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2019年11月16日 (土)

鏑木清方の世界、そして窓の世界

11月4日 鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開~「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」(国立近代美術館)
191116kaburakiwindows 飯田橋方面に行く用事があり、そのついでに始まって間もない時点で近美の2つの展覧会に行くことにした。
特別展の会場は3階だが、4階から順番に見られるので、まずは何となく4階へ。おお、ここにも鏑木清方作品があるではないか‼ 六曲一双の「墨田河舟遊」。しっとりとした風情の中にも遊ぶ人々、働く人々が生き生きと描かれていて、風や水のにおいまで漂ってきそう。シチュエーションは違うけれど歌舞伎の「名月八幡祭」や「梅ごよみ」を思い出した。
他の作品は何度か見ているので(展示替えがあるかもしれないけれど)パスして3階へ。特別展は有料。
なんというしっとり静かな空気だろう。目の前に広がる日本画の美しい世界。楽しかったが多忙だった日々の落ち着きのなさから一度に別世界へ入り、心が静かな興奮に満ちた。
「明治風俗十二ヶ月」。静かではあるが、動きのない世界ではない。市井の人たち(主に女性)はそこに生きて暮らしている。ぺちゃくちゃお喋りもしているだろうし、せっせと働いてもいるだろう。それぞれの月の空気、暮らしぶりが感じられる。何月だかに、歌舞伎の演目と役者名が細かく記されていると聞いたが、わからなかった。七月は音羽屋の「お祭佐七」にちなんだ盆燈籠が描かれているので、七月なのかもしれない。
さあ、そして今回の目玉、幻の「築地明石町」である。1975年(昭和50年)以来44年間所在不明になっていたという作品。こんな大事な絵が所在不明ってどうしたらそうなるのか、そしてどうやって出て来たのか。この作品とともに「新富町」「浜町河岸」、合せて3点が同時公開。いいですねえ~。「明石町」ではしっとりだけでなく女性の毅然とした芯の強さが感じられる。「新富町」の背景は仮名手本忠臣蔵五段目の絵看板で、新富座での上演期間にこの絵が描かれたということだそうだ。「浜町河岸」の着物の柄の細かい描写。三部作、どれも薄い背景に奥ゆかしげな女性が引き立つ。その美しさには長時間、足を止められる。
男性を描いた「三遊亭円朝像」、円朝に静かな迫力を感じた。
最後に明治28年の「東京市京橋区全図」という地図が展示されていた。町名一覧も載っている。興味津々ではあるが、単眼鏡が必要(展示室にある特大の作品リストの裏に一部が欠けてはいるが地図があり、主な地名と場所がわかるのはありがたい)。
地図だけではなく、この展覧会を見る際には単眼鏡が必需品だろう。私は持っていないので買ってもう一度見に行きたいけど、12月15日までの間に行かれるかしら。

この後、「窓展」へ。このように一つの物体をテーマとした展覧会は好き。考えてみれば、日本の普通の住宅では素通しで外と中がつながっているのは窓だけだ。窓の外から、中から、何が見えるだろう。アプローチは多角的で、哲学的な趣もあり、やや難しかったが、とても興味深かった。
最初に古代から現代までの窓にまつわる年表のようなものが展示されている。窓と美術、窓の技術、建築の歴史を世界と日本を並べて辿っている。超力作・超大作だ。
いつから窓ができたのか。ガラス窓に関して言えば、BC16世紀半ばに西アジアやエジプトにてガラス容器が出現(ガラス工芸の幕開け)、BC30年頃シリアにて吹きガラス技法が成立、1世紀後半にはポンペイで浴場用の窓ガラスが導入されたそうだ。
日本では、寝殿造りなどの建築には窓はなく、簾や屏風といった移動式の調度で空間を区切っていた。14世紀には書院造りが成立し、固定式の建具(障子)で内部空間を分けていた。安土桃山時代になると、茶室文化が発展し、下地窓、連子窓などの窓が登場した。日本にガラス製品が現れたのは16世紀半ば頃らしいが、窓ガラスは1755年、長崎のオランダ商館に用いられるまで記載がなく、これが初めての窓ガラスなのかどうかはわからなかった。1818年には江戸にて安価なガラスが大量生産できるようになり、1854年には薩摩藩で板ガラスの製造が始まったそうだから、ガラス窓の普及はまだまだだったのだろう。
興味深いのは、1695年イギリスで窓税が導入されたことだ。1つの建物に7つ以上の窓をつけると課税されたそうで、これがガラス窓の発達・普及を妨げたのだとか。またフランスでも1798年、戸窓税が導入されたそうだ。どういう理由でそんな税金が導入されたのだろう。日本で安価なガラスの大量生産が始まった頃、イギリスではサッシ会社が設立されている。考えてみれば、私などサッシに憧れた世代である。
先述したように、アプローチが多角的なのでレポなり感想なり難しいのであるが、窓は外の世界と内の世界を隔て、かつ双方向に見ることのできる(最近、そうとも言えないが)唯一の手段なのかもしれない、と思った。
という中途半端な感想でした。
追記1:世界の窓「西京人《第3章:ようこそ西京に――西京入国管理局》」という映像がシュールでもあり現実的でもあるようで、とても面白かった。
追記2:「窓の家《窓に住む家/窓のない家》」(藤本壮介)が美術館前庭に。いつもはオブジェしかない前庭に建築物があってびっくり。ガラスの入っていない大きな窓がいくつもあり、中に入ると、外界のようでもあり、家の中にいるようでもあり、不思議な感覚。でも、天気もよかったせいか、とても心地よかった。

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コメント

最終日に駆け込むように、本日、鏑木清方の特別展に行ってきました。
このあと13時から花組芝居で『義経千本桜』の通しがあったので駆け足でしたが。
カタログがなかったので、絵葉書だけ数枚買ってきました。
3年後に没落50年の回顧展が予告されていましたね。
『鶴ハ』の絵があり、制作時期不詳とありましたが、モデルは初代水谷八重子かと想像しながら見てました。
とにかく、新派のお芝居(古典)が観たくなって仕方ありませんでした。
八つ墓村も良いのですけど…

投稿: うかれ坊主 | 2019年12月15日 (日) 16時58分

うかれ坊主様
鏑木清方展、日曜日が最終日だったのですね。
この展覧会は図録を作らなかったようです。かわりに大判の作品リストがありました。
3年後の予告は気がつきませんでした。情報、ありがとうございます。楽しみです。

新派は私も見たいのですが、歌舞伎に比べてどうしても優先順位が低くなってしまうのが残念です。

こちらへのコメント、15日にいただいていたのに、管理ページに入ってきたのが16日にいただいたコメントの後でした。ココログがリニューアルしてからコメントの受信がズレることが間々あり、公開が遅くなってしまってすみません。

投稿: SwingingFujisan | 2019年12月17日 (火) 22時44分

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