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2019年11月22日 (金)

十一月歌舞伎座昼の部「研辰の討たれ」「関三奴」「髪結新三」

1115日 顔見世大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)
珍しく、というか初めて15日で筋書きに舞台写真が入っていた。いつもこうだとありがたいのに。
「研辰の討たれ」
野田版を1度、染五郎さんの辰次を大阪で1度、延若さんの辰次を映像で1度見ている。
人のありかた、武士のありかたについて考えさせられた。まわりの武士たちにさんざんバカにされる研辰には自身、彼らをバカにして保身するという非があるとはいえ、昨今のいじめに思いを致させられた。
こういう人こそ、プライドにしがみつくんだろうか。家老の平井市郎右衛門(友右衛門)に思い切り罵られ、プライドをずたずたにされた辰次は家老を殺す。それからはいつ命を狙われるかと怯える日々。形だけ武士であって精神は武士でない辰次の心持がコミカルな中にもよく伝わる。普通の人間だったら斬られるのが怖いのは当然だろう(自分の罪は棚にあげてるのだけれど)。
一方の兄弟の苦しみ、敵討ちという武士に課せられた義務に苦しむ気持ちもよくわかる(この芝居だけでなく、敵討ちはしばしば課せられたほうがより苦しいとされる)。兄の方がその制度に疑問をもち、親を殺された憎しみよりも敵討ちという義務を果たさなければならないことへの憎しみを覚えていると言ったのには共感できた。そうそう、敵討ちの平井兄弟は、演じているのも坂東彦三郎・亀蔵兄弟である。
兄弟と辰次がまともに対峙してから約30分どうやって進行していくかと見ていたら(内容をだいぶ忘れている)、幸四郎さんがアドリブらしきセリフを交えて、何とか助かろうとするああ言えばこう言う的な策で笑いを呼んでいた(亀蔵さんは笑いそうになっていたが、彦三郎さんはずっとテンションを保っていた)。兄弟は正しい武士で、相手が刀をもって戦わなければ敵討ちにならないという原則を守るから、なんとか刀を持たないようにごまかす辰次をちっとも討てない。
プライドにこだわっていた辰次がプライドを捨て、犬にまでおちぶれるのを見て、罵倒して立ち去る兄弟。ああ助かったとほっと息をつく辰次。その時、兄弟の刃が辰次を襲う。卑怯者を討つには原則を捨てたわけだ。これまでほとんど喜劇だった物語が一瞬にしてシリアスな現実となって、複雑な余韻を残して幕となる。久しぶりに見た「研辰」だが、よくできた芝居だと思った。
宿屋の主人、橘太郎さんがやはりうまい。本当に時代の空気、物語の空気を醸し出すのが上手な役者さんだ。


「関三奴」
途中まで頑張っていたのだけれど、眠くなってしまった…。
松緑さんの足踏みの勢いある音に対して芝翫さんの音は柔らかかったような…(ちょっと意外)。
「髪結新三」
季節的にどうなの?という演目ではあるが、何度見ても面白い。物語の中の人々が活き活きしていて、すぐにその世界に入っていける。
菊五郎さんの若いこと、粋なこと。悪いヤツではあるが、忠七(時蔵)よりずっとカッコいい。勝奴との間柄も好きだし、江戸っ子らしくケチじゃないのがいい。もっとも大店のお嬢様には刺激が強すぎる。永代橋川端で豹変して本性をあらわす場面では、忠七を気の毒に思いつつも、仕方ないよな~という気にさせられる。菊五郎さんの演技は細かいところまで自然に行き届いている。
梅枝さん、きれいで、いかにもなお嬢様ぶり。お熊にぴったりである。魁春さんの白子屋後家もおっとりして<らしい>。
ほかに、秀調さんの車力、團蔵さんの弥太五郎源七、権十郎さんの勝奴、左團次さんの大家、萬次郎さんのおかみさん、鉄板の配役である。これだけ揃えば面白くないわけがない。
とくに新三と大家の掛け合いは年季の入ったコンビだから間が絶妙、左團次さんの恫喝の凄み、新三をもひねりつぶす理屈の妙味、何度も見ているのにわくわくした。
新三がカツオの半身をあげると言った時、大家はそんなことどうでもいいみたいに言ってさらっと流しているように思ったが、これがあとでキーポイントになるのにいいのかなあとちょっと気になった。いつもそんな感じだったっけ?
無事お熊を駕籠に乗せた秀調さんの嬉しそうな顔が印象的だった。
橘太郎さんの肴屋さん、うまい。菊十郎さんの後継者は橘太郎さんかな。
丑之助クン、前回2018年3月(国立劇場)はまだ寺嶋和史の名前での丁稚ちゃんだった。1年半以上経って、可愛さだけでない堂々たる丁稚ちゃんとして再登場。
大家に泥棒が入ったところで幕がしまるためか、席を立つ人が多かった。まだ終わっていませんという係の声があちこちで聞こえた。
新三にプライドを傷つけられた源七の屈折した暗さを團蔵さんが効かせていて、最後まで気が抜けない。「これぎり」になって、やっとほっとする。2時間以上あってお尻は痛くなったものの、まったく退屈はしなかった。
<上演時間>「研辰の討たれ」90分(11:00~12:30)、幕間30分、「関三奴」15分(13:00~13:15)、幕間20分、「髪結新三」137分(13:35~15:52)

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コメント

昨日昼の部を観てきました。
「研辰」の幕切は、騙し討ちしたものには、こちらも騙し討ちで報いるという倫理観のバランスを感じますね。
所詮武士らしくなんてできない相手ですから。
みぎひだりに勝手に動きやすい野次馬を排除して、平井家と守山家間のことにしたのもある意味必然だったと思いますし。

投稿: うかれ坊主 | 2019年11月24日 (日) 08時33分

うかれ坊主様
おはようございます。
「研辰」はどちらに思い入れるかで感想が分かれるかもしれませんね。私は仇討ができたのはよかったと思っていますし、辰次への思い入れはほとんどないのですが、ちょっと複雑な気持ちにもなりました。
野次馬というものの無責任さについては、自戒せねばと思いました。

投稿: SwingingFujisan | 2019年11月24日 (日) 11時14分

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