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2019年10月 8日 (火)

恐竜の世界に迷い込む:「恐竜博2019」

103日 「恐竜博2019」(国立科学博物館)
夏休みが終わった9月中に行こうと計画しているうちに日々は過ぎ…。すいてはいなかったけれど、展示は全部ちゃんと見ることができた。会期末直前だと混むだろうし、期間中ちょうどいい時期だったのかも。

今回の恐竜博は恐竜が現代に甦るのではなく、自分が恐竜の時代、世界へ迷い込んだような、そんな錯覚に陥るような展示であった。

★Chapter1  恐竜ルネサンス
恐竜研究50年の歴史を辿る。1969年、ある獣脚類恐竜にデイノニクスという名前がつけられた。「恐ろしい(デイノ)+爪(オニクス)」という名前が示すように、その恐竜は足の人差し指に大きなカギ爪をもっていた。このデイノオニクスの研究から鳥類の恐竜起源説などが生まれ、恐竜はのろまな爬虫類と考えられていたそれまでのイメージが一新された。「恐竜ルネサンス」と呼ばれる新しい時代がここから始まる。

・日本初上陸というデイノニクスの足の貴重なホロタイプ標本が展示されていた。ホロタイプ標本とは、新しく発見された生物に学名をつける元となった標本で、その種につき世界に1つしか存在しないそうだ。デイノオニクスがテノントサウルスに襲いかかるシーンが骨格標本で再現されている。デイノオニクスが2頭で自分より大きいテノントサウルスに飛びかかろうとしている。少なくとも3個体のデイノオニクスと植物食恐竜テノントサウルスサウルスのつながった尾椎などの化石が発見されたことから、デイノオニクスが集団で狩りを行ったという解釈がされたそうである。植物食の恐竜をまさに襲わんとする肉食恐竜――恐竜世界に入り込んだような錯覚スポット(以下、錯覚スポットと省略)
・恐竜の色がわかってきたというのも面白い。アンキオルニスは羽毛の表面にメラノソームが残っていたことから2010年、恐竜として初めて全身の色がわかった。全体に黒色、頭頂部と頬には赤い模様、翼には白い帯模様が認められたそうだ。頭頂部の赤は現在の鳥類の成熟したオスにみられる。色でオスを識別していた可能性があるとのこと。

★Chapter2  ベールを脱いだ謎の恐竜
・1965年、モンゴルのゴビ砂漠で、肩関節から指先までの長さが2.4mという巨大な前あしの化石が発見された。1970年、「恐ろしい(デイノ)+ケイルス(手)」と名付けられたが、当時は左右の前あしと肩帯しか発見されず、長い間、謎の恐竜とされていた。40年以上後に別の部位が発見され、オルニトミモサウルス類の恐竜だと確認された。この標本はまさに「恐ろしい手」を実感させてくれる。しかしデイノケイルスの全体像を見ると、全体にピンクの羽毛が生えており、頭頂部には赤いトサカがついている。この色はアンキオルニスと違って、あくまで予想だそうだが、「恐ろしい手」とは裏腹な感じで面白い。そして体は複数の恐竜の特徴を併せ持っており、「謎の恐竜」でなくなった現在は「へんてこな恐竜」の代表格なんだとか。
・さてデイノケイルスの他の部位とは、頭骨、脛骨、尾てい骨などだが、なんと胃の内容物、・胃石まで見つかっているのに驚いた。デイノケイルスは植物だけでなく魚も食べていたらしく、雑食性と考えられる。胃石は大きさが様々で、植物をすりつぶす役割があるそうだが、こんなのが胃に入っていたのかとちょっと驚き。
・恐ろしい手をもつ謎の恐竜からへんてこな恐竜になったデイノケイルスは、タルボサウルスの餌だったかもしれないって…。デイノケイルスの化石には咬み跡が残った腹肋骨があり、怪我が治った痕跡がみられないことから、死ぬ間際か死後につけられたものと考えられる。展示も、巨大なデイノケイルスの前に通路を挟んでデイノより小柄なタルボサウルスがデイノを襲おうとしている姿を表していたんですって(これは「575でカガク」より。気がつかなかったわ)。恐竜同士の戦い――錯覚スポット


