歌舞伎ミーハー観劇記

2017年8月16日 (水)

八月歌舞伎座第一部

812日 八月納涼歌舞伎第一部(歌舞伎座)
久々の歌舞伎。ず~っと11日だと思い込んでいて、前日にチケットを確認したら12日だった。
「刺青奇譚」
長谷川伸の作品だから泣けるのは泣けるのだが、それでも役者がよくなければ多分泣けない。中車さんと七之助さんがとてもよくて、何度もうるうるしてしまった。中車さんがとにかくうまい。歌舞伎役者としてうまい。先月も歌舞伎役者中車の進化に驚いたが、今月も、どれだけ努力を積み重ねていることかと感銘を受けた(精進の合間にカマキリ先生で昆虫愛を熱く語ったりもしている)。
七之助さんは玉三郎さんそっくり。何もかにも背を向け、捨て鉢にならざるを得なかった人生の苛酷さが暗い舞台から浮かび上がってくる。命を救ってくれた男(救われた時は余計なことをと思っただろうが)が他の男とは違うと知って、人生をやり直そうという希望が湧いてきたのではないか、そのためにはこの男にすがりつかなくてはならない、すがりついていたい、その必死な気持ちがまたこれまでの苛酷な生活を思わせた。男の方はいきがかり上、女を捨ててもおけない程度だっただろうが…。
扉を叩く音に、追手かと慌てて2人で逃げるが、尋ねてきたのは母と弟だった。逃げたと見せて外から様子を窺い、涙の再会があるかと期待したが甘かった。
猿弥さんの熊介がしつこくて面白い。

逃亡先の品川での貧しい暮らし。お仲は病に臥せっており、半太郎は相変わらずの博打。それでもお仲は半太郎の愛情を感じて幸せだったんだと思う。近所のおばさんがお仲の面倒をみている。芝のぶさんが、同じように貧しいだろうにお仲を放ってはおけない気の優しさを存分に見せて泣かせてくれる。
お仲は半太郎との暮らしに幸せを感じていたと思う。あんなに蓮っ葉だった女が床についているとはいえ、しっとりと普通の市井の女房になっている。ただ、半太郎がいつまでも博打をやめないことだけが気がかりで、死んでいく女房の一生のお願いだからと、半太郎の腕にサイコロの刺青をする。これを見て、自らを諌めとしてほしいと。半太郎は彫られている間、お仲の気持ちを感じて腕よりも心がさぞ痛かっただろうと思う。すまない、もう二度と博打はすまいと誓っただろうと思う。表情には現れていなかったが、黙って腕を差し出している中車さんの姿にそれが感じられた。

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2017年7月28日 (金)

七月歌舞伎座夜の部

723日 七月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)
やっと夜の部の感想。千穐楽を過ぎてしまった。
筋書きを買ったら、「花競木挽賑」に普段は見られない若手がたくさん(最年少・男寅クンまで)出ていたので嬉しかった。座席は宙乗り小屋の近くを取ったら、幕見席がふさがれていたので、後ろに気兼ねなく見ることができた。
「駄右衛門花御所異聞」
全体的な印象としては、いろんな歌舞伎から有名な場面を集めたパロディー集みたいな感じで、テンポよく、早替りを含めた海老蔵さんの大奮闘を楽しめた。
発端で巳之助、新悟、亀鶴、中車の4人が揃ったのが私的にはポイント(筋書きに写真載ってるね!)。
船で登場した海老蔵さんを見た時、久しぶりに花道脇で海老ちゃん独り占め状態になってみたいと思った。毎日心身を削るようにしての昼夜奮闘にもかかわらず、客には辛さは見せず(妻のお才に巡り合っての「持つべきものは地女房じゃなあ」とか、お才の死に際しての「来世はまたもや夫婦に」のセリフは切なすぎて、こっちがつらい、泣けた)、駄右衛門の大きさ、玉島幸兵衛の苦悩(兄は切腹、弟は斬られじゃこの兄弟かわいそう過ぎると思ったら秋葉権現のお守りのおかげで生き返ってほっとした)、秋葉権現の威厳、と海老蔵さんの魅力を十二分に伝えてくれた。

