歌舞伎ミーハー観劇記

2017年4月27日 (木)

四月歌舞伎座昼の部

421日 四月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)
体調が悪くて頭痛がひどく、かなりの時間目をつぶっていたし、そうなると眠くもなるし、ということで、まともな感想にならないから書くのやめようかとも思ったけれど、一応それも記録として書いておこう。いつもだと、そのまま頭痛が45日から1週間続くのだけど、今回はなぜかこの日だけの痛みだった。
この日はいつもの席が取れず(3Bは女子高生たちがいっぱいだった)、やむを得ず花道がほとんど見えない席になってしまった。なぜこの日にこだわったのか自分でもわからないけれど、思いがけない人に会えたから、この日を取ってよかった。
「醍醐の花見」
淀殿(壱太郎)と松の丸殿(笑也)の女の争いは面白いが、秀吉(鴈治郎)は秀次の亡霊が登場するまではなんとなく手持ち無沙汰な感じがした。鴈治郎・扇雀・笑也・門之助・右團次という昭和3438年生まれの中堅に45年生まれの笑三郎(笑也さんより11年も若いとは知らなかった、落ち着いてしっとり見えるから)、そして松也を筆頭とする若手の踊りをなんとなく楽しんだ。
「伊勢音頭恋寝刃」
いきなり「追駈け」から始まるのはともかく、舞台だけの追駈けかあ。こっちは3階だから客席に降りようが関係ないのだけれど、劇場全体の盛り上がりとしてはちょっと残念な気もする。橘三郎(大蔵)・橘太郎(丈四郎)の両橘は、橘三郎さんが持ち味とのギャップ、橘太郎さんは元々の持ち味が活きて面白かったが(女子高生に大ウケしていた)、私が見た中では松之助(大蔵)・當十郎(丈四郎)コンビが一番(平成237月松竹座)。隼人クンの林平はけっこう頑張っていたと思う(それにしても体がデカい。化粧のせいか、おとうさんによく似ていた)。
米吉クン(お岸)がきれいでかわいかった。秀太郎さん(今田万次郎)はお江戸の役者の中でさすがの上方色だし、じゃらじゃらしたつっころばしが本当にぴったり。ただ、米吉クンとのバランスはどうなんだろう。染五郎さんはビジュアル的には貢そのもので、「二見ヶ浦」ではカッコよかったのだが、「油屋」ではこの役を教わったという仁左様とはどこか違う。声のせいか、よりヒステリックなような気もした。でも凄惨な場面は、染五郎さんの清潔さによって美しく見えた。お鹿(萬次郎)との場面は私の中では意外に盛り上がらなかった。
肝心の万野(猿之助)の意地悪は最初の方だけで、途中から頭痛に耐え切れず寝た。万野が斬られるところはちゃんと見たけど、昼の部はこれが眼目だったのに、悔しい。喜助(松也)の刀のすり替え場面も見逃した。梅枝クンのお紺は染五郎さんとのバランスはいいが、まだ若いように思った。

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2017年4月19日 (水)