★Chapter3  恐竜の一生
191010tamago ・「恐竜の卵の温め方」は興味深い。あらためて、恐竜は卵で増えることを認識した。すると、あの大きな身体でどうやって卵をつぶさずに温めたのだろう、という疑問が湧いてくる。それにこたえる展示があった。マクロエロンガトゥリトゥス(オヴィラプトロサウルス類)の巣の化石である。なんと巨大な卵をドーナッツ状に並べ、親恐竜はその真ん中にうずくまっていたようなのである。巣の直径は約2m、卵の長径が40~60cmであるから、卵を円形に並べたら巣の内側の直径は1m以上になる。脊椎動物の巣としては最大級のものだ。しかしいくら恐竜が大きいからといって、ドーナッツ状に並んだ卵をすべて翼で温め切れるものではない。体の左右に翼を広げれば、その下の卵は温まるかもしれないが、頭としっぽ側の卵はカバーできない。親恐竜は少しずつ移動しながら全部の卵を温めていたらしい。したがって、こうした大型恐竜の営巣は、抱卵というよりはむしろ卵を雨風や外敵から保護するのが目的だったかもしれないと解説に書かれていた。種族保存の本能なのか、母性なのか…母性と思いたい――錯覚スポット。
・シチパチはより小さい恐竜なのか、卵の上に覆いかぶさるようにした化石が発見されている。鳥類のように巣で抱卵しているのは進化の一過程らしい。発見された化石では、抱卵していたのはオスであることが明らかになっている。
・近年、こうした抱卵の様子や、恐竜が群れで行動したり役割分担があったという社会性がわかってきている。鳥類の行動の多くは恐竜から引き継がれているらしい。
・オルニトミムスの子供の化石は、胸を打つ。骨の断面に成長停止線がみられないことから1歳になる前に死んだと考えられている。また、3体のオヴィラプトル類が折り重なるようにしている化石からは、彼らが死んだとき、身を寄せ合い暖め合っていと考えられる。3体とも約1歳だそうだ。何があったのだろう。恐竜とはいえ、そんな幼くして命をなくしたことに悲しみを覚えた。
・ところで、オヴィラプトルという名前は、誤解によってつけられたものであった。1923年にゴビ砂漠でアメリカの探検隊が発見した卵の化石が当初はプロトケラトプスのものであると考えられており、近くで発見された獣脚類恐竜は「卵泥棒」という意味のオヴィラプトルと名付けられてしまったのである。卵ちゃんたちの本当の親なのに…。
191010romeojuliet ・微笑ましくも悲しいのは「ロミオとジュリエット」と名付けられた化石である。砂漠の崩壊に巻き込まれて一緒に命を落とした2体のオヴィラプトル類に与えられた名前に、研究者たちの愛情とロマンを感じた――錯覚スポット