宙乗りが近くで見える席にして正解。勸玄クンを抱える姿に大きな愛情があふれ(海老蔵もおとうさんなんだ、と実感した)、勸玄クンはお父さんに抱かれて安心して自らを開いているような…感動の涙で2人の姿がぼやけかけ、慌てて拭く。勸玄くん、花道での「勸玄狐、おん前に」は拍手がおさまりかけてから叫ぶように言う余裕。ぴょんぴょん飛びながら本舞台へ向かう可愛らしさ。宙乗りでは客に手を振り、投げキッスを送り、何か大きな声で叫んでいた。海老蔵さんがブログに、勸玄クンもセリフを言いたいと言っていると書いていたのを思い出し、ああ、セリフを言ってるんだと思った。拍手と歓声が凄くて聞き取れなかったけれど、度胸も満点、将来が楽しみだ。
男女蔵さんはシワを描いたとくに横顔が左團次さんにそっくり。悪役側としてもっと活躍するのかなと思ったら案外あっさり斬られてしまったわ。
児太郎クンも遠目では福助さんによく似ている(顔がというより、動きも含めた姿が)。児太郎クンの悪女はとてもカッコよかった。余裕たっぷりのワルぶり、金の亡者ぶり、しかし本当は夫を思うあまりのそれであった。という心の表し方がよく、また後ろ姿がちゃんといい女に見えたことに感心した。夫に斬られる表情があまりに切なく、お才も生き返ってほしいと期待した。この好感度のまま過剰演技にならないように、と願う。

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2017年7月15日 (土)

七月歌舞伎鑑賞教室:「一條大蔵譚」

711日 歌舞伎鑑賞教室(国立劇場大劇場)
半蔵門駅から国立劇場までわずか歩くだけでもユーウツになる。運動不足、こんなことじゃいかん、と自分を叱咤しながら、半蔵門駅に新しくできたエスカレーターをつい使ってしまった(多分、次も使う)。
「歌舞伎のみかた」
場内真っ暗になると学生がどよめく。亀蔵さんの姿がセリに浮かび上がり、盆がまわり、大小のセリが上下しながら舞台は平らになる。尺八によるBGMがちょっと時代劇を思わせる(あの音楽、聞いたことあるようなないような…)。舞台両脇には電光掲示板があり、キーワード(回り舞台、セリ、花道、上手・下手、黒御簾、ツケ、女方、見得、義太夫節、竹本)が表示される。ちなみに、「女方」は「形」ではなく「方」と書くのが本来だとどこかで見たので私もなるべく「方」を使っているが、電光掲示板でも「方」となっていた。
亀蔵さんはバツグンの声、滑舌でオーソドックスながらそれらキーワードをてきぱきとわかりやすく説明する。
黒御簾の中を見せてもらうのは久しぶり。いつもながら狭い空間だ。今回は三味線3人、鼓2人、太鼓1人、唄3人。三味線さんが去って大太鼓が入る。大太鼓は自然現象を表す。「大蔵卿」の屋敷の場面の音楽は雅楽をイメージしているのだそうだ。
この後、竹本+ツケ+驚いた演技/見得を亀蔵さんが披露。「本朝廿四孝」から白須賀六郎のセリフ(かな?)と「国姓爺合戦」の虎との立ち回り(黒御簾も加わる)の実演があった。やはり虎が出てくると盛り上がる。最後に浄瑠璃・三味線・ツケに加え虎の紹介があった。「虎クンです」との亀蔵さんの紹介に虎クンが立ち上ってお辞儀をしてひょこひょこ後ろの幕に引っこむ姿がウケていた。

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2017年7月13日 (木)