四月歌舞伎座夜の部

416日 四月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)
歌舞伎はすご~く久しぶり(先月28日の俳優祭以来)。出かけるのが億劫になってきて生活不活発症候群になってるんじゃないかと心配だけど(そうは言いながら美術展に行くから大丈夫か)、やっぱり歌舞伎は見ると面白い。一番しっくりくる。とその都度しみじみ思う。
「傾城反魂香」
1
月に浅草で見た若手のもよかったけれど、大人の芝居を見たという感じ。
全体として、土佐の苗字はそう簡単に名乗れるものではない、絵の実力がなければ与えられるものではないというコンセプトを、今回は強く感じた。
又平夫婦の思いつめた様子、弟弟子に先を越されたショックは察するに余りある。物見を命じられた又平が張り切って愚鈍なほど忠実に職務に従う姿に、又平の思いが込められている。それなのに追手の役目は修理之助が言いつかる。修理之助にしがみつく又平の思いに胸が痛くなる。その一方で、やっぱり絵で勝負しようよと突き放そうとする自分がいる。そしてそれは多分又平自身もわかっていて、ハンデを背負った苦しみゆえに、絵師として認められないのはハンデのせいだと思い込んでいる、いや思い込もうとしている。本当は思うような絵が描けないから死を覚悟したんじゃないかなんて…。こういう芝居は、3階ではなく表情がよくわかる席で見たほうがいいのかもしれないな。
吃音は当時は今より多かったのではないかと思うが、それでもカタワとみられる悲しさには切々としたものがある。又平夫婦がその宿命を呪ってはいても、土佐将監は決して又平をそういう目で見ていないのではないかと思った。身体的ハンディを甘やかすことなく、卑屈にならずに早く絵師としての腕を示せと内心叱咤激励していたのではないか。実際どうかわからないけれど、歌六さんの将監からはそんな印象を受けた。
絵が抜けたのを確認し、又平の力を認めた将監に又平に着せる正装をもってくるように言われた北の方(東蔵)が奥から「はい、はい」と返事をするその声が心から嬉しそうで、胸が熱くなった。
菊之助さんのおとくはいい女房だと思うし、まっすぐ丁寧に清らかに演じていて好感がもてたが、くどいくらいの細やかな愛情、心遣いはやっぱり雀右衛門さんだよなあ。芸風の違いと言えばそういうことかもしれないけど。
錦之助さん(修理之助)、又五郎さん(雅楽之助)がニンも合っていて、それぞれの役をきっちり摑んでいてよかった。
「桂川連理柵」
上演記録によれば私は見たことがないはずなのだが、なんとなく記憶があるような、ないような。多分、初めて見るんだろう。
吉弥さんの強欲でずるくて意地悪なおばばぶりが面白かった。歌舞伎としての品は崩さず、あれだけの根性の悪さを見せるなんて、吉弥さん、恐るべし。とは言え、長右衛門の女房役をやってもさぞよかったんじゃないかしらと、なんかもったいない気もした。染五郎さんはちょっとやり過ぎかと思うくらいコミカルに弾けていて、大いに笑わせてもらった。
コミカルと言えば、壱太郎クンの丁稚長吉がまた面白くて。前髪の色事を並べ立てた時は「うん、うん、確かにあれもこれもそうだ」と内心スカッと盛り上がったし、客席も湧いていた。壱クン三枚目としての素質もあるなあと考えたら、お父さんが鴈治郎さんだものね。ただ、お半のほうはいまひとつピンとこなかった。

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2017年4月 6日 (木)

