から今のわが身の立場への思いが、静かに強く感じられた。
海老蔵さんの狐は意外にも身体が重そうだった(疲れがたまってるよね)。奥庭の場は早替りオンパレードで、何枚も並べられた襖の後ろで手際よく吹替えと入れ替わっている。3階からはそれを支えるスタッフの動きが頭の上のほうだけ見えてしまう。と言って早替りを楽しむ邪魔にはならない。
荒法師たちは見事なたぶらかされようで、身体能力すごい。
海老蔵さんは狐で2度目の宙乗り。今度は喜びに溢れて楽しくのぼっていった。場内は手拍子手拍子。まあね、あれは確かに手拍子したくなるけど、手拍子じゃなくて拍手の私は何とも居心地が悪い(気取らないで手拍子した方がよかったのかな)。
ラスとは、不気味な教経のアップから始まって、全13役がスクリーンに映し出される。血に染まっている卿の君、入江丹蔵、知盛、小金吾、権太…。「義経千本桜」は血塗られた物語なのだと思った。
場内に桜吹雪が舞う。いや、舞うのではなく吹き荒れるような感じ。宙乗り小屋から、3階(2階だった?)左右の座席から、桜吹雪が発射される。こんなすごい桜吹雪初めて。拍手は鳴りやまず。海老蔵さんが桜吹雪の中1人で舞台に現れ、お辞儀をして幕。終演のアナウンスが入っても拍手は鳴りやまず。カーテンコールがあったようだけど、私はもう遅いし、外へ出た。
<上演時間>「発端/序幕」40分(16:30~17:10)幕間10分、「二幕目」75分(17:20~18:35)、幕間30分、「三幕目」80分(19:05~20:25)、幕間15分、「大詰」48分(20:40~21:28)

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コメント

SwingingFujisan様
やっと梅雨が明けたと思ったら、猛暑で大変ですね。
話題の千本桜、私は楽日近くで無事に見られました。
早変わりのスピーディーさ、2回の陰陽の宙乗り、映像の多用、そして凄い量の花吹雪(髪の毛はもちろん、私のたまたま持っていた紙袋にたっぷり積もってしまいました。)等々 存分に楽しみました。但し、ご指摘のように、歌舞伎芝居としてのコクは希薄でした。ここは、夏芝居として、難しいことは言わずに楽しめばよいのでしょう。そこで、思い出すのは、先代猿之助の7月興行の復活狂言、早変わりを中心としたケレン芝居でしたが、ここぞという場は早変わりもなく、じっくりとした芝居をみせたものです。(例えば、「後日の岩藤」の又助腹切りの場など)。その意味で今回、ニンのあう、権太の「すし屋」はしっかりとした芝居を見せてほしかったように感じました(ところで、海老蔵の権太は渡辺先生が東京初役と書いておられましたが、2009/1演舞場の昼の部でやっているはずです。私も、Fujisanさんも見ましたよね。)
芝居のこくがないと言いましたが、梅玉、魁春、左團次が絡むとやはり、大歌舞伎になるところが、さすがですね。
暑さはこれから、くれぐれもお身体ご自愛ください。

投稿: レオン・パパ | 2019年8月 2日 (金) 09時32分

レオン・パパ様
まったく暑いですね~。暑くて何か行動を起こす気がなかなか湧きません。

「すし屋」は、おっしゃるように一番しっかり見たかったところです。13役挑戦と言っても、父親と権太の早替りはさすがに無理がありましたよね。
梅玉さん、魁春さん、雀右衛門さん、左團次さんの存在は大きかったですね‼ 歌舞伎の面白さってこういうところにもあるのだと思いました。

海老蔵さんの権太、たしかに演舞場で見ました。しかも私、2度見ていました。今回の大役3役の中では一番ニンだと思いますので、いつかまた、じっくり見せていただきたいものです。

まだしばらく猛暑が続くようですので、お身体、お大切になさってください。

投稿: SwingingFujisan | 2019年8月 2日 (金) 12時14分

休演後、全体で約30分も詰まったのでどこか大幅カットがあったのかと思いましたが、全体に少しずつ詰めた感じでしたね。
立ち回りをカットしたのもしれません。最後の奥庭の早替りはもう少し長かったように思います。あとは全体にテンポアップしたところもあったのでしょうね。
「吉野山」がカットされたと誤解している方もあったようですが、最初からありませんでしたし。
良いところも多々あったのですが、注文としては「狐言葉」をもっとしっかり勉強してほしいという点ですね。

投稿: うかれ坊主 | 2019年8月 2日 (金) 18時36分

うかれ坊主様
やはりどこかを大幅に削るのは無理が出てくるのでしょうね。
きつね言葉は難しいですよね。色々な方のを見てきて、これはよかった、これはイマイチというのはありますが、どなたのが正解なのかは未だによくわかりません。
いずれにしても海老蔵さん、大奮闘、大変な公演でした。途中休演はあったものの、千穐楽まで務められて本当にお疲れ様でした。

毎日暑いですねー。暑いという言葉しか出てきません。ご自愛ください。

投稿: SwingingFujisan | 2019年8月 3日 (土) 13時42分

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