七月歌舞伎座昼の部

79日 七月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)
外は暑く、歌舞伎座内は寒く…。幕間にあたたまりに外へ出たほど。
いつもの座席が取れなかったのだけど、今回の席もなかなか良い。8月も同じ席を取らざるを得なかったが、やはり「いい」と思ったら、今度からその席を狙うかも。
「矢の根」
季節はまったく逆だけど、右團次さんにぴったりの演目ではあるよね。右團次さんの「矢の根」は2年前の5月明治座以来。寝ている間も力が漲っているなど、大らかで荒唐無稽で、いろいろ見どころがあって楽しめる。ミーハー的一番の見どころは仁王襷の結び直しで、毎回、後見さんのてきぱきと力強い働き、仕上がり直前の三味線さんとのアイコンタクトがたまらない。
九團次さんの大薩摩文太夫は「らしさ」があった。
笑也さんはいかにも夢の中に登場したという、独特の透明感が活きた。
弘太郎さんはコミカルで、楽しい笑いをもたらしてくれた。
「盲長屋梅加賀鳶」
花道は4人(右團次、巳之助、男女蔵、亀鶴)までしか見えないので、ツラネはほぼ声のみ。先頭右團次、しんがり左團次で若手からベテランまでなかなかの顔ぶれ。でもセリフは黒御簾音楽と重なってあまり聞こえなかった(これまでに何回か見ているが、いつもそう)。男寅クンは横顔がおとうさんに似てきたなとか、秀調さんのこんな役は珍しいようなとか…。
梅吉は顔の色が濃くて、道玄と同じに見えた(光の加減かしら?)。暗くて凄みがあったが、「自分を殺してから行け」といきり立った男たちを止めるくらいだからそれくらいの凄みはあった方がいいのだろう。
松蔵は中車さん。あんなに忙しそうなのに、どんどん歌舞伎を吸収していってるのがすごい。落ち着いた演技で大きさも感じさせた。これも毎度同じなんだけど、殺しの現場でほぼ証拠となるような品を手に入れながらそれを道玄に返してしかも10両を与えるのは未だに納得できない。
道玄は、7年前に見た團十郎さんがめちゃめちゃ面白かった。團十郎さんの大らかで愛嬌たっぷりな悪党ぶりとはずいぶん違うけれど(もうああいう役者さんは出てこないだろうなあとあらためて残念、寂しく思った)、海老蔵さんにはふてぶてしさ、松蔵にやり込められた時のカクッときた感じ(ここ、なんだかとってもよかった)などに愛嬌があった。久々に<やんちゃな海老蔵>、<海老蔵のやんちゃ>を見た気がして、嬉しい。御茶ノ水坂の場面は海老蔵さんのセリフ回しが幸四郎さんにとても似ていた。
齊入さんは海老蔵さんとの年齢差がどうかなと懸念したけれど、完全に杞憂。世の泥水をたっぷり飲んだ感じは海老蔵さんより上だけれど、この悪党カップルには違和感がまったくない。
笑三郎さんのおせつはしっとりとしており、なぜこんなDV男と結婚してしまったのか、哀れであった。大詰一場での折檻の場面はなく、いきなり縛られて転がされていた。折檻は気持ちのいいものではないので、まあいいか。
立ち回りは面白いが、これもいつも同様、やや長いと感じた。
江戸の市井の話は面白い。

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2017年6月25日 (日)