3月分③:三月大歌舞伎夜の部

326日 三月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)
28日の俳優祭はコーフンの冷めぬうちにアップしたし、3月分の積み残しは、これで全部。
またまた事情があって「引窓」はパス。ぎりぎり終わる頃歌舞伎座に入ったら、扉の外に音が聞こえるし、雰囲気が感じられて、やっぱり見たかったなあと残念に思った。
「けいせい浜真砂」
藤十郎さんが、そこにいるだけで存在感の大きさを示していた。ただ、声が小さくて、黒御簾さんも遠慮してずいぶん音を控えていたが、それでも聞き取りづらい部分がかなりあった(「絶景かな」とか「心地よい眺め」とかは聞こえた)。こっちの耳も老化しているからね~。というわけで、筋書き読むまでは話の内容がわからなかった。
仁左様登場。背が高く、すっきりとかっこいい。仁左様がセリあがったらその分山門も上がるから、3階最後列ではついに藤十郎さんのお顔が見えなくなった。この席はとても好きなのだけど、弁天小僧の大屋根なんかも、上の虹梁(?)の中に入ってしまうと全然見えなくなるのが難点。ま、しょうがないか。
鷹が運んできた手紙の縁が赤かったのや、藤十郎さんが投げたのが手裏剣ならぬ簪、というところで女五右衛門の雰囲気を盛り上げた。
「助六由縁江戸桜」
立見がたくさんいた。やっぱり「助六」は昂揚するよなぁ。
口上の右團次さんは古風かつ名跡な口跡でわかりやすかった。「河東節300年をお祝い申し上げます」と丁寧に言っていた。
並び傾城が若手勢揃いで目を楽しませてくれる。私としては新悟クンの声のきれいさに酔い(ほんと、新悟クンの声好き)、梅丸クンの愛らしさにたまらん…(ほんと、めちゃくちゃ可愛いんだから)。でも、右近クンの構えというのか肩や腕の上げ方・角度が一番かっこいいと思って見ていた。傾城の粋・意地みたいなものが感じられて(立役もやるからか)。
揚巻の雀右衛門さん、江戸随一の傾城であり江戸一のいい男の恋人であることの誇りに加え、情の細やかさがにじみ出ているのがこれまでの揚巻とはちょっと違うような気がした。また、意休への啖呵もきっぱりしていて、優しい雀右衛門さんの意外な一面を見た感じがした。とても好感のもてるいい揚巻だ。
歌女之丞さんが手紙を持ってきた時、前回公演時(20136月)の文使いは歌江さんだったんだよなあと、その姿がはっきり脳裏に甦った。前回は通人だって三津五郎さんだったんだし…。
白玉が梅枝クンだったのには驚いた。大抜擢。堂々としていて立派。雀右衛門さんが並び傾城→白玉→揚巻コースを辿ったことを思うと、いずれ梅枝クンも揚巻をやるかしら。
助六の出の所作は花道七三より奥だと見えない。下駄の音だけで想像する。助六が本舞台に登場するまでの間、意休の存在を完全に忘れていた。ほんと、「あっ、いたのか」というくらい。

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2017年4月 3日 (月)

3月分①:「続 新説西遊記」

325日 若手舞踊公演SUGATA「続 新説西遊記」(神奈川芸術劇場大スタジオ)
去年の「新説西遊記」はKAAT遠いし、で何となくスルーしてしまった。そうしたら梅丸クンの歌舞伎夜話でその話が出て、俄然見たくなり(単純にまるるの金髪が見たいという不純な動機)機会を窺っていたのだ。23日から26日の公演で26日は完売、25日も「完売」の貼り紙が出ていた。
KAAT
は「国民の映画」以来2度目。乗り換えは1回のみで済むけれど、やっぱり遠い。でも横浜の明るい開放感にはほっとする。自由席なので早めに行きたかったが、30分弱前くらいに劇場に着いた。行列‼ ゲッと思ったら同時期にやっていた「オペラ座の怪人」の行列だった。こちらのスタジオは小ぢんまりとしていて、どの席からも見やすそう。花外の席にしようかずいぶん迷って、結局通路際ではなかったが最後列にした(まだ席を選ぶ余裕があった。ギリギリで来た人は係の人が空席をみつけて案内していたし、複数で来ても並び席は取れなそうだった)。全体がよく見えたのは正解だったけれど、表情を見るにはやっぱりオペラグラスを使ったし、照明が暗いので前のほうが迫力は感じられたかもしれない。

開演が近くなったら上手側2階席(歌舞伎座で言えば西側席)に演奏家が座ったのでびっくり。オープンな黒御簾というところか。
全般的な印象は「趣向の華」の延長。だから、なおさら嬉しい思いがした。

あらすじ(KAAT HPより):魔界の妖怪・青袍怪は、天界に住む美しい天女・春蘭に恋をしている。春蘭には三蔵法師という想い人がいることを知った青袍怪は、二人の逢瀬が二度と叶わないように三蔵法師を亡き者にしようと策を練る。ところが、青袍怪の姉の赤袍怪は、実は三蔵法師に思いを寄せているのだった。青袍怪は春蘭をおびき寄せるために、宿屋の主人に姿を変えて三蔵法師一行を招き入れ、赤袍怪はそれに協力するかわりに、妖術で三蔵法師を蓮の花に閉じ込め、永遠に自らのもとに置こうと企む。