★Chapter4 「むかわ竜」の世界

191010mukawa1 191010mukawa1 ・むかわ竜は2003年、北海道むかわ町穂別で発見された。日本の恐竜発見史を見ると、1934年、当時日本領であった樺太でニッポノサウルスが発見された。日本人によって研究・記載された初めての恐竜である。日本国内では1978年岩手県で初めて恐竜化石(体骨格と卵殻)が発見されて以降、2019年7月現在で1道17県から様々な恐竜化石が発見されている。
・むかわ町ではカムイサウルス(通称むかわ竜)、ホベツアラキリュウ、フォスフォロサウルスなどがみつかっている。骨格標本、素晴らしい。そしてむかわ竜は新属新種の恐竜と認定され、正式名称が「カムイサウルス・ジャポニクス」に決定した。日本国内で発見され学名がついた恐竜は8種目。
・骨格の8割以上が揃った全身化石の発見は大型恐竜としては国内初だそうで、その実物化石と全身復元骨格が展示されている。むかわ町を出るのは初めてなんですって。一見の価値あり。
191010hakuhen ・私が非常に興味深かったのは年齢、いや、年齢推定のもとになった脛骨の断面の<薄片>である。というのは、ついこの前、2年前に録画した「ガリレオX」<薄片>を見たばかりだからである(たまりにたまっちゃって古いのは消したいけど、面白いから見てからでないと消せない)。日本の薄片製作第一人者を紹介していたが、薄片を作るのはとても難しくて、苦心・工夫におおいに感銘を受けたのだ。薄片を薄片と意識して見たのは初めて。本物を見ることができて感激だった。
・で、薄片からこのむかわ竜は12~13歳、成熟した大人であることがわかったそうだ。12~13歳で成熟した大人? それでも1歳は幼い子供よね。
むかわ竜が生きた世界を4Kシアターで見た。むかわ竜や他の巨大爬虫類などが海岸に群れている。あっ、敵が襲ってくる。逃げ遅れた子供だろうか、口で激しく振りまわしながら食べてしまった。サバンナにおける動物と動物の苛酷な戦いと同じような弱肉強食が恐竜の世界にもあったのだ。というのは、さっきのデイノケイルスでもわかっていたのに、目の前で見せつけられると、それは切実な現実として迫ってきて厳粛な気持ちになる。生きるということは苛酷なことなのだ。数分間の映像にぐいぐい引き込まれた――錯覚スポット

★Chapter5 絶滅の境界を歩いて渡る
・約6600万年前、カリブ海に直径10kmほどの隕石が落下。ティラノサウルスのような大型恐竜を含む全生物の75%以上が絶滅した(5回目の大量絶滅)。生き残れたのは体の小さな生き物、エネルギーをあまり必要としない生き物だけだった。K/Pg境界(白亜紀と新世代の境界)を超えた生物、超えられなかった生物が紹介されていた。あのティラノサウルスも絶滅した。展示されていたトリプラケトスの下顎はK/Pg境界からわずか5cm下の地層から発見された。5cmということから隕石衝突の数百年前に生息していたものと考えられるようだ。<5cm下の下顎>でそういうことがわかるのか。
・1900~2014年に哺乳類の35種類、鳥類の57種類が絶滅してしまったそうで、このことから、現代は6回目の大量絶滅期と捉えられているようだ。6回目は5回目とは違って人為的な条件による絶滅なんだろうな。
このChapterはさっと流してしまったが、ちゃんと見ておけばよかったと悔やんでいる。

★エピローグ
・白亜紀後期のヴェガヴィス(分類としては現生鳥類。その最古のもの)の発声器官である鳴管が発見された。マイクロCTスキャンによる分析から、ガチョウのような鳴き声だったらしい。「音は形として残らないので、化石が一番苦手とする分野である」とパネルにあり、ああたしかにそうだよな、と今さらのように共感を覚えた。今後も鳴管などの化石が発見されれば、恐竜や鳥類の世界に関する理解が進むに違いない。「奇跡的に保存されて」いたヴェガヴィスの鳴管はますます恐竜世界への関心を膨らませてくれる。

★AR写真コーナー
第2会場へ行く手前に撮影コーナーがあった。スマホでQRコードを読み取り、デイノケイルスの前脚のついた板を手に嵌めて写真を撮ると、前脚が飛び出す。すいていて、1組待つだけで撮影できた。別の日に行った人は長蛇の列で諦めたと言っていたからラッキーだった。

★第2会場
前回(2016年)も化石クリーニングの実演を見られなかったが、今回も。でもクリーニング担当の人の話が映像で流れていてとても興味深かった。化石は周りの岩ごと切り取り、石膏で固めて運搬する。石膏を剥がし、汚れや化石以外の部分をきれいに取り除いていく作業がクリーニングだが、細かくて、しかも化石を傷つけないように注意深く丁寧に丁寧に削る。使う道具は歯医者さんでのものに似ているそうだ。大変な作業ではあるが、化石となった生物の姿を最初に見るのが自分である、というのがクリーニングの醍醐味だそうだ。仕事への愛が感じられて、こちらの頬も緩んだ。

恐竜博、次回も楽しみだわ。

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