六月歌舞伎座昼の部

624日 六月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)
今月は昼の部のほうが後になった。いつも何となく昼の部を先に見ているけれど、やっぱりそういう順番の方がいいのかしら。昼の部だから、ちょっと寝落ちした部分もある。でも昼の部の割には頑張れた方だと思う。
「名月八幡祭」
この芝居はどうしても好きになれない。三次(猿之助)はクズだし、クズとわかっていながら離れられず新助をなぶる美代吉(笑也)は深川芸者の風上にもおけないし、純とはいえだまされる新助(松緑)にもハラが立つし。いや、新助には心から同情しているのよ、いるけど、魚惣(猿弥)に注意されていたのに…って悔しく思ってしまう。
前に見た時の三次は錦之助さん、美代吉は芝雀さん、魚惣は歌六さん、新助は吉右衛門さんだった。正直、ドラマとしては前回のほうがよかった。三次にはいかにも女が放っておけないヒモとしての魅力があったし、美代吉はその場その場の身勝手さにまわりが振り回されるという感じで、悪意のある女には見えなかった(「田舎の人にはうっかり口もきかれない」のセリフがまさにそれを具現していた)。吉右衛門さんの新助には美代吉に運命を狂わされそうな危うさがあった。
松緑さんは江戸っ子らしい竹を割ったようなところが魅力だと思っているので、田舎者の役はどうかなと懸念したが、案外よかった。すべてを失っての絶望が凄まじく、胸が締めつけられるようだった。
笑也さんは透明感があるせいか、ちょっと冷たいのかもしれない。その場その場の身勝手さがあまり見られず、ファム・ファタル感が芝雀さんに比べて薄い。三次に対する気持ちはどうなんだろう。主導権を握っているようで、逆に三次が美代吉のオム・ファタルのような気もする。
猿之助さんは確信犯的に三次のクズぶり(ほんと、ハラ立つわ~)を見せていた。
魚惣は大きさと、新助に対する思いやりと同じ猿弥さんが演じた釣船三婦と重なるものがあった。絶望の新助に対する弱っちゃった感に共感を覚えた。
藤岡慶十郎は坂東亀蔵さんだが、真面目なイメージがこの役には合わないと思った。
江戸の風情はよく感じられるが、なにしろ後味の悪い芝居である。
「浮世風呂」
いや~な気分の後に、楽しくてスッキリした。
幕が開くと真っ暗で鶏の声が聞こえると朝日が差し込むという効果的な舞台。
猿之助さんの踊りは見ているだけでウキウキ引き込まれる。
種之助クンのナメクジは適度な色気があってかわいい。種之助クンは立役としての成長目覚ましいが、女方としてもぐんとよくなった。うちの風呂にもよくなめくじが出てくるんだけど(いったいどこから湧いて出るのよ)、こんなかわいいナメクジなら…、いや、ほんとイヤダだ、ナメクジは。

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2017年6月18日 (日)

六月歌舞伎鑑賞教室:「毛抜」

615日 歌舞伎鑑賞教室(国立劇場大劇場)
6
16日 外国人のための歌舞伎鑑賞教室(同上)

15
日は眠くて眠くて…。場内もあまり盛り上がらず、ここぞという時にも拍手は起こらず、役者さんもさぞ拍子抜けだったことだろう。学生にそれを求めるのは無理としても、私も含めた大人の観客が拍手すればよかった。なんか、率先して拍手する空気でもなかったのよね。
一転して16日は笑いも拍手も、そうでなくっちゃという感じで、舞台と客席との一体感が生まれたような気がした。
「毛抜」は私が見始めてから鑑賞教室では3回上演されている。歌舞伎初心者にわかりやすい演目で鑑賞教室向けなんだろう。
「毛抜」
3
回のうち2回は錦之助さん。前回は12年も前の2005(平成17)年のことで、まだ信二郎時代だった。当時のプログラムを見たら、秦秀太郎と八剣数馬の真剣勝負を止めるのは腰元若菜だった(愛之助さんが鑑賞教室でやった時も若菜だった)。調べてみると、若菜が出る時と出ない時とあったが、去年の浅草も歌舞伎座も若菜は出ず、止め役は巻絹だったので、若菜のことはすっかり忘れていた。
ついでながら、3回のプログラムの表紙の弾正はすべて同じポーズで(目の寄せ方が違う)、題名の下には大きな毛抜きが<踊って>いて、前2回は弾正のみ、今回は巻絹が隣に立っている。
弾正のあの大らかさは何と言っても團十郎さんで、本当に惜しい役者さんを失ったと改めて悲しくなった。でも錦之助さんも明るく大らかで、真面目な面とともに愛嬌も感じられたし、前回は團十郎さんに教わったままという感じだったが、今回は発声も含めて錦之助色が出ていて安定感もあった。「外国人のための」では、錦の前の髪の毛が逆立ったのを見て驚く弾正に笑いと少し拍手が来て、秀太郎の手を取りなでると笑い、秀太郎に振られると又笑い、巻絹を口説いて振られる場面でも笑い。「面目次第もござりませぬ」では15日には無反応だったが、16日は拍手と笑いが起きたのでほっとした。錦之助さんも16日のほうがノっていたかもしれない。浅草歌舞伎でよくカメちゃんなんかが言ってたけど、役者と客席はキャッチボールだってこういうことよね。客席のウケがよいと、弾正の痛快さも際立って、カッコよく見える。