青袍怪(藤間勘十郎)が春蘭(花柳凜)に言い寄って、私には三蔵様がいると拒否されて、三蔵に恨みを抱くのが発端→猪八戒役の鷹之資クンの口上。声がよく、ユーモアも交えて楽しめた(鷹之資クンが劇中で食べているのは…と宣伝していた江戸清の肉まん、食べたかった~)→幕が開くと板付きの三蔵法師(尾上菊之丞:やっとこのお名前に慣れた)、沙悟浄(玉太郎)、孫悟空(梅丸)、猪八戒が義太夫で紹介される。という始まり。

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2017年3月28日 (火)

楽しくて楽しくて俳優祭、頭痛もとんだ

328日 第8回俳優祭夜の部(歌舞伎座)
先週末から頭痛がひどくて、なんかいつもより気分が盛り上がらないまま出かけたのだけど、行けばやっぱりテンション上がるよね~。もう楽しくて楽しくて、気がついたら頭痛のことなんてすっかり忘れていた。次も絶対行きたいな、なんて現金なもので。
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月にNHK Eテレで放送があるので、簡単に(放送は43021時~。必見ですぞ)。
「二つ巴」「石橋」
「二つ巴」は仮名手本忠臣蔵の七段目と十一段目を題材にした舞踊。素踊りの魅力を堪能した。
前半の七段目、仲居3人(門之助・笑也・笑三郎)は目で見る姿は男性なのに頭の中ではちゃんと女性に見える。中でも私は門之助さんが一番女性らしい情感がにじみ出ているようで好もしく思った。由良之助(芝翫)とおかる(扇雀)の間が濃密なのは、身請けを舞踊で表現しているからかしら。芝翫さんもいずれ、由良之助を持ち役にするんだろうなあと思った。
十一段目は立ち回り。塩冶浪士はみんな凛々しいけど、まるるの凛々しさがまぶしい‼ 歌昇・種之助・萬太郎(塩冶浪士) vs 松緑(小林平八郎)で「おいしい」とテンション上がったら、3人は竹森喜多八(亀寿)と交替して、この段一番の例の立ち回り。スピード、力強さ、「とーっ」などという掛け声も豪快で見応え満点だった。男女蔵さん、おつむがごま塩で、若手の中で存在感が目立った。
「石橋」は扮装での舞踊。鳶頭の又五郎さんがスキッとカッコいい。又五郎さんのこういう役はあまり見ないと思うが、俳優祭では普段見られない役どころで俳優さんが出てくるのが興味深い。
鳶頭が若い者と絡んだ後、白毛の仔獅子がセリ上がってくる。松也・巳之助・隼人・橋之助の4人。オペラグラスを誰に当てたらいいのか、あっち見てこっち見て、全体も見たいし。そのうち赤毛の仔獅子が4人花道から出てきた。私の席からは花道がほとんど見えないのよね、残念ながら。赤毛は壱太郎・児太郎・尾上右近・米吉の4人。娘獅子という感じかな。8人の毛振りは若さにまかせて舞台狭しとモーレツ。決めのポーズはさすがに右近クンが一番きれいだと思った。
模擬店説明
実行委員の亀三郎さんが出てきて「本日、亀三郎最後の日です」。この説明を聞かないで席を立つ人が多々いて、「だいぶ立っちゃいましたね」とカメ兄もしょうがないなあという感じ。お買い物は金券で、金券は今日中に使い切って…あ、金券は売り切れているので、大きな声では言えないけれど、現金でもい・い・よ。写真コーナーの説明とか、次のお芝居に出る役者さんは途中でいなくなるからとか。まだ喋っているうちに又席を立つ人が続々で、「まだ終わってない」とのカメ兄の声は響く。みんな少しでも早く模擬店に行きたいものね。

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2017年3月22日 (水)

三月歌舞伎座昼の部

321日 三月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)
今月、私の歌舞伎座はこの日が初日。自分の健康がちょっと怪しくなりかけていたので無事見られるか心配したが、早起きもできたし、苦手な昼の部の割にほとんど寝なかったし、春の珍事というほどでもないか(でも春眠暁を覚えずって言うから)。
ちょっと不満は、筋書きに舞台写真が入っていない‼ 21日なのにどういうこと? おまけに、いつ入るかという連絡も来ていないって。夜の部観劇まで待ちぼうけだわ。
「明君行状記」
5
6分経った頃遅刻者がちょこちょこ到着してちょっと集中力がそがれた(この日は半蔵門線にトラブルがあったから、いつもより遅刻の人多かったのかも)。で、そこで話が途切れたが、その後はぐいぐい引き込まれ、面白くて面白くて夢中になって見た。
何と言っても梅玉さんが素敵な殿さまで、初めて「御浜御殿」を見た時の梅玉さんを思い出して、やっぱり梅玉さん大好きとあらためて思った。人を見る目の確かさ、温情、大きさは綱豊卿、苛立ちは「頼朝の死」の頼家、殿の本当の心を知りたいと言われる立場は青山播磨と重なる。どの役も梅玉さんが一番合っていると私は思う。この後の義経も梅玉さんがベストだし、新歌舞伎でも古典でも絶品の梅玉さんを見られて幸せ。
亀三郎さんはその美声でぐいぐい殿さまに迫っていく。死罪を望むその頑なさに光政公も手を焼いていたが、時に善左衛門を跳ね返し、時に懐深く受け止め、時に相手の懐深くへ切り込んでいく。その緩急自在な応対が時に客席に笑いを起こし、感動を呼ぶ。自分に向かって鉄砲を向けろ、引き金を引け、と善左衛門に向かって言い放ち、躊躇う善左衛門を叱咤するその気迫の凄まじさ。ほんと、カッコよかったわ~。一方の善左衛門のがちがちの一本気も決して嫌味ではない。それは亀三郎さんのアツく真っ直ぐな演技と声がそう感じさせたのだと思う(ただ、3階では時々亀三郎さんの声が籠って聞こえることがあった)。
敷居を挟んでやりとりしていた2人だが、突然光政公が「中へ入れ、ちこう来い」と呼んだときにも御浜御殿を思い出した。状況は違えど善左衛門もやはりなかなか敷居をまたげない。
最後、「人間として負けました!!」。
他の出演者では、新歌舞伎ではあるが、歌舞伎というよりは時代劇っぽく見えた役者さんもいた。橘太郎さんがやっぱり役の心を摑んでいてよかった。
ところどころで、気がついてみると涙している自分がいた。
「義経千本桜 渡海屋・大物浦」
仁左様カッコよすぎ。颯爽とした出(と言っても花道七三からしか見えなかったが)、相模五郎と入江丹蔵に対する姿の大きさ、浴びせる言葉のカッコよさ。門出の舞を舞い納めると「知盛早う」と天皇。「ははぁ」と受ける知盛の声には喜びが籠められているようだったが、一方で白装束での引っこみには悲壮さも感じられ、勝利を目指しながら死を覚悟しているのだと思った。弁慶にかけられた数珠をけがらわしいと引きちぎった知盛に天皇が「我を供奉なし永々の介抱はそちが情け、今また我を助けしは義経が情け、仇に思うなこれ、知盛」と声をかけた時、大事に大事にお育てしてきた若君がこんなに立派になったと、知盛の張りつめていた力がふっと抜けたように見えた。「昨日の敵は今日の味方、あら嬉しや」では泣けた。碇が重そうで重そうで、ああ知盛は本当に力尽きるまで戦って、今最後のわずかに残った力を振り絞っているのだと、胸が痛くなった。

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2017年3月14日 (火)

歌舞伎堪能、「伊賀越道中双六」

313日 「伊賀越道中双六」(国立劇場大劇場)
前回公演(平成2612月)以上に面白く、かなりのめり込んで見た。最近、歌舞伎すら出かけるのが億劫になっている私だけど、やっぱり歌舞伎は見たら一番‼ もう一度見たくなっちゃうのだ。とくに上質の芝居を見ると、時間の長さも感じないし。田舎住まいが恨めしく感じられる。さくらまつりが始まってからもう一度見たいけど、その頃は予定が詰まっているのだ。国立のさくらまつりはいつも逃すわ。