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2017年6月17日 (土)

六月歌舞伎鑑賞教室:歌舞伎のみかた

615日 歌舞伎鑑賞教室(国立劇場大劇場)
6
16日 外国人のための歌舞伎鑑賞教室(同上)

連日になってしまったが、記憶が新しいうちに外国人のための教室が見られたのはよかったかも。
16
日は半蔵門線にやけに外国人が多い。そうか、みんな国立か。って自分もそうなのに、なぜか一瞬ピンとこなかった。
全体的なことを言うと、両日とも3階席はかなり空席が目立った。15日は学生の反応がいま一つ、ココ拍手でしょという場面でも拍手は聞こえず、役者さんとしても拍子抜けじゃないかなと気の毒に思った。それなら自分が率先して拍手すればいいんだけど…。16日は大いに盛り上がった。両日分まとめてレポするので、わかりにくかったらごめんなさい。
「歌舞伎のみかた」
場内真っ暗になり、「歌舞伎という未知の世界へご案内します」という隼人クンのアナウンス。これまでは学生が反応してどよめくのだけれど、開幕前の喧騒を引きずったまま、そういう感じでもなかった。舞台中央にスポットライトが当たり、隼人クンが浮かび出る。そこはさすがに「おお」という空気。しかしその後は、いつものようにぴた~っと静かになるでもない。学生は歌舞伎初めてという子が多く、盆、舞台の奥行の広さ、セリに一つ一つ反応していた。隼人クンの説明は7年前壱太郎クンと一緒にやった時に比べてずいぶんこなれていて(7年前はフレッシュだった)、自分の言葉で客席に上手に語りかけていた。外国人のための教室では下手にライトが当たり、通訳の木佐彩子さんが登場、英語で自己紹介と隼人クンの紹介をすると、スッポンから隼人クンが出てくる。木佐さん、定式幕を「カーテン」と言っていた(日本語で「カーテン開けていただいていいですか」とか)。そうか、幕はカーテンか、と妙に感心してしまった。外国人の反応の良さは想像できたが、日本語の説明でも反応がよかったから、日本人観客も楽しんでいたんだと思う。「外国人のための」では通訳がつく分、隼人クンの説明の時間が短くなるわけで、学生にウケていた盆、舞台の奥行、セリの説明はなかった。その他はおおむね一緒。
花道、柝、黒御簾、ドロ(太鼓)、ツケ。ツケに合わせて立役の走り、女方の走りを実演してみせる。女方ではしなしなと走って真ん中で転ぶと両日とも客席から笑いが起きた。歌舞伎が男性だけで演じられていることを知らない外国人がけっこう多くてちょっと驚いた。女方の姿勢の作り方は「外国人のための」では大いにウケていた。これは「歌舞伎のみかた」ではよく取り上げられるのだが、そのたび、女方さんは大変だなあと思う。隼人クンも、こういう無理な姿勢を保って演じるので、女方の体や動きに注目してほしいと学生に訴えていた。

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2017年6月13日 (火)