「行家屋敷」の場では橘三郎さんの行家の厳格さ、思慮、子への愛、厳格なだけに股五郎への怒りが舞台をぐっとしめた。
今回は、「円覚寺」が入ることによって敵方の卑劣さがより浮き彫りになり、敵討ちの必然性と人間模様に加え勧善懲悪の面白さが増した。「円覚寺方丈」では悪人たち(沢井股五郎の錦之助さんも沢井城五郎の吉之丞さんも)の線の太さが緊張感を醸し、その憎らしさにこちらも敵討ちの機運が盛り上がった。最後、盆が回った時の4人(だったかな。吉之丞、錦之助、歌昇=近藤野守之助、又五郎=佐々木丹右衛門)は文楽人形のように見えた。
「藤川新関」では、又五郎さんが芸達者なところを見せる。前の場で悪人どもにやられ無念のうちに息を引き取った丹右衛門をきっちり演じていたのに、この場ではその名も「助平」、遠眼鏡に夢中の情景描写、1人で長台詞で客を笑わせ、場をもたせる。真面目な又五郎さんらしく、行儀よくその可笑し味を出していて、この助平なる人物の気のよさを感じた。悶絶した後、お袖に水をかけられて気がつき、「どうぞこの場のことはご内聞に」と客席に向かって手を合わせると、客席から拍手が起きた。
「竹藪」ではかわいそうに、志津馬に手形を取られてしまったために関所破りとして捕り手に捕まってしまった。ここの立ち回りはだんまりになって、又五郎さんが解かれた帯で長縄跳びをしたりして面白かった。
菊之助さん(和田志津馬)は音羽屋の華やかさと播磨屋の地道さがうまくマッチして、一座によく溶け込んでいると思った。お袖を利用しようとする心も見えた。米吉クンのお袖は色気は薄いものの、一目ぼれした志津馬への一途な思いが初々しくていじらしかった。そのウブさが志津馬の、お袖を利用しようとする心を押したのではないか。髪をおろしたお袖が哀れであった。2人が相合傘になった時、「御両人」と掛け声がかかった。

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2017年2月27日 (月)

二月歌舞伎座夜の部再見

226日 二月大歌舞伎千穐楽夜の部(歌舞伎座)
二度目の夜の部。さすがに千穐楽、幕見は「太十」でも立ち見が出るほどだったし、「梅ごよみ」でもいたかも。二度目なので簡単に。
「門出二人桃太郎」
前回は花道の見える席で舞台の上手側が見切れる席だったが、今回は正面で花道は七三ぎりぎり。おかげで、前回見えなかった桃の流れてくるところがよく見えた。遠くから近づいてくるということで、黒衣さんの扱う桃の大きさが3段階で大きくなるのが客席の笑いを呼んでいた。なんかほのぼのしてよかったな、あの桃の流れは。
犬、猿、雉の踊りは前回はややバラバラだったが、今回はちゃんと揃っていた。
口上は前回とほぼ同じだったと思うが、染五郎さんの「二人の今後は皆様が生き証人」に笑いが起きた。私は生き証人になれないから、若い皆様に託します。芝翫さんが「泉下の兄も喜んでいる」と言った瞬間、どっと涙が湧いてきた。
桃太郎出陣のとき、勘九郎さんが2人の後ろで一つ一つの動き、セリフを確認するように頷いていたのが印象的だった。2人の花道引っこみを彌十郎さんが両手を振って嬉しそうに見送っていた。
勘太郎クンはすっかり立派に役をこなしていた。長三郎クンはややマイペースな感じだが、おにいちゃんに従って頑張っていた。2人ともとにかく可愛い可愛い。
松緑さんが長三郎クンを近くでしっかりあたたかく見守っていた。
「尼ケ崎閑居」
前回だいぶ寝てしまったので今回は絶対寝ないぞと心していたのに、リベンジどころか、今回のほうがもっと寝てしまった(この時間帯、うちでも寝ていることが多い)。本当に申し訳ないし、情けない。わずかに目をあいていた範囲でだが、鴈治郎さんには前回ほど抵抗感は覚えなかった。
「梅ごよみ」
菊之助さんの、男を待って柱に寄りかかる姿、男にすり寄る動き、しゃがんで手水を使う仕草、すべてが美しい。その点で勘九郎さんが及ばないのはやむをえないが、一方で勘九郎さんには心意気、きっぷのよさがある。下駄で打ち据えられた悔しさには私も胸がかっかっした。「夏祭浪花鑑」のお辰を又見たくなった。
歌六さんがカッコいい。女どうしの厄介な揉め事を収める度量、深川で生きる男の意地と正義、柔らかさと硬派なところと。こういう役は歌六さんを措いてほかにいないかもと思った。
染五郎さんはモテ男の曖昧な心(やさしいんだろうなあ)を自然に見せていて、まさに丹次郎=染五郎みたいだった。
それにしても丹次郎に半次郎、聞き間違えるわ。
<上演時間>「桃太郎」38分(16301708)、幕間25分、「尼ヶ崎閑居」72分(17331845)、幕間30分、「梅ごよみ」序幕9分(19151924)、幕間5分、二幕目・三幕目78分(19292047
前回見たときより3分短縮されていた。「尼ヶ崎閑居」が1分、「梅ごよみ」の二・三幕目が2分。