六月歌舞伎座夜の部②

611日 六月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)
夜の部の続きを。
「一本刀土俵入」
幸四郎さんの茂兵衛はどうかなと個人的にはちょっと懸念があったけれど、完全にそれは吹っ飛んだ。とてもいい茂兵衛だった。いや、これまで見た中でベストの茂兵衛かも(見るたび、ベストと書いているかもしれないけれど、その時その時で感動するから…)。取的の時は大らかで自然な朴訥さがユーモラスでもあり悲しくもあり。猿弥さんの弥八と川べりでやり合う場面は手のつけられない悪ガキと心やさしい空腹ののっそり坊やみたいで幸四郎さんも猿弥さんも楽しんでいるように見えた。
猿之助さんのお蔦はすさんではいても、捨てていないものがある。前に見た時は後姿に寂しさが隠しきれずに滲んでいたけれど、今回はそれに加えて強さのようなものが感じられた。お蔦は最初に見たのが福助さん、それから芝雀さん、そして今回が3回目となるカメちゃん(2年前の魁春さんは見ていない。前2回の茂兵衛は、勘太郎・中車さん)で、こうなるとやっぱり私にとってのお蔦は猿之助さんなんだよね。
我孫子屋の2階と外でのお蔦と茂兵衛のやりとりを聞いているうちに泣けてきた。ちょっと笑いもあったりしてまだ感動する場面じゃないかもしれなかったけれど、2人の言葉の行間に込められた気持ちがびんびん伝わってきて、泣けてきたのだ。
10
年後。老若船頭(錦吾、巳之助)、船大工(由次郎)の3人がのどかな空気の中に生活感を醸し出していて、場面転換の後の世界に入りやすかった。あんなにのっそりしていた茂兵衛がどっしり立派な(と言うのもおかしいが幸四郎さんの大きさに「立派」と言いたくなる)博徒になっている。暴れん坊の弥八もいっぱしの親分になっている(猿弥さんが10年前も含めてうまい)。一方、あのすさんだお蔦は細々ながらすっかり地道な生活を送り、いい母親になっている。利根の渡しで子守女に背負われていた赤ん坊が母親のお手伝いをする少女になっている。茂兵衛の変化よりもお蔦の変化よりも、私はお君の成長に10年の日々が経ったことを痛感した。子守女が背中の子はお蔦が生んだ父なし子だと茂兵衛に答えたあの場面の茂兵衛が鮮明に思い出されたから。
「思い出したっ」は、今回はお蔦の家の門口で茂兵衛が相手を頭突きした時。この頭突きは見るたびタイミングが違うような気がする。

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2017年6月12日 (月)

六月歌舞伎座夜の部①

611日 六月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)
最近、1日中眠くて眠くて、夜の部だって寝に行くようになるんじゃないかと不安だったけれど、全体的に意外に頑張れた。
「鎌倉三代記」
この演目意外にも4回見ているらしい(1度はリピート)のに、とにかく苦手な演目で、まともに起きていられたことがない。当然今回も不安で、夜の部は上演時間が長いからパスしようとも思ったが、案外頑張ることができた(途中、多少寝ました)。チラシで先にあらすじを読んでいたせいか、話のとっかかりがわかり、またセリフや前半の義太夫も思いのほか聞き取れた。そうやって見てみると、ほとんど動きのない芝居(だから眠い)というのはまったくの思い込みであった。
雀右衛門さんの時姫、松也さんの三浦之助、バランスは悪くない。雀右衛門さんが若々しくてきれいで夫を思う心が可愛い。父と夫の板挟みに苦悩する心情にはうるっときた。夫は他人、父は血族と思うのだけれど、結局は父を討つ決意をする時姫。松也さんは重傷でありながら時姫の真意を測り、父親を討つことを決意させるという難しい役どころだったが、瑞々しくてニンに合っていたと思う。
秀太郎さんの長門は短い出番ながら長門という人の気概を見せていた。
暖簾の陰に藤三郎の幸四郎さんの姿がちらっと見えた時拍手が起きかけたが、幸四郎さんは一度引っこんでしまった。すぐに出てきたが、拍手はためらいがちにぱらぱらと。藤三郎はあまり愛嬌は感じられなかった。そのかわり高綱は幸四郎さんらしい大きさが圧倒的だった。
おくる(門之助)がよかった。突然自害して私は驚いたけれど、登場人物は誰も驚いていなかった。忠義のために死んでいく者の哀れを感じた。
ところどころ、ちょっと尼ヶ崎閑居に通じるものがあるような気がした。
「御所五郎蔵」
両花道はやっぱりいい。とは言っても私の席からは仁左様は斜め後ろ姿しか見えなかったし、子分たちは声のみだったけれど。それでも仁左様はずっとカッコよかった。本舞台で全部見えるようになったら、肩をそびやかしたスッキリほっそりの姿のまたカッコよさ。左團次さん(土右衛門)との達引は緊張感が溢れていて面白かった。
五郎蔵は誰が演じてもあまりお利口に見えなくて、気持ちはわかるけど共感できない、皐月の気持ちをわかってあげて…と、この演目はあまり好きになれないのだが、仁左様の五郎蔵は違った。皐月の去り状を2度読み、2度目はじっくり目を通して皐月の本心を測っている様子。そこへ皐月が姿を見せ、縁切り。五郎蔵と一緒じゃ一生楽できないからと言われた時の「そりゃあまりに情けないぜ」といった表情が印象的だった。そしてだんだん怒りがこみあげてくる。そこへ至るまでの心情に今回は共感、いや同化さえできたのは自分でも意外だった。皐月の気持ちをわかってあげてよ、というのは今回も同じだが、腹立ちゆえにそれが見えなくなっている男伊達の意地、せっかく皐月が工面した二百両を受け取らない意地がよくわかる。
一方の皐月(雀右衛門)も本心を隠して縁切りする辛さが哀れだった。
逢州の米吉クンは顔に幼さはあるものの、五郎蔵をなだめる必死さに皐月を思う心が感じられ、その場をおさめる貫録のようなものも見られた。
左團次さんは不気味さと、皐月にぞっこんの男の心情をうまく見せていた。一緒に歩かないとイロになった甲斐がないという土右衛門はいつもかわいいところあるなと思う。
五郎蔵の子分として吉之丞さんが出ていたのでほっとした(四月の休演以来どうしたかなと心配していたので)。


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2017年5月30日 (火)

五月大歌舞伎夜の部

527日 五月大歌舞伎千穐楽夜の部(歌舞伎座)
やっと倅マン見られるよ。眞秀クン初お目見えはマスコミで話題だけれど、新・亀三郎誕生だって歌舞伎ファンにとってはとても大事。だから楽しみにこの日を待っていた。以下、思い出すままに。
「壽曽我対面」
・浅葱幕のお約束事はなく、いきなり振り落されると、工藤祐経(菊五郎)もすでに高座に着いている。途中から見せられたためなんか中途半端な気分がしたが、芝居が進むにつれ、面白くなってきたからそれも忘れた。
・楽善さん(小林朝比奈)のセリフがいい。こんなでっかい朝比奈は初めてかも。
・菊五郎さんの工藤もデカくて、ちょっとどきどきするような色気があった。
・一段といい声が聞こえるなと思ったら新・亀蔵さん(近江小藤太)だった。
・十郎・五郎登場の時の並び大名の「あーりゃーこーりゃー」の声がすごく大きい。襲名祝いの威勢かな。
・新・彦三郎さんの五郎は、祐経への恨み、怒りがすさまじい。若さが溢れている。
・時蔵さんの十郎は五郎が盃を取ろうと構えている間、いざという時に備えた緊張感に兄らしさがあった。
・権十郎さん(鬼王新左衛門)が幼い新・亀三郎クンの手を引いて花道から登場すると、微笑ましさと気分の盛り上がりでちょっと興奮した。本舞台で、亀三郎クンが客席の方を向いて座ると、権十郎さんが向きを少し舞台寄りに直す。一緒にセリフを言う亀三郎クン、しっかりしていてかつ可愛い。大叔父さんも可愛くてしょうがないだろうなあ。

工藤が富士の巻狩りの切手を兄弟に与え、「さらば」で芝居が終わると、菊五郎さんが高座から降りて舞台中央へ進み、並び大名と梶原(家橘・橘太郎)を除く全員が並んで座る。口上だ。
・菊五郎:今回の團菊祭を父・梅幸23回忌、大叔父(?)羽左衛門17回忌にしてはどうかと松竹から勧められた。70年来の友人彦三郎さんが初代楽善、江戸歌舞伎の大事な名前彦三郎は亀三郎さんが、そして亀寿さんは亀蔵になる。いまひとつのご紹介は彦三郎さんの長男侑汰クンが亀三郎になったこと。
・以下、時蔵、萬次郎、梅枝、竹松、松也、権十郎さんがお祝いの口上を、楽善さん、彦三郎さん、亀蔵さんが挨拶と感謝を述べた。幼い亀三郎クンは名乗りを上げ「よろしくお願いいたします」と大きな声で立派に口上を務めた。最後に客席を見上げてお辞儀する姿が堂々としていて感心した。


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