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2017年2月18日 (土)

「四千両」幕見でリベンジ

217日 二月大歌舞伎昼の部幕見「四千両小判梅葉」(歌舞伎座)
この前寝てしまったのでリベンジ。1335開演で13時前に着いて、幕見の入口に立っていた係の人に「四千両、まだ大丈夫ですか」と声をかけたら「余裕です」って。38番目だったが、確かに余裕で目指す席も確保できた。一方で、夜の部の幕見発売を待つ人たちの列がすごかったな。

さて、四千両。あらためて、けっこう長い時間寝入っていたのだと我ながら呆れた。まあ、ところどころ、ほとんどながら一瞬目覚めていたようで、記憶のある場面もいくつかあった。今回は役名で色々書くけれど、当然役者さんの演技がそう思わせるのである。

序幕「四谷見附外の場」。前回も書いたが、今は屋台のおでん屋をやっている富蔵(菊五郎)の昔の中間仲間(橘太郎、咲十郎)が本当に江戸の風情をうまく出している。茶碗の中まで指を突っ込んでなめまわしたり、酒やおでんの味噌をうまそうに口にしたり。富蔵は商売人としての面と昔の仲間としての面の両方を見せて面白い。
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人が去った後やってきた藤岡藤十郎(梅玉)に対してはワルの先輩としての図太さでおちぶれたお坊ちゃんの無謀な計画をたしなめる。富蔵が時々見せる凄みが効いており、富蔵と藤十郎の会話で2人のこれまでの人生や性格が垣間見える。御金蔵破りを持ちかけ、仰天した藤十郎が思わず「御金蔵?!」と叫ぶと慌てて「おでんや~おでん、甘いのからいの」とごまかす富蔵が面白い。
そこへ姿を見せた藤十郎の恋敵・徳太郎(錦之助)と掏摸の長太郎(菊之助)。4人のだんまりになるが、緊張感があって面白かった。この場面は、23カ月前の初見の記憶がなかったが、当時の徳太郎が松也さんだったことでな~んとなく思い出したような…。後に富蔵の牢に入ってくる長太郎の伏線になっているわけね(牢内の長太郎の挨拶ではこの後、富蔵と長太郎に別の出会いがあったようでもあるけど、自信ない)。
「藤岡内の場」。重い重い千両箱をやっとの思いで運んできたという感じが富蔵からも藤十郎からもよく出ていた。ちょっとした物音にもびくつく2人ではあるが、富蔵の落ち着いた見通しは堂々とした盗人らしさである。富蔵は主人を立てつつ盗人としては主導権を握っている。藤十郎が「(富蔵の)度胸がよすぎるんで怖くなった」と富蔵に斬りかかる気持ちはわかるような気がする。藤十郎にしてみれば、身のほど知らずの盗みをしちゃったのだ。主人として立てられているから主人らしい気分もあるが、実はビビりまくって富蔵がいなければ何もできないのだ。畳を上げ、板を剥がすときに大きな音が出るとすかさず「おでんや~おでん、甘いのからいの」と富蔵。「富蔵、ここはうちじゃ」と笑う藤十郎。2人の関係性が面白い。

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2017年2月15日 (水)

二月歌舞伎座昼の部

213日 二月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)
ちょっと事情がありまして、「猿若江戸の初櫓」はパス。過去に2度見てはいるのだけれど、どんな内容だっけ…と前回(201111月平成中村座)の出演者を見ているうちに思い出した。猿若と出雲の阿国(勘九郎・七之助)と奉行(彌十郎)は前回と同じだが、その他の役は変わっているし(新・橋之助さんは当時も出演)、もちろん演じる人によって芝居の雰囲気も違ってくるだろうから見たかったんだけど…。
「大商蛭子島」
これは初めて。前回公演が19691月の国立通しだからそれも当然だ。おおそうか、この時正木幸左衛門実は源頼朝を演じたのが二代目松緑さんだったのか。今回その役を四代目松緑さんが演じているとは、今月は昼の部でも「桃太郎」的な先々代からのつながりが見られるわけだ。
なんかよくわからないけれど、しょうもない女好きの夫と激しい嫉妬妻→愛する人のために身を引く妻→どろどろの情念から逃れられない元妻→仏の力で厄が落ちてハッピーエンドって流れだった。
嫉妬妻おふじ実は辰姫・時蔵、女好き夫・松緑、その下男六助・亀寿という3人組は、役柄は違えど先月の合邦パロディの場面と同じ。時さまは先月は松緑さんとの年齢差を感じたから(役の上で年齢差があるからそれは当然だけど)、夫婦役で大丈夫かなあと懸念したが、若々しくて案外似合いの夫婦じゃんと思った。それにやきもち焼きにもけっこうかわいいところがある。まあ、男性にしてみたら鬱陶しいだろうけど。でも、奥さんの目の前で手習いの女の子たちを口説くんだから、おふじさんが鬼のように怒るのは道理だわ。
清滝(児太郎)が政子(七之助)と頼朝の「祝言の支度ができました」と言うのを聞いたおふじ=辰姫は自ら身を引いたとはいえ寂しそうで、女心の複雑さが感じられた。その後、夫と政子がすぐそばで「さあ、寝ましょ」なんてやっているのを見て(歌舞伎って、限られた舞台の中でここはこれくらい広い場所で、こことここはかなり離れているとかいうお約束があるけれど、幸左衛門の家はそんなには広くないのかしら。すぐそばで、だとしたらそりゃあ狂いたくもなるわ)理性と嫉妬の間で苦しむ辰姫。有名だという「黒髪」の場面になる。「待ってました」の大向こうがかかった。時さまの芸風がさっぱりしているので全体にドロドロ感がくどくなくて、私にはちょうどいい塩梅だったが、肝心の黒髪のところはもっとどろどろした感情を表してもよかったんじゃないだろうか。
幸左衛門って、せめて奥さんの前では控えなさいよ、と言いたくなるほどしょうもない女好きなんだけど、松緑さんには清潔感があって、いまいち好色さがぴんとこない。そのせいもあってか、松緑さんは幸左衛門よりも頼朝になってからのほうがずっとよかった。
政子はおっとりといじらしく、「政子」としてはイメージが違った(政子もかなり嫉妬深かったんじゃなかったっけ?)けれど、七之助さんのイメージにはぴったり。愛らしかった。
清滝の児太郎クンに感心した。政子より年長らしい落ち着きとしっかりした面がよく出ていた。清滝もおふじ同様相当気が強く、そのあたりも児太郎クンが好演していたと思う(この気の強さも政子のほうじゃない?と1人ツッコミしていたが、この芝居では政子はあくまでおっとりさん)。
勘九郎さんの文覚上人が堂々としてカッコよかった。声がよく大きく、透るのでわかりやすいのもよかった。
亀寿さんと團蔵さんは敵だったのかぁ。
けっこう面白くて、珍しく寝ずに見られた